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翼の勇者  作者: た~にゃん
第三部 森の王女 厄災の女神
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Chapter06-3 天空の精霊の眷属、レヴィン(前編)

モルドレッド視点です。

「フッ。俺がこの程度のモノに後れをとるわけがなかろう」


 ハンカチをさり気なくポケットにしまい、モルドレッドはふてぶてしく顎を反らした。


 あの亡霊は門番代わりだろう、とモルドレッドは思う。核となった遺物は、茨のトンネルの入口にこれ見よがしに置かれていたからだ。まあ今はそんなことより。


「貴様、どうするつもりだ?」


 キョトンとするジーンに、モルドレッドは入口をさした。


「出られないだろう」


 ここにやってくるにあたって、ジーンはかなり植魔を刺激したらしい。トンネルの外からは、茨が暴れ地を叩く轟音が絶え間なく聞こえてきていた。



 出られないとなれば、奥へ進むしかない。



 植魔の体内へ続く、真っ暗なトンネルをモルドレッドの光魔法を頼りに進む。トンネルは曲がりくねりながらも、地下へ続いていた。


「この先、そこそこ広い空間があるね」


 無言で歩いていたジーンがトンネルの奥を指さした。どうもコイツには空間視のような能力があるようなのだ。


(広い空間……魔物のねぐらと考えるのが妥当だろうな)


 自分が先頭に立った方がよかろう、と、鎖鞭を構えたモルドレッドだが、


「家があるね」


 ジーンの台詞に目を瞬いた。家、だと?

 にわかには信じがたい。


 が。


「…………家、だな」


 ぽっかりと空いた空間に、自然の木の幹をくり抜いて作ったようなツリーハウスがある。ドアの横に呼び鈴紐が下がり、根元には鮮やかなキノコまで生えている。ただ、メルヘンチックな可愛さはない。葉が一枚もない枯れ木ツリーハウスなので、えもいわれぬおどろおどろしさが漂う。しかし……



 一応、ここ巨大植魔の体内なんだが。



 住んでいるのはただ者ではないだろう。けれど、少なくとも魔物ではない……かもしれない??


『ちょっと、アンタ何やろうとしてんのよ?』


 鎖鞭片手に突入のモーションに入りかけたところで、〈空間〉のメリルから待ったがかかった。


「…………挨拶する」


『どんな?!』


 トラブルの予感しかしない! と文句を言われ、モルドレッドは眉間に皺を寄せた。


「モルドレッド、顔が凶あ……ゴホン! とりあえず鎖鞭はしまおうか」


 寄ってきたジーンを手で制し、


「フッ。手厚い歓迎を受けたからな……。礼をしたいだけだ。気にするな」


 ニチャァ、とモルドレッドは凶悪な笑みを浮かべた。そうだ、礼をしなくては。


『顔っ!』


「いや気にするよ?!」


 結局、メリルとジーンに宥めすかされたモルドレッドは、しぶしぶイヤイヤ鎖鞭を腰のベルトに引っかけた。これが妥協できるギリギリである。


「じゃ、」


 しかし。ジーンがドアノブに手をかけるよりも早く、 


「【Burning】」


 モルドレッドの手のひらの魔法陣から発した爆炎は、木製のドアを一瞬のうちに焼き尽くし、赤い奔流はまっすぐ家の奥へ吸い込まれて、


 ガブッ


「……?」


 何が起こったのか。モルドレッドは、己の右腕に飛びついてきたモノに目をパチクリさせた。




 何やら細長いモノが、巻きついている。




 ツヤツヤ赤い、ひんやり鱗。短い金色の角があるためヘビではなさそうだ。腕にしっかりと食らいつき(※痛くはない)自分を見つめるつぶらな黒眼。


(…………カワイイ)


 なんとなくだけど、雰囲気が宿り主のウィルに似ている。



 ……で、なんだこれ?



 謎生物は、モルドレッドの腕にかぶりついたまま黒眼をウルウルさせて、しばし。おもむろにかぶりついていた小さな口をあけた。ギザギザした歯列の奥に、小さいけれど眩い光の球が見


「クワァァーーーーー!!!!」


「!!」


 直後、小さな身体と可愛い鳴き声からは信じられない威力の火炎ブレスがモルドレッドを掠め、



 ちゅどーーーん!!!



 背後の壁――植魔の一部を完膚無きまでにぶっ壊した。繰り返すが、植魔の一部を、だ。冒険者たちがどんな武器でも傷一つつけることができなかった、それを。


「…………」


 顎を落とす面々の耳に、


「そなた、*▷■■か?」


 何やら子供っぽくてモニョモニョした声が聞こえた。


(??)


 しかし、見回しても子供の姿は見当たらない。


「たわけ。ここにおる」


 いや、声だけで誰もいないのは変わらないが……


「ここじゃボケェ!!」


 ガブッ


(…………ガブッ?)


 まさか。


「この妙ちくりんなのがしゃべったのか??」


 モルドレッドは、自分の手に噛みつきっぱなしの謎生物を見下ろした。相変わらず噛まれても痛くないし、黒眼がウルウルしている。


「妙ちくりんとはなんじゃ! 失礼であるぞ!」


 謎生物が目をウルウルさせたまま喚いた――といっても口を動かしてはいない。ただ、間違いなく声は謎生物から聞こえるのだ。


「妾は天空の精霊が眷属レヴィン。そなたらは八百七十三年ぶりの客になるな」


 モルドレッドに噛みついたまま謎生物改めレヴィンはモニョモニョと名乗った。これは、なんというか……

 

(…………カワイイ)


 残念ながら、威厳も崇高さも感じない。古めかしい言葉遣いをすれども、幼い子供のような甲高い声でモニョモニョ喋るせいで、全部かわいいに変換されている。マスコット感がハンパない。


(いや、なぜ天空の精霊の眷属が魔物の体内にいる?)


 ここは地上…………に根を張った植魔の体内。位置的にはたぶん、地下。モルドレッドは自称天空の精霊の眷属に疑わしげな視線をやった。怪しい。


「ドアを壊した其方に思うところはあるがの、ここまで到達したそなたらを妾は気に入ったぞ」


 半眼のモルドレッドをチラッと見たものの、レヴィンはわざとらしく咳払いをして頭をもたげた。巻き付いていたモルドレッドの腕から離れて――羽もないのに身体をくねらせて空中をふよふよと飛ぶ――ジーンの顔の前に移動した。


「そなた、チョイと手を貸してみよ」


「? こう、でいい?」


 警戒も何もなく、抱えