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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

潔癖症の私が死んで異世界転生したら ~無理です! こんな不衛生な場所で生きていくなんて私にはできません!!~

作者: 幻世

「無理です! こんな不衛生な場所で生きていくなんて私にはできません!!」

私は思わず大声で叫んでしまった。

青い空、白い雲、燦々と輝く太陽、澄んだ空気、清らかな川、豊かな大地、しっかりと根を張って生い茂る樹木、普通に考えればこんなに自然に恵まれた環境はないだろう。

だが、私の目には大気や水質や土壌にいる微生物たちがうようよいるようにしか見えない。

周りに自然以外ないかと見れば草原の中に家が一軒あるだけ。

清爽な世界を望んではいたが、私は素直に喜ぶことはできない。

なぜならいつも私が愛用している衛生グッズがないからだ。

「マ、マ、マ、マスクはどこ? 合羽は? 手袋は? ど、ど、ど、どうすればいいの?!」

頭の中を混乱させながら地面を見る。

そこには花が咲いていた。

普通の一般人の感覚なら綺麗という言葉が出てくるだろう。

だけど私から見たその花は違った。

「ひいいいいいぃ・・・む、虫がいるかもしれない! さ、殺虫剤はどこ?!」

私の頭はますます混乱した。

「な、なんで私がこんな目に・・・」

目に涙を溜めながら私は少し前のことを思い出す。


私は前の世界では現代日本で生きる普通とはかけ離れた高校一年生。

両親は共働きで家に帰ってくるのは月に1度あるかないか。

そんな私は毎日嫌々ながら学校に通う。

朝4時、起きたらすぐに制服と清潔な下着を持って風呂場に行き、身体中をボディソープで洗う。

清潔な下着、制服の順番に身に着けると次に食事にするべくキッチンへ行く。

冷蔵庫から食材を取り出すと食物はもちろん加熱調理し、飲物も未開封のペットボトルを開けて飲み口を綺麗に拭き、食器も可能な限り熱湯で殺菌する。

こうしないと安心して食べられないからだ。

簡素な朝食を済ますと食器を片付け、部屋に戻るとかぶるタイプのフェイスマスク、帽子、ゴーグルを身に着け、透明な合羽を羽織り、使い捨ての手袋をはめる。

普通の学生からしたら異常な出で立ちだ。

これのおかげで警察官に捕まって何度職質されたかわからない。

鞄の中に勉強道具と除菌シート、除菌スプレー、500ミリリットルの未開封ペットボトルの飲料水、500ミリリットルのお湯が入った魔法瓶、それと完封包装されたカップラーメンと同じく完封包装された割り箸をいれてから家を出る。

