第十二話 喋る剣
土曜日まで出張の予定が入ったため、明日は四話分(水、木、金、土の四話分)更新します。
20:00までには投稿を終える予定です!
「ガリューズ・ヴァン・アルバート、ニコス王に拝謁します」
玉座に座るニコス王の前で、深々とお辞儀をするガリューズ。戦場から帰還したにも関わらず、シワ一つない綺麗な服装をした彼を見るや否や、ニコス王は満面の笑みを浮かべた。
「おぉ、よく戻ってきたガリューズよ!! 戦況の方はどうなっておるのだ?」
顔を上げたガリューズは真っ直ぐに王を見つめ、丁寧に返答する。
「大方、王の想像通りです。今回も大勝です」
「おぉ、それはよかった。もはや聞くまでも無かったな!! ところで、ガリューズよ。なぜそなたは戻ってきたのだ」
怪訝そうに聞く王に対し、自信満々の様子でガリューズが口を開いた。
「『王都に奇襲が入るかもしれない』とアナスタシア姫が仰っていましたので、その対応として私が馳せ参じました」
それを聞いたニコス王が神妙そうに頷き、妙に納得した様子で返事を返す。
「なるほどな。アナスタシア姫が言うなら間違いない、必ずや奇襲が入るだろう。ガリューズよ、王都の警備はそなたに任せたぞ」
「はっ!!」
マントを翻しニコス王はその場を立ち去ろうとしたが、すかさずガリューズが呼び止める。
「それと、早馬で伝えた件ですが。フェリクは何と?」
突然の問いかけにふと立ち止まり、しばらく考える様子をしたニコス王であったが、すぐさま生気のない目を彼に向け、返事を返した。
「継承したくない……だそうだ」
ニコス王の返答を聞くや否や、ガリューズは「はぁ」と一つ大きなため息をついた。そして、仕方なさそうな顔をし、独り言に近い小さな声で呟く。
「そうですか。そしたら、無理やりにでも継承させる必要がありそうですね」
「別に慌てる必要もあるまい。フェリクが継承したいと思ったときに継承すればよい」
ニコス王のその言葉を聞いた瞬間、ガリューズが跪き、真剣な顔つきで語りかける。
「しかしまだ天下が平定されていない以上、型使いは一人でも多い方がよろしいかと」
急にかしこまるガリューズに驚きを隠せないニコス王は、少し考えたのち頷いた。
「確かにそうだ。だがよく考えてみろ、わしらは挙兵してからというもの負けたことが一度もない。そしておそらく今回も負けない。だから、無理やり今すぐに継承させる必要もないだろう。そうは思わんか?」
「は……はぁ」
納得できない様子で、静かに首を横に振るガリューズ。その様子を見たニコス王は、「パン」と一回手を叩いた。
「それとも、ガリューズ。お主だけでは王都の警備は怖くてできないとな?」
「でっ……出来るに決まってんだろ!! フェリクなんか必要ねぇ!! ……ですよ」
不敵な笑みをニコス王は浮かべる。
「そうか。では、継承の儀は延期だ。シャドウは牢屋の最深部にでも放り込んでおけ。よいな?」
「はっ!!」
将たる将──それは、将軍の将軍を意味する言葉である。ガリューズの性格を完璧に理解し、彼を使いこなしたこの時のニコス王は、まさしく「将たる将」だといえるのではないだろうか。
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「くそっ、連れ損じゃねぇか……!!」
道中、馬車に戻る歩みを速めながらそう愚痴を漏らす。
「おい、フェリク!!」
馬車に着くや否や、荷台の方に駆け寄りそう口走る。積まれている毛布の膨らみを確認すると、ぞんざいに「ガバッ」と広げた。
「起きr……」
が、そこにいたのはフェリク──ではなかった。
「きし がりゅーず」と愛嬌のある文字で書かれた、クマのぬいぐるみだったのだ。
「くそがぁぁぁぁぁ!!」
兄の知られざる一面を知っている弟が、今回は一枚上手であった。
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「マリア姫……ですよね?」
お花を摘んでいたマリア姫が振り返る。
「また来ちゃいました。あなたがいるかな……と思って」
顔を赤らめ横を見る彼に対し、マリア姫はまっすぐに彼の顔を見た。
「私も同じことを考えていました。ここにきたら、またあなたに会えるかなって」
その言葉を聞いた瞬間、フェリクが嬉しそうに笑みをこぼした。
「あなたのお名前をお伺いしても?」
マリア姫のその問いかけに対し、フェリクははっとした表情を浮かべるとともに、しゃがみ込み姿勢を正す。
「フェリク・ウェハ・アルバートです。フェリクとお呼びください」
「アルバート? アルバートって、あの剣聖家のアルバート家ですか?」
フェリクは静かにこくりと頷いた。
「剣聖家のお方だったんですね。王国の重鎮として、いつも国のために戦場へ赴いて頂き、誠にありがとうございます。姉に代わりお礼申し上げます」
彼女はスカートの裾を少し上げ、貴族流のお礼をした。そんな様相をみた彼は、申し訳なさそうに口を開いた。
「いや、実は……僕は一度も戦場に出たことがないんです。ですから、そこまで感謝しなくても大丈夫です。むしろ剣聖家の面汚しなので、罵ってもらった方が案外楽なのかもしれません」
「そんなことありません。あなたは面汚しなんかじゃありません」
即答するマリア姫に、フェリクは「ふっ」と笑みを浮かべた。
「それでしたら、あなたも姉の面汚しなんかじゃありません。自信を持ってください」
その言葉を聞きマリア姫は少し驚いたが、
「あの時の会話、やはり聞いていらしたのですね」
と、妙に納得した様子で独り言を発した。
「私たち、案外似た者同士なのかもしれません」
マリア姫が柔らかい眼差しでフェリクを見つめる。
「これからも会いに来てくださいますか?」
マリア姫の問いに対し、
「もちろんです」
とフェリクが答えた。
──サアァァ……と風が吹く。先ほど体感した、重くて、暗い風ではない。軽くて、明るい、春の到来を祝うような暖かい風である。
「そろそろ、終わったかのぉ」
「いや、まだ話すことがたくさんあるからもう少し……って!!」
気持ち良い風を堪能する間もなく、「それ」は姿を現した。
<<史上最強の武士、ここに見参!!>>
「ばっ……お前!?」
フェリクが仰天すると同時にマリア姫が「キャッ」といい、尻もちをつく。
「嘘……でしょ……っ!?」
彼女が驚くのも無理もない。なにせ、今目の前にいるのは流暢に喋る人──ではなく、流暢に喋る「剣」なのだから。
「け……剣がっ……!! 喋った……っっ!?」