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誓いの指輪  作者: たき
3/14

(3)

 盗まれたのは槍専攻一回生イドゥー・デランテの財布で、ジェソが財布を抜き取っているのを、同期生のラゴ・ベイスが見たと証言した。ジェソは否定したが、財布はジェソの持ち物から発見され、またラゴがオヌスの取り巻きではなかったことから、ジェソがやったという噂は確かなものとして広まり、ジェソは騒動の早い収束を望んで、自ら代表の座を降りた。結果、副代表だったオヌスが代表に昇格し、副代表にはジェソの親友でもあるカナル・ヴィダーレが就いた。

 カナルたちはジェソは無実だと信じたが、ジェソ側にいた多くの生徒がオヌス側に移り、オヌスが槍専攻一回生をほぼ掌握する形になったと、シータは昼休みにピュールから聞いた。

「あいつ、そんなことをする奴には見えなかったんだけど」

 トルノスが複雑そうな顔でつぶやく。代表生徒会などでジェソと話すようになっていたトルノスも、今回の事件にはかなり違和感を覚えたらしい。

「そのイドゥーっていう一回生は、ジェソ派なの? オヌス派なの?」

「オヌスの取り巻きだ。だが、ラゴはもともとジェソにくっついていたからな。そいつが言うなら本当だろうというのが、おおかたの意見だ」

 シータの隣で壁にもたれて腕を組み、ピュールがため息をついた。

「この前、兄貴も合同演習に来てオヌスと話をしたんだが、そのことでオヌスの親父がフォルリー先生に文句を言ったらしい。卒業生がいつまででしゃばる気だと……どうやらオヌスが、俺たち上級生から道理に合わない叱責を受けていると親父に泣きついたようだな」

 おかげでオルニスとプレシオは完全に怒ってしまい、三回生全員が一回生の指導を放棄しているという。

「オヌスの相手はピュールがしてるの?」

「向こうから来るんだ、仕方ないだろう」

 俺はどちらかと言えば、ジェソと打ち合うほうが面白いんだが、とピュールがぼやく。ピュールから見てもジェソはかなり筋がよく、期待の逸材だという。

 しかしあれ以来、ジェソは合同演習でも上級生と関わらず、一人黙々と素振りをしていると知り、シータは胸が痛んだ。さらに上級生たちが一回生に構わないのはジェソのせいだと、オヌスの取り巻きが非難しているというから、ますます腹立たしい。

「ラゴだったか。そいつは本当に嘘をついていないのか?」

 パンテールの問いに、ピュールはかぶりを振った。

「わからん。ジェソを陥れてラゴに得があるとは思えないんだが……今でも一応オヌスたちのそばにはいるが、端のほうでうつむいているだけだからな。ただ、カナルがどうやら裏で動いているようだ。ジェソはもう自分の境遇をあきらめているみたいで、オヌスたちに何を言われても反応していないんだが」

 副代表でもあるジェソの親友が真相を突き止めようとしているとわかり、シータはほっとしたものの、ラムダはこのことを知っているのかと心配になった。ジェソは学院で苦労していることを、家でほとんど漏らしていないという。ぼんやり考えていると、「あれえ?」と耳障りな声音が届いた。

「集まって何の相談ですか? ピュールさん、剣専攻生と仲がいいなんて、どうしちゃったんですか?」

 にやにやしながら寄ってきたのは、オヌスたちだった。

「別に特別親しいわけじゃない。同期生で同じ代表なら、会えば立ち話くらいするだろう」

「へええ、ピュールさんって前は剣専攻生を目の敵にしてたって聞きましたけど。女が代表になってから対応が変わったんですか?」

「何が言いたい」

 深緑色の双眸がすっと細まる。ピュールににらみつけられ、後ろの取り巻きはびくりと下がったが、オヌスは逆に薄笑いを浮かべた。

「そんな女でも黄玉の候補に載るくらいですから、ピュールさんも惑わされたのかと……ああでも、まったくかわいげがないですもんね。間違ってもピュールさんが引っかかることはないか」

