第十三話 史上最強の武士
本日は四話分投稿します。
「わらわは史上最強の武士、人呼んで史上最強の武士じゃ」
「お前、ただの剣だろ……。あと、史上最強って二回言っちゃってるよ……」
二人と一つが円上に座り込み、再び話を始める。
「面白い剣をお持ちなのですね」
喋る剣をつんつんとつっつくマリア姫。彼女につつかれ、「くすぐったいのぉ」と刀身をクネクネさせながら喋る剣。お世辞にも正常とは言えない、その異様な光景を目の当たりにしながら、フェリクは静かに口を開いた。
「面白くもなんともないですよ。小さい頃から使いっぱしられましたからね」
──
「おい、茶ぁ!!」
「茶ってなんだ、茶って!!」
「甘くない紅茶じゃ」
「なんじゃそりゃ!?」
──
「おい、せんべい持ってこい!!」
「なんだ、せんべいって!?」
「甘くないクッキーじゃ」
「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
──
「という感じで……」
「アハハハ……」
若干引き気味に笑うマリア姫。そんな彼女を横目に、剣は喋り始めた。
「おい、フェリク。腹が減った。せんべいが食べたい」
「お前っ!! 剣のくせにいちいち我儘だなっ……!!」
その言葉を聞くや否や、喋る剣は鞘に入ったままの刀身で「ポカポカ」とフェリクの頭を叩き始めた。
「あいたたた!! 分かった、分かったから!? あとで食べさせてやる、な?」
「あとじゃ嫌じゃ!! 今すぐ食べたいのじゃ!!」
「あの……私が、ご用意しましょうか?」
恐る恐る聞くマリア姫。それに対し、フェリクは
「いや、姫様にそのようなことは……」
「頼んだぞ、お姫様!!」
「お前は少し自重しろ!!」
と、喋る剣にげんこつをかましたのであった。
「ふふっ……」
マリア姫が少し笑ったが、照れ隠しをするように、すぐさま話を戻した。
「では、少々お待ちください。えっと……クッキーにお砂糖を入れなければいいのですね」
「厳密には生地から違うから、そういうわけじゃ……」
「文句を言うな!!」
再びフェリクのげんこつが入り、マリア姫がまた少し笑う。そんな一連の流れに満足した後、マリア姫は一旦城の中に戻っていったのであった。
**
「美味い、美味い。やはり王族の食べ物は格が違うのぉ」
「バリバリ」という音を立てながら、喋る剣がせんべいを食べる。
「本当に食べてる……」
鞘を出し入れする度、せんべいが亜空間に消えていくのをマリア姫はただ見つめていた。
「こいつのせいでお手数かけることになってしまい、申し訳ございません」
「いえいえ、お気になさらないでください。まぁ確かに、クッキーに砂糖を入れないでって言ったら、料理長が首を傾げていましたが……」
気を取り直した様子でフェリクに問いかける。
「でも、喋る剣なんて聞いたことありませんわ。これだけ人懐っこい性格だったら、有名になってもいいはずなんですが」
この問いに対し、フェリクは不思議そうに話し始めた。
「実はこいつ、僕以外には喋りかけないんです。有名になっていないのも、僕以外の人間がいたら一切言葉も発しなかったからなんですよね。まぁそれも、今日で終わりましたが……」
せんべいを食べ終え、「げぷっ」と刀身をさすっていた剣が答えた。
「お主の将来のお嫁さんじゃからの。挨拶くらいしとかねば礼を失するじゃろ」
「お嫁さんって、お前!? この方はお姫様だぞ!! 僕なんかと釣り合うわけ……」
マリア姫の方を向き直した剣と、そのあとを追随する形でマリア姫を見るフェリク。そんな二つの眼差しを浴び、彼女は少し恥ずかしそうに口を開いた。
「私は……別に、構いません………が」
お互いの目と目が合う。そんな少し気まずい空気が流れたのち、
「そそそ、そういや!! 面白いお言葉をご存じなのですね!! 茶に、せんべいに……それから武士ですか!? 初めて聞くお言葉ばかりでびっくりしています!!」
と、マリア姫が慌てた様子で話題を変えた。
「武士じゃない。史上最強の武士じゃ」
「それは失礼しました!! それで、武士とは何なのですか!?」
「どうやら、騎士と同じ意味合いらしいですよ」
手を上げ、代わりに質問に答えたフェリク。
──が、剣がそれに反発した。
「騎士じゃない、武士じゃ!! なんど言ったら分かるのじゃ……」
「剣のお前に言われても説得力ねぇよ!!」
ボケとツッコミが成立してしまっているこの状況に、マリア姫は思わず「フフッ」と笑みをこぼした。慌てて見返すフェリクたちに、
「いや、なんかとても楽しそうだなって」
と笑いをこらえながら弁明したのだ。
「もっとお話……聞いても良いですか?」
「もちろんです。じゃあ、今度はこいつを樹海に捨てに行った時の話をしましょう」
「まったく、あの時はひどい目にあったわい」
「しょうがねぇだろ!! 喋る剣なんざ、気味悪くて近くに置けねぇよ!!」
フェリクが勢いよく立ち上がったが、再び冷静さを取り戻し、座り込む。
「あれは、僕が六歳の頃でした───……」
**
「……───そして次の日起きたら、こいつが腰にぶら下がっていたんです」
「てことは、どこに捨てに行っても戻ってくる……ということでしょうか?」
──「ザッ……ザッ……」と近づく足音に彼らは気づいていなかった。
「そうなんですよ。どうあがいても次の日には僕の腰にこいつがぶら下がっているんです。もはや恐怖を通り越して笑いが込み上げてくるレベルですよ」
「へぇ、そうなんですか。それは大変ですね。でも、楽しそうでちょっぴり羨ましいかも……」
忍び寄る影は徐々に近づき、それに比例して剣が──黙り始めた。
「他にもありませんか? 私、城から出たことないので、城外についても知りたいです」
「それでしたら……」
「「オホン」」
二人が「ビクッ」と背筋を伸ばした後、声がした方へ恐る恐る振り返る。気が付けば、この場に二人の珍客が追加されていた。最も入ってきてほしくない二人──ニコス王とガリューズその人である。