第九話 アナスタシア姫の知謀
今日はもう一話投稿します。
「ガリューズ、お主だけが本城に戻れ。わしとローズメイデンは少し野暮用ができたのでな」
ジオスの呼び止めに、馬に乗ったガリューズが振り向き答える。
「別に構わねぇぜ!! 城を守るなんざ、俺一人でも十分だからな!!」
自信満々に返事をするガリューズに対し、ローズメイデンが食いかかる。
「あら、随分と頼もしくなったじゃないの♪ まぁ、結局また私に助けを求めることに♪」
「ならねぇよ!! お前らはここに残るなり、どっかいくなり好きにしろ!! とにかく、王都を守るのは俺一人で十分だ!!」
ガリューズがそう言い終わると、ジオスは安心した様子で、ローズメイデンの方を見た。
「では、ローズメイデン。ガリューズの活躍に期待してワシらは別の場所を守るぞ」
「ジオス様がそう仰るなら♪」
「ハ! たっぷり期待しとけよ!! ほら、シャドウ!! てめぇは俺と一緒に王都に行くんだよ!!」
仲間との会話が終わると、今度は捕虜として捕らえられた敵将シャドウに話しかける。
「くそっ……竜化が解けたら真っ先にお前を殺すっ!!」
ガリューズの言い方が気にくわなかったのか、やけに嫌そうな顔をしながら、シャドウは吐き捨てるようにそう言い放った。それを聞いたガリューズは、勝ち誇った様子で返事をした。
「そういうセリフは殺した後に言うもんだぜ!! まぁ、今のお前じゃ百億パーセント無理な話だけどな!! おい、誰か!! こいつを乗せてくれ!!」
「「はっ!!」」
「くそっ……! 絶対後悔させてやる……!!」
シャドウの捨て台詞を無視し、そそくさと進むガリューズ、ローズメイデン、ジオスの三人。
かくして、ガリューズとシャドウは王都に。ジオスとローズメイデンは王都と拠点を繋ぐ兵糧庫に。それぞれが、拠点を離れる結果になったのであった。
**
「行きましたね」
赤旗、黄旗、白旗の三旗がそれぞれ別の方角に進軍するのを見ながら、アナスタシア姫がぽつりと呟く。
「皆を招集させなさい。今すぐに」
「は!」
兵士が号令をかけると、ラッパ吹きが一呼吸のち、リズミカルな音を響かせる。
その音を聞いた兵士たちはすかさず体を起こし、集合場所へと向かった。
(敵を騙すにはまず味方から。それは、ジオス。あなたとて例外ではないのですよ)
集まった兵士を前に、アナスタシア姫が語り始めた。
「皆の者!! よくお聞きなさい。敵はこれから兵糧を断ちに来ます。わが軍は兵糧を断たれると撤退せざるを得ない故、やむなく三英傑を本陣から外し、事に当たらせました。しかし、それこそ奴らの思うつぼ。奴らの本当の狙いは、兵糧を断つふりをしてわが軍を分散させ、もって大本営でわが本陣を壊滅させることにあります。そしてその敵軍の中には、型使い、もとい竜の託宣者も加わっていることでしょう」
緊張を隠すよう一つ生唾を飲み込むと、再度語りかける。
「しかし、ご安心なさい。型使いには型使いを、などという常識は私には通用しません。本戦いをもって、それを証明してみせます」
自信満々な表情で、されど険しい表情は崩さずに話す。
「今戦いは最初で最後の大苦戦する戦いになります。ですがそれゆえに、あなた方は歴史に名を刻むことになります。本戦いで最後まで尽力したものには、爵位の褒賞と金銀財宝を望む額すべて差し上げましょう。これはかの三英傑ですら与えられたことのない褒賞です」
陣営にどよめきが走るが、アナスタシア姫が拳を掲げると静寂が訪れた。
兵士が皆口をつぐんだのを満足げに眺め、拳を降ろすと再び口を開く。
「ですが、それもすべて勝てばの話……負ければすべてが水の泡です。ゆえに、皆には粉骨砕身の心構えで戦場に臨んでいただきたいのです」
苦しい時も、辛い時も、全てを乗り切り勝利を掴む。
その信念を今、アナスタシア姫が全世界に知らしめさせる!!
「皆さんを必ず勝利に導きます。これが私たち、最後の戦いです!!」