 まったく、なんでこんな女が候補なんだかと肩をすくめるオヌスに、ピュールは舌打ちした。

「お前は馬鹿か。こいつが年がら年中、女らしさ全開でいたら、武闘学科は収拾がつかなくなるぞ。あんなのは一年に一回で十分だ」

 ぽかんとするオヌスたちを置いてピュールが去っていく。

「どういう意味ですか?」

 トルノスがパンテールを見上げる。パンテールはぼそりと答えた。

「あー……たぶん、交流戦後の舞踏会でわかるよ」



 その頃、武闘学科三回生は合同野外研修のため、ヒュポモネー山地を訪れていた。課題の採取を無事に終え、解放感にオルニスたちは大きくのびをした。

「あー、いい気分転換になったぜ」

「槍専攻は今、大変だもんね」

 オルニスと同じ組になっていたアルスが苦笑する。

「あのクソ野郎を思うと、去年のピュールなんてかわいいもんだ」

 オルニスの愚痴に、今はピュールもすっかり落ち着いて頼れる二回生になったからな、ともう一人の槍専攻生が笑う。

「代表になってからますます手がつけられなくなったな。近頃は俺たちが廊下を歩いているだけで、他の学科生が逃げていくんだぜ」

 どれだけ広範囲で威張り散らしているんだと、オルニスが歯がみする。

「本当のところ、どうなの? ジェソが盗んだとは思えないんだけど」

「あるわけないだろ。あれは絶対はめられたな」

 アルスの問いに、オルニスは顔をしかめて首を横に振った。事件が起きたとき、オルニスはラゴを追及しようとしたのだが、プレシオにとめられたのだ。先日オヌスの父親から苦情が届いたばかりだし、今自分たちが乗り出すとかえってこじれると。いかにも興味がないそぶりをしておいて、相手が油断したところで攻めに転じるというプレシオに渋々同意したものの、オヌスの顔を見ただけで蹴り飛ばしてやりたくなる。

「思い出したら腹立ってきた……いてっ」

 いらいらしていたオルニスは、左腕にちくりとした痛みを感じ、袖をめくった。何かにかまれた小さな跡がある。

「刺されたの? 薬塗る?」

 背負っていた袋の中をあさり始めたアルスに、「いや、いい」とオルニスは断った。もうすぐ集合時間だし、帰ってからひどくなるようなら治療すると。

 そのまま集合場所に向かったオルニスは、服のすそから這い出してきた小さな蜘蛛に気づかなかった。頭上の木の枝で、てのひら二つ分ほどの大きさの白い繭をくわえた鳥がじっとオルニスを見ていたことにも。

 


 夜、学院の教官室で仕事を片付けたシャモア・マルガリテース教官は、帰り支度を始めたとき、何か招かれざるものが落ちてきた気配に、びくりと肩を揺らした。

「――――…………?」

 学院の守りに触れたものがある。はじかれたか、突き破ったかまではわからないが。

 学院を闇の眷属や魔物から守るのは、大地の法担当教官の大事な務めの一つだ。生徒たちにとって好ましくないものが学院に入り込もうとすれば、大地の法の教官が一番に察知する。

 イフェイオン・ソルムの一件では、イフェイオンの策にかかり、異変を感じ取るのが遅れたが、二度と同じ失敗はしたくない。シャモアは唇を引き結ぶと、学院長室へと急いだ。



 三日後、自宅待機を命じられていた全生徒の登校が許可された。

 武闘学科三回生が野外研修から帰ってきた日、学院に何か異物が落ちたということで、捜索のため二日間休校になっていたのだ。結局見つかったのは鳥の死骸くらいだったが、シャモアは納得のいかない様子だった。

 登校してすぐオルニスは治療室に足を運んだ。水の法担当のケローネー教官がいたので左腕を見てもらうと、ケローネー教官はけわしい表情で一瞬黙り込んだ。

「これはー……あー、いつからですかー?」

「野外研修のときに、何かにかまれたみたいで」

「学院内ではー、ないんですねー?」

 いくぶんほっとしたさまで、ケローネー教官は塗り薬を用意した。

「オルニスはー、守護神はー」

「風の神です」

「それならー、大丈夫かとー、思いますー。もしー、水の女神ならー、ちょっとー、やっかいでしたねー」

 のんびりした口調で言いながら、ケローネー教官は患部に薬を塗り込んだ。

「俺、何にやられたんですか?」

「おそらくー、粉蜘蛛ですねー」

 粉蜘蛛は水属性で、かまれると患部が粉をふいたようなただれ方をする。さらに粉蜘蛛は同属性の生き物にかみつき、働き蜘蛛として操るのだ。また雌雄同体であり、純粋な雌は存在しないため、同属性の雌の生き物に卵を産みつけ、孵化させる。

「ただー、色がー、気になりますねー」

 塗り終わった患部をケローネー教官は指さした。

「本来はー、もっとー、銀色なんですがー、何となくー、青っぽいようにー、見えるのでー」

 とりあえずこれで様子を見てくれとケローネー教官に言われ、オルニスはうなずいた。もし自分が水の女神の守護を受けていれば、粉蜘蛛と同属性なので働き蜘蛛にされていたかもしれない。そう想像すると怖かった。

 薬が効いたのか、粉をまぶした見た目の跡は薄くなった。ところが、翌日にかゆみが生じたので確認してみると、患部がまたただれていた。慌てて登校するなり治療室に駆け込んだオルニスは、自分と同じ症状が出ている生徒が複数人いることを知った。しかも彼らは自分と異なり、学院内でかまれたと訴えたのだ。

 学年も学科もバラバラで、共通点が見当たらない。いつも穏やかな雰囲気のケローネー教官がひどく青ざめ、学院長に報告すると言って、慌てて治療室を出ていった。

 既存の粉蜘蛛用の薬は、塗れば一時的には効くが、すぐにまた荒れてくる。かきむしりたいのを我慢しながら過ごしていたオルニスは翌日、一人の女生徒が行方不明になったことを聞かされた。

 風の法専攻三回生のエマ・マライユ。降臨祭から付き合い始めた、オルニスの恋人だった。



「だから、それは俺じゃないって言ってるだろうが」

 昼休み、廊下を歩いていたシータは、いらついたオルニスの声を聞いた。視線をやると、オルニスとプレシオ、三回生らしき神法学科生数人がかたまって話をしている。

「でも、エマがオルニスと一緒にいるところを何人も見てるんだよ」

「俺はその日は一度もエマと会ってねえよ」

 風の法専攻生の追及に、オルニスが顔をゆがませて吐き捨てる。シータはそっと近づいて、プレシオの袖を軽く引っ張った。神法学科生たちと言い合いになっているオルニスから少し離れて、プレシオが嘆息した。

「おとといの放課後、オルニスとエマがどこかに向かっているのを目撃した人がいるみたいなんだけど、オルニスは記憶がないって言うんだ。僕はそのときはオルニスと別行動をとっていたから、オルニスがどこで何をしていたのか知らないし……本当に、わけがわからないよ」

 オルニスは嘘をついているようには見えないし、とプレシオも首をひねっている。放課後からの足取りがつかめなくなっているため、エマと最後に会ったといわれているオルニスは教官からも質問されたが、エマとは顔を合わせていないと断言したのだ。

 となると、よく似た外見のプレシオが次に疑われたが、プレシオはその時間は図書館にいたことが他の生徒の証言で確認されている。

 エマと一緒にいたのはいったい誰なのか。そしてエマはどこに行ったのか。学院内に広がる不安は、もう一つの事態とともに学院をおびやかした。

 虫にかまれたと言って治療室に来る生徒が日ごとに増えていることに、学院側は緊急対策会議を開いた。粉をふいたようなただれ方は粉蜘蛛の特徴だが、薬が効かないのだ。また、被害にあった生徒たちを診たケローネー教官は、患部が従来の銀色よりも青いようだと報告した。

 もしや未発見の変異種ではないか――そう疑念をいだいた頃、再び女生徒が消えた。今度は教養学科の二回生だったが、彼女は入学試験では神法学科を受験していた。術力が一定の基準に満たなかったために落ちたが、当時の記録によれば、守護の儀式の結果は風の神となっていた。