私の通う学校は電車通学でないといけない場所にあった。

通勤時間になるよりも前に電車に乗ると座席には座らない。

私が利用する在来線は揺れが酷く、持っている除菌シートでつり革を拭いてから握る。

殺菌もしていない、まして誰が握ったのかわからないのを平気で握るほどの根性は私にはない。

無事に登校すると教室に入る。

時間は朝7時、もちろん誰もいない。

私は自分の席に行くとまずは除菌シートで自分の机や椅子を綺麗に拭く。

拭き終わると椅子に座り授業が始まるまでは勉強に勤しむ。

朝が早い分、夜も早いのだ。

この時間を利用して予習・復習・宿題をやっている。

しばらくすると日直の子が登校してきた。

私を見るなり驚いている。

人によっては話しかけてくるが、私は最低限の挨拶だけしてそれで終わりだ。

なぜなら相手が話せばその分だけ飛沫が空気中に拡散される。

病気を持っていないと思うが、それでも飛沫感染により病気になる可能性は十分にあるだろう。

周りは私を変人扱いするが、私は気にしていない。

学校に来てから昼休みまでは一度もフェイスマスク、帽子、ゴーグル、合羽、手袋を外すことはないのだから。

体育の授業はどうしているかというと全部欠席している。

もちろん体育の成績は常に最低だ。

過去に体育教師が無理矢理参加させようとしたが、私はその教師に護身用のスタンガンで滅多矢鱈と押し付けたことがある。

それ以降、体育教師が私を参加させてくることがなくなった。

このことは私の両親も知っている。

私のことを考えて無理にやらせようとはしなかった。

昼休みは自分が持参したカップラーメンにお湯を注ぎ、1人黙々と食べる。

体育の時と同じくちょっかいを出してくる者がいたが、徹底的に叩き潰したことで食事をする私に話しかけてくる者は誰もいない。

午後の授業が終わると掃除当番でもない限りはすぐに帰る。

部活? なんですかそれ? そんな無駄になりそうなことに費やしている時間は私にはないですよ。

私は自宅のある最寄り駅まで戻ってくると駅前の大型ショッピングモールに足を運ぶ。

店内にあるカート置き場のところに行く。

カートの持ち手の部分を除菌シートで拭いたら、ネットチラシで見た特売品を求めて食材コーナーへ移動し、飲料水や食材、それにカップラーメン12個入りの箱1つをカートに入れた。

