第十六話 緊急事態
本日、四話目の投稿です。
「俺が行く!!」
「駄目です、ガリューズ殿が出られては、一体誰が王都を守るというのですか!?」
「兵も置いていくから大丈夫だ!!」
「大丈夫ではないから、アナスタシア姫はあなたを派遣したのですよ。ここに残られて下さい!」
「うるせぇ! 行くって決めたら行くんだよ!! 邪魔するやつはぶっ殺す!!」
カーペットにしわを寄せながら、王様に直談判しようとするガリューズと、それを止めようとする王の側近たち。彼らの喧騒が王宮の中に響き渡る度に、その音は建物内を反響し、より一層ひどく大きな音となっていった。
「静かにしろ。頭が割れそうなくらい痛い」
刹那、辺りが静まり返りしばしの沈黙が流れる。ガリューズが王の側近に飛び掛かり、剣を抜こうとした瞬間、ニコス王が口を開いたからだ。
「フゥ……」
辛そうにニコス王は溜息をつくと、しばらくうなだれた。そして、頭に巻いていた魔女を浄化する力があると言い伝えられている白色の布を取ると、ガリューズの方に向き直る。
「ガリューズ、そなたは王都に残れ。王都が奇襲されればアナスタシアの帰る場所が無くなってしまう。それは何としても避けなければならん」
「じゃあ、一体どうしろと!?」
ガリューズはすぐさま食いついたが、ニコス王はたじろぐことなく人差し指を天に向けた。
「ジオスとローズメイデンに行かせる。兵糧を運んだ兵士によると、二人は今兵糧庫にいるらしいからな。わざわざ二人で守る必要もあるまい。どちらかに行かせれば、かたがつく」
そう言うや否や、ニコス王は頬杖をつき、衛兵に視線を送った。
「誰か」「はっ!!」
「ジオスとローズメイデン宛てに書状をしたためよ。即刻、アナスタシアの救助に向かえとな」
「承知しました」
『バンッ!!』
衛兵が踵を返そうとしたその瞬間、ドアが凄まじい音と共に開けられた。
「報告、報告!! ニコス王、大変でございます!!」
「次から次へとなんだ!? 早く言え!!」
別の一兵卒が広間に駆け込むと、生唾を一つ飲み込み、絞り出すように声を出した。
「兵糧庫を敵兵に囲まれました。その数五万!」
「五万……なんだ、たったの五万か! 大したことなかろう! ジオスは昔、アナスタシア率いる十万の精鋭をたった一人で蹴散らしたこともあったぞ!! 心配には及ばん! 敵兵を殲滅した後、救助に向かえと伝えろ!」
堂々と言い張るニコス王に対し、一兵卒は食い下がった。
「そのことですが、アナスタシア姫にこう言われたそうです。兵糧庫を守ることだけに徹しろ。敵兵とは一戦も交えてはならない……と」
「それはジオスとローズメイデン、両方か?」
「はい」
その言葉を聞くや否や、ニコス王は『ドサッ』と玉座に座り込んだ。
「はぁ……」
ひたすら重い溜息をつくと、愚痴をもらすかのようにぼそりと呟いた。
「ガリューズは王都を守り、ジオスとローズメイデンは兵糧庫を守れ。そうアナスタシアが言うのなら、そうしたほうがよい。アナスタシアが間違ったことは一回たりとも無かったからな」
「それでは、いかがいたしましょう?」
王の側近がそう聞くと、ニコス王は顎髭をいじり、しばらく考え込んだ。そして、諦めたかのような悲壮感漂う顔をし、ぽつりとこう呟いたのだ。
「仕方あるまい。王都にいる兵を派遣する」
「しかし、それでは王都が奇襲された場合、どうすれば……」
その返答にニコス王は少したじろいだが、すぐさま言い返す。
「だから、少しの援軍しか出せん。全軍出せば、王都の奇襲に備えることができないからな」
直後どよめきが再出したが、皆『仕方あるまい』という声と共に落ち着いていく。
しかし、それもただ一人を除いては……という話であった。その一人とは何を隠そう、ガリューズの事である。彼は納得がいかない様相を呈しながら、ニコス王の前に跪いた。
「ニコス王、少ない援軍など焼け石に水。数が出せない以上、やはりここは質で勝負するしかないでしょう。竜の託宣者を出すべきでは?」
ガリューズが最もな提案をするが、ニコス王は困った顔をするだけだった。
「アナスタシアに皆命令されておろう。自由に動ける竜の託宣者など誰一人おらんではないか」
「一人います。アナスタシア姫に命令されておらず、自由に動ける竜の託宣者がただ一人」
ニコス王が眉をひそめ、怪訝そうな顔をする。
「誰だ?」
ニコス王に対し、ガリューズは堂々と胸を張って答えた。
「──我が弟、フェリクです」
本日の投稿は以上です。
水・木・金・土の四日分、投稿しましたので、次話の更新は日曜日の20:00までに行います。
それでは、また。