 学院長は、教養学科生全員と武闘学科一回生に守護の儀式を受けさせることを決めた。そうして準備を急いでいた間に、三人目の女生徒がいなくなった。

 風の法専攻一回生の女生徒は、二限目が始まる前、一限目の教室に忘れ物を取りに戻ると友達に告げた後、帰ってこなかったという。



 午後、大会堂に教養学科生全員と武闘学科一回生が集められ、守護の儀式が進められた。先に武闘学科生から順番に四つの紋章が描かれた法陣に入っていく。待っている間、生徒たちは行方不明になった女生徒のことを噂しあった。そしてどうやら風の神の守護を受ける者が狙われているらしいと聞き、守護の儀式で違う神ならば喜び、風の神が応えた場合はうろたえ、震えた。

 一方、武闘学科と神法学科の二、三回生は三、四人で一組となり、配られた虫殺しの粉末を各教室にまく作業をしていた。シータもパンテールとポーマの三人で、袋にいっぱい入った白い粉を振りまいていると、ピュールたちに出会った。

「何かおかしなところあった?」

 シータの問いに、ピュールは「いや」とかぶりを振ってからシータを見つめた。

「お前も風の神の守護を受けてたよな」

 珍しく心配してくれるのかと思ったら、鼻で笑われた。

「ま、お前は大丈夫だろう。もし女がさらわれているのだとしても、一番最後になりそうだ」

「どういう意味よ」

 シータがむっとしたとき、オルニスが駆けてきた。

「シータ、ちょっと来い。ファイが――」

「ファイに何かあったの?」

「行くぞ」

 驚くシータの腕をつかんで、オルニスが走りだす。ついてこようとしたパンテールやピュールをふり返ったオルニスが、「お前たちはいい」と切り捨てたため、パンテールたちはその場にとどまった。

「オルニス、ファイがどうしたの?」

 守護の儀式が終わった武闘学科一回生たちも、虫殺しの粉が入った袋を手に、大会堂から出てきている。オルニスに引っ張られる自分を見たトルノスが目を見開いているのを横目に、シータは尋ねた。しかしオルニスは答えず、ひたすら急いでいる。

 大会堂と中央棟をつなぐ渡り廊下を横切ったオルニスは、どうやら図書館を目指しているようだ。校舎から離れ、人けもなくなってきたことに警戒心が生まれたとき、後ろから名を呼ばれた。

「シータ!!」

 ふり向いた先にいたのはファイだった。中央棟から出てきたファイにシータは足をとめようとしたが、オルニスはぐいぐい引きずっていく。

「どこに行くの、オルニス? ファイは後ろに……」

「オルニスから離れて!」

 追いかけてきたファイが叫ぶ。とたん、オルニスが手にしていた槍をファイ目がけて投げた。いきなり飛んできた槍をファイはかろうじてよけたものの、法衣に刺さる。

「ファイ!?」

 そのままオルニスは腰の短剣を引き抜いた。地面に刺さった槍に法衣を縫いとめられたファイへと短剣を振りかざす。

 シータは間に滑り入ってオルニスの手首に蹴りを放った。短剣をはじかれ飛びすさったオルニスが、若葉色の双眸でシータをとらえる。そこに何の感情も見られないことに、シータはぞっとした。

 オルニスが動いた。先にファイを狙うオルニスを、シータは懸命に体術で防いだ。武器は落としたものの、体格差が思ったより影響し、オルニスの拳や足技をかわすので精一杯だ。

「シータさん!!」

 背後からトルノスの声が響く。先生を呼んできて、と言おうとしたシータは、オルニスに横蹴りされて吹っ飛んだ。地面に転がり、脇腹を押さえて吐きそうになったシータに、オルニスがつかみかかろうとしたとき、槍を引き抜いて投げ捨てたファイが杖を振るった。