石鹸、洗剤、除菌シート、除菌スプレー、消毒液、殺虫剤が不足している場合は追加でカートに入れる。

必要な物を全部入れたらそのままセルフレジへ。

支払いはペイ払いで完封包装された割り箸12膳+家で使用する分2膳以上を付けるのを忘れない。

家に帰ると最初にすることは玄関先で除菌スプレーを散布することだ。

それが終わると食材を冷蔵庫に入れ、部屋に戻ると鞄を置き、家中の掃除をする。

掃除が終わると部屋に一旦戻り制服を脱いでハンガーにかけ、部屋着と清潔な下着を持って風呂場に行き、身体中をボディソープで洗う。

清潔な下着、部屋着の順番に身に着けると脱衣所にある洗濯機に使用済みの部屋着、寝間着、下着を入れて洗濯を開始する。

その間に食事にするべくキッチンへ行く。

簡素な夕食を済ますと食器を片付け、脱衣所に行き洗い終った洗濯物を干し、乾いた洗濯物を持って部屋に戻り洋服箪笥に洗濯物をしまう。

あとは家中の電気・ガス・水道を確認し、戸締りをしてから部屋に戻り寝間着に着替えて早めに就寝する。

これが私の1日のルーティーンだ。

ここまで見ていただければ私が潔癖症だということは一目瞭然だろう。

潔癖症とわかっているのになんで通信制の高校にしなかったんだろうと私は激しく後悔している。


そんな私だがある日学校に向かう途中トラックが私に突っ込んできた。

気付いた時には目の前まで来ていて、とても避けられるようなタイミングではない。

私はそのままトラックに撥ねられた・・・

「ぅぅん・・・ここは・・・」

意識が戻った私だが何かがおかしい。

そこは河原だった。

目の前には広大な川が流れている。

着ている服も制服から白装束になっていた。

「え? 私いつの間にこんな服を着ているの? 気持ち悪い! 早く脱がないと!!」

私は白装束を脱ごうとするが、身体にぴったり張り付いて脱げない。

「やだぁ・・・気持ち悪いよ・・・なんで脱げないのよ・・・」

こんな誰が着せたかわからない服を着るのは耐え難い。

私が服を脱ごうとしていると女性の声が聞こえてきた。

『気が付きましたか?』

「ひいいいいいぃーーーーーっ!!」

声がするほうを見ると女性が大きな鎌を持って立っていた。

「こここここ・・・」

『?』

「殺される! いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」

私はその場から逃げようとした。

だが、女性に手首を掴まれてそのまま引き摺られる。

『こらどこに行くの! これから閻魔様のところに行くのですから!!』

「えええええ閻魔様って誰?! 私をどうするの?!」

『行けばわかるから少し黙ってなさい!』

「いやあああああぁーーーーーっ!! やめてえぇっ!! 助けてえええええぇーーーーーっ!!」

私は女性から逃げようとするが、あまりの握力に振りほどくことすらできない。

女性に引き摺られるままやってきたのは立派な屋敷だった。

中に入ると一本道になっており、そのまま進むと大きな扉が現れる。

扉が開き中に入るとそこには1人の女性が机で仕事をしていた。

『閻魔様、次の人間を連れてきました』

『ご苦労様』

そこには独鈷を持った女性が座って待っていた。

『ええと・・・あなたのお名前は?』

「こ、個人情報なのでお伝え出来ません!!」

プライバシーの侵害なので私は答えることを拒否する。

しかし、ここに連れてきた女性が私に事実を突きつけた。

『個人情報? 何を言っているんですか? 死んだあなたにプライバシーも何もありませんよ?』

「死んだ?」

『あなたはトラックに撥ねられて即死したんです』

「嘘・・・」

あまりの出来事に私は衝撃を受けた。

そんな私に女性は更に追い打ちをかける。

『それに閻魔様に対して虚言や拒否をすれば地獄に落ちますよ』

「じ、地獄?」

『ここは死後の世界にある裁判所です。 生前の情報を基に質疑応答し、あなたの応対により閻魔様が天国か地獄のどちらかに行くか判決を言い渡します』

「そ、そんなぁ・・・」

プライバシーなことを言うのは嫌だ。

だけど地獄に落ちるのはもっと嫌だ。

閻魔と呼ばれた女性は優しい声でもう一度私に尋ねた。

『もう一度お尋ねします・・・あなたのお名前は?』

「・・・私の名前は●●●です」

私は自分の生前の名前を口にする。

『●●●さんね。 ちょっと待ってね。 ●●●、●●●・・・えっと・・・あったあった・・・あれ?』

閻魔は手元に置いてある資料から1枚の紙を取り出し読んでいると不思議そうな声を上げた。

それから私と紙を見比べる。

『えっと・・・●●●さんで間違いないのよね?』

「そうですけど・・・」

年齢(享年)は?』

「・・・16です」

『16・・・』

閻魔は眉間に皺を寄せて考え込む。

(わ、私・・・何か失礼なことを言ったの?)

怯える私に再度閻魔が尋ねる。

『あなたは●●●さんで間違いないのよね?』

「は、はい・・・」

閻魔が手元の資料を見ながら唸りだす。

(嘘はついていない! ついていないんだから!!)

地獄に落ちたくない私は心の中で叫んだ。

『ちょっと待ってね、今連絡を取るから』

それだけ言うと閻魔は電話の受話器を取るとどこかに連絡する。

『・・・あ、もしもし、こちら地獄の裁判所の閻魔ですけど、ちょっとお聞きしたいことがありまして、こちらに●●●さんが来られまして・・・』

電話の相手先に私の名前が伝わっていく。

年齢(享年)ですか? ●●●さん本人は16と申していますが・・・はい、出身地ですか? 少々お待ちください。 ●●●さん、生前のお住まいはどちらに?』

受話器から話すと生前の住所を尋ねられる。

「■■■です」

『■■■ですね。 あ、もしもし、本人に確認したところ■■■です。 ・・・はい、はい・・・え? 今からですか? わかりました、お待ちしております』

受話器を置くと閻魔は私に声をかける。

『今先方に連絡したら急いでこちらにやってくるそうなのでちょっと待ってください』

「は、はい・・・」

それから5分後、私たちの目の前に突如として光の魔法陣が現れる。

(え? 一体何が起きてるの?)

しばらくすると光の魔方陣から2人の女性が現れた。

1人は背後に光輪を輝かせた神様っぽい女性で、後ろに控えているもう1人は頭上に輪っかと背中に羽がある天使っぽい女性だ。

『お待たせしました』

『お待ちしておりました』

『それで・・・そこの人間が(くだん)の・・・』

『はい。 ●●●さん、年齢(享年)16歳です』

閻魔は光輪を輝かせた神様っぽい女性に資料を渡す。

それに目を通していくと神様っぽい女性(上司)は蟀谷を抑えて溜息を吐く。

それから後ろに控えている天使っぽい女性(部下)に声をかける。

『あなた! また間違えたの!!』

『も、申し訳ございません!!』

『毎度毎度間違えるとか・・・それも今度のは取り返しがつかないことよ?』

『本当に・・・本当に申し訳ございません!!』

天使っぽい女性(部下)神様っぽい女性(上司)に何度も謝る。

『私に謝ってどうするんですか? 謝るならここにいる●●●さんでしょ?』

『●●●さん、本当にごめんなさい!!』

天使っぽい女性(部下)は私に何度も頭を下げる。

「あの・・・あなたたちが何者で私に何が起きたのか説明してもらいたいのですが・・・」

当事者である私には何が起きているのか聞く権利がある。

『あ、申し遅れました。 私は天界の神々を束ねる創造神です。 この娘は終生管理部で、まぁ今回の・・・問題を起こした神見習いです』

『ごめんなさい! 本当にごめんなさい!!』

創造神の言葉に神見習いは私に謝り続ける。

『事の発端ですけど、この娘(神見習い)の杜撰な管理で本来ならあなたと同じ■■■にお住いの同姓同名の●●●さん御年100歳を迎える高齢の方が寿命を全うする・・・はずでした』

「それって・・・」

『はい。 ご想像の通り、同姓同名の●●●さんの寿命が100歳、そしてあなたの()()の寿命も100歳です。 この娘(神見習い)は寿命しか見ておらず、肝心の実年齢を見ずに処理してしまったのです』

「嘘でしょ・・・」

私は奈落に突き落とされる感覚を覚えた。

「い、今からでも私を元に戻してくれませんか?」

私の言葉に創造神は首を横に振る。

『申し訳ないのですが、●●●さんを元の肉体に戻すことはできません。 なぜなら同じ世界に転生させるには100年単位の月日が必要なのと、申し難いのですがあなたの肉体はもう火葬されてしまったようで・・・もう少し早ければあなたの肉体をすり替えることもできたのですが・・・』

「そ、そんなぁ・・・」

創造神の言葉に私は膝から崩れ落ちた。

仮に100年後に生き返るのを確約されても、肉体が生気を保てず朽ち果てた不死者(ゾンビ)や骨だけの骸骨(スケルトン)、ましてや肉体をもたない幽霊(レイス)では意味がない。

「そ、それなら私はて、天国に行けるのですか?」

私が質問すると創造神はまたも首を横に振る。

『申し訳ないのですが、今あなたを天国にお連れすることはできません。 かといって地獄に落とすのも違う気がします。 本来であれば84年後にあなたは亡くなる予定だからです』

「では私はどうなればいいんですか?」

『そこで考えたのですがあなたには私が創った世界の1つに転生してもらいます』

「転生ですか?」

私の疑問に創造神が答える。

『はい。 そこはあなたが住んでいた場所(地球)よりも環境に優しい世界です』

「そうなんですか?」

『あなたが暮らしていた場所(地球)と違い、大気も水質も土壌も汚染されていません。 争いもなく環境を汚すようなことは一切ない世界です』

「ほ、本当ですか?! そんな清潔な・・・夢のような世界があるんですか?!」

創造神は大きく頷いた。

『ええ、そこで100歳・・・あと84年を生きてみてはいかがですか? もちろん私の部下が全力でサポートさせますので』

創造神が神見習いを見る。

『あの・・・もしかして私がサポート役ですか?』

『当たり前でしょう? あなたの手違いで無辜な人間が亡くなったのですよ? 本来なら極刑を与えてもおかしくないことです』

『ひいいいいいぃーーーーーっ! わ、わかりましたっ!!』

『いいですか? これから84年間は●●●さんのサポートを命じます。 わかりましたね?』

『は、はいっ! 是非ともやらせていただきますっ!!』

神見習いが何度も創造神に頭を下げる。

『●●●さん、何かあればこの娘(神見習い)があなたをサポートしてくれます。 なんでも申しつけてください』

「わ、わかりました」

『それとせめてものお詫びに●●●さんの望みで私ができる範囲のことをできるだけ叶えてあげましょう』

私は望みがピンとこないので質問する。

「どういうことができるんですか?」

『例えば魔法なら基本の四大元素魔法を始め、光や闇といった陰陽なものや生活に事欠かせないものまでなんでもあります。 肉体なら健康な身体、引き締まった身体、異性を惹きつける身体などですね。 ほかにも腕力、脚力、知恵、器用さ、運などの状態もあります』

「あのぉ・・・例えばですけど火葬された私の肉体・・・じゃなかった骨の一部を使って私の肉体を完全に再生させることはできますか?」

『可能です』

「それなら・・・」

私は思いつく限りのことを創造神にお願いする。


・私の骨の一部から肉体を完全再生してもらうこと。

・再生した肉体は常に健康な身体であること。

・再生した肉体には毒物や細菌や病原菌といった外部からの毒物・菌全般を一切受け付けないこと。

・転生先は害虫、害獣を絶対に寄せ付けない、かつ、人が絶対来ない場所であること。

・住居は無菌の家が欲しいこと。

・どんなことをしても絶対に汚れない衣類を一生分提供してもらうこと。

・魔法は制限がなければ可能な限りすべての魔法が使えるようにしてもらうこと。

・転生前の地球にある包装済み食物・飲物と、できればインターネットやゲームといった娯楽を無償で提供してくれること。


「こ、こんなところでしょうか・・・」

私は恐縮しながら創造神を見る。

『・・・わかりました。 私も自分の発言には責任を持ちます。 ●●●さんが今言われた願いを聞き入れましょう』

「ほ、本当ですか?! ありがとうございます!!」

『それでは早速準備をしましょう』

創造神が右手を前に差し出すと(スタッフ)が現れて、それを手に取ると力を注いだ。

すると目の前に骨が転送されてきて、それからその骨が光りだすと見る見るうちに大きくなりやがて目の前に私の肉体が再生された。

気のせいか私の身体が神々しく光っている。

それから創造神が私に(スタッフ)を向けると光が襲ってきたので慌てて目を閉じた。

しばらくしてから目を開けると私は創造神が作った肉体に宿っている。

先ほどまで私がいた場所には何もなく、今までは魂だけの状態だったらしい。

創造神の(スタッフ)が光ると私はいつの間にか服を着ていた。

これも肉体と同じように神々しい力を感じる。

『さて、転生の準備が整いました。 ●●●さん、転生してもよろしいですか?』

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!!」

私は深呼吸する。

(落ち着け私。 落ち着くんだ)

何度か息を吸って吐いてを繰り返す。

(よしっ!!)

手でペチペチと顔を叩くと気合を入れる。

「お、お願いしますっ!!」

『それではこれより●●●さんを私が管理する世界の1つに転生します。 これから84年間精一杯生きてください』

「ありがとうございます」

『それでは良い人生を謳歌してください』

創造神の(スタッフ)が光ると私の意識がだんだんと沈んでいく。


意識が浮上してきたので目を開けるとそこは自然あふれる清爽な場所。

いくら衛生面では地球を凌駕していようが自然にあるものは危険がつきものだ。

「無理です! こんな不衛生な場所で生きていくなんて私にはできません!!」

私は思わず大声で叫んでしまった。

よくよく見るといつも愛用している衛生グッズがないからだ。

「マ、マ、マ、マスクはどこ? 合羽は? 手袋は? ど、ど、ど、どうすればいいの?!」

頭の中を混乱させながら地面を見る。

そこには花が咲いていた。

普通の一般人の感覚なら綺麗という言葉が出てくるだろう。

だけど私から見たその花は違った。

「ひいいいいいぃ・・・む、虫がいるかもしれない! さ、殺虫剤はどこ?!」

私の頭はますます混乱した。

「な、なんで私がこんな目に・・・」

目に涙を溜めながらも私は草原にある家に入るとすぐに鍵を閉める。

「はぁはぁはぁ・・・なんで? 大気も水質も土壌も汚染してないって言ってたけど自然だけしかないなんて聞いてない!!」

たしかに都会の空気と比べたらとんでもなく新鮮で澄んだ空気だけど、こんな自然だけしかない場所では衛生グッズなんて手に入らない。

「そ、そうだ、マスク、石鹸、洗剤、除菌シート、除菌スプレー、消毒液、殺虫剤、どこにあるの?」

私は創造神が用意してくれたであろう家を調べ始めた。

家自体は私が地球で生きていた頃の家にそっくりなので同じ場所を調べる。

すると同じ場所にいつも愛用している物が置かれていた。

「よ、良かったぁ・・・」

私は安堵からかその場に崩れ落ちる。

もし何もなければどうやって生きていけばいいのかわからなかったからだ。

『だ、大丈夫ですか?』

「ひいいいいいぃ・・・」

声がしたほうを振り向くとそこには神見習いがいた。

『そ、そんなに怯えなくても・・・』

「だ、だって私以外に家にいるから・・・」

『私、●●●さんのサポート役にされたんですけど・・・』

神見習いは悲しい声で愚痴をこぼす。

私は先ほどまでのことを思い出す。

「そうだった・・・あなたがサポート役になってくれるんでした」

『あの・・・これから84年間この世界で暮らしていくのですが大丈夫ですか?』

神見習いの言葉を聞いてあと84年もあることに私は改めて絶望する。

「・・・ダメ・・・あと84年も耐えられない・・・」

今の私は1分1秒でも耐えきれない。

「お願い! なんとかして!!」

『なんとかって・・・はっきり言いますとこの世界以上の衛生的な世界は存在しませんよ。 それこそ神域くらいなものです。 といってもあの場所は衛生というよりも静寂に満ちた場所ですけど』

私の言葉に神見習いは困った顔で答えた。

「そ、そんなぁ・・・」

『それに●●●さんの潔癖症はあまりにも酷すぎます』

「潔癖症ってこれくらい普通じゃないの?」

『普通じゃありません。 ●●●さんのは度を通り越して異常です』

神見習いは私の考えを全否定した。

『●●●さん、これから少しずつでもこの世界に慣れましょう』

「具体的には?」

『この家を出て自然と共に生きていくのです』

「自然と共に? 無理っ! 無理無理無理っ!!」

神見習いの提案に私は顔面を蒼白させて頑なに拒否した。

「外の世界が怖いんです。 もうこれ以上振り回されたくないんです。 このままここで一生暮らします」

私はここに引き籠もりを宣言する。

それから私は84年間、神見習いのサポートを受けながら家から1歩も出ずに生活するのであった。


死後の世界───

●●●と神見習いの様子を見ていた創造神と閻魔。

『●●●さんがあそこまで潔癖だとは思いませんでした』

『潔癖症であるという認識を剥奪したほうがよろしいかったのでは?』

『あ!』

閻魔の一言に創造神が思わず叫んでしまう。

『そ、そういう考え方もありですね』

『今更ですけど●●●さんの潔癖症を剥奪するのですか?』

『もう第二の人生を始めてしまったので直接手を出すのはさすがに・・・』

●●●の肉体は創造神特製なので、直接会って変更しない限りは潔癖症を剥奪することはできない。

下手に創造神が下界に降臨すれば無用な混乱を与えるからだ。

このあと、創造神と閻魔は●●●の84年間(第二の人生)を見守ることしかできなかった。


84年後、●●●は寿命を迎え死後の世界にやってくる。

本来なら裁判所で閻魔から判決を言い渡されるのだが、創造神の計らいで●●●の魂は天界へと呼ばれた。

このとき創造神は●●●の魂に刻まれた記憶と本人の潔癖症を完全消去し、新たな人生を送らせたのは言うまでもない。


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