「要害を司りし大地の女神サルム。かの者に盤石の盾を!!」

 突如地面から盛り上がった土壁に阻まれて、オルニスがよろめき後退する。その間に駆け寄ってきたファイの手を借りて、シータはようよう身を起こした。

 痛みと息切れでゆがむ視界の中で、何かたくさんのものがうごめいている。いたるところから這い出してきた蜘蛛が立てるカサカサした音に、シータは生唾を飲んだ。

 騒ぎを聞きつけた生徒たちから悲鳴があがる。シータとファイは完全に蜘蛛に囲まれていた。

 オルニスが無表情で一歩一歩迫ってくる。ファイは片手でシータを支えたまま、杖をすっと前へ向けた。

「光と熱を司りし炎の神レオニス。我は請う、我に仇なすものどもに灼熱の刃を!!」

 三角形を描いた杖を横になぐ。炎の波が二人の周りで円を作るように燃え広がった。包囲網をせばめていた蜘蛛たちが焼かれ、逃げ散る。オルニスも腕で顔を隠すようにして身をひるがえしたため、ファイは続けて詠唱した。

「生きとし生けるものの歩みを支えし大地の女神サルム。御身を踏み(けが)したる冒涜のものに(いばら)(かいな)を!!」

『枷の法』をかけられて硬直するオルニスに、ファイはさらに『誘眠の法』でたたみかけた。

「安らぎを司りし水の女神エルライ。その柔らかな吐息は優しき波動となりて高ぶる心を鎮め、その麗しき歌声は(うつつ)より解き放たれし(まよ)い子を静かなる深層に導かん」

 ぐらりとオルニスの体が傾いた。顔面から地面に倒れていくオルニスをギリギリのところで抱きとめたのは、炎を飛び越えてきたウォルナット教官だった。

 気を失ったオルニスを肩にかついだウォルナット教官がシータたちをかえりみる。

「二人とも、無事か?」

 シータがうなずいたところへ、トルノスも走ってきた。

「全員、大会堂へ避難だ!」

 ウォルナット教官が、戦いの様子を見守っていた生徒たちに対して声を張り上げる。中央棟にいた生徒がいっせいに我先にと移動を始める中、ファイは「ちょっとごめん」とシータの横腹に触れた。

「痛っ」

 激痛にシータは身をよじった。ファイはシータの両袖をそっとめくり、防御に使っていた腕が赤くなっているのも確認すると『治癒の法』をかけた。

「他に痛いところはない?」

「うん、大丈夫。ありがとう」

「大丈夫じゃないでしょうが。あんた何やってんだよ。男のくせに女に自分を守らせて、けがまでさせてっ」

 すっかり元通りになったシータが笑うそばでトルノスが怒鳴り、ファイの胸倉をつかんだ。

「ちょっ……やめて、トルノス。ファイはちゃんと守ってくれたよ」

「だってこいつをかばってシータさんは――」

「トルノス!!」

 ファイをしめ上げようとしたトルノスの手をつかみ、シータはにらんだ。  

「武闘学科生には武闘学科生の、神法学科生には神法学科生の戦い方があるの。私は武闘学科生よ。男だ女だなんて関係ない。それ以上言うなら、二度と剣を持てないように叩きつぶすわよ」

 本気で怒りをあらわにしたシータに、トルノスが肩を揺らす。やがてトルノスがファイを放すと、シータはファイと一緒に立ち上がった。

 三人の様子を眺めていたウォルナット教官が、はっとしたさまでオルニスを見た。

「まずいっ」

 オルニスがうなり声をあげている。目が覚めたようだが、まだ『枷の法』が効いているらしく、思うように動けないことにいらだっているようだ。

「水の法は効果が持続しない……変異しても耐性はあるのか。ウォルナット先生、オルニスの隔離をお願いします。大地の法ならたぶん効きます」

 ファイの言葉に「わかった」と答え、ウォルナット教官がオルニスをかついだまま走っていく。そのとき、足元が小刻みに揺れだした。シータは驚き、あたりを見回した。

「何? ファイ、どうなってるの?」

「学院が封鎖されたんだ。守りの壁が発動したということは、外からの脅威を防ぐか、学院内から出してはいけないものが現れたってことだよ。今回はおそらく後者だ」

「それって、私たちは学院に閉じ込められたってこと?」

「たぶん、学院長から説明があると思うけど……かなり面倒なことになったな」

 シータと並んで大会堂へ向かいながら、ファイは眉間にしわを寄せてつぶやいた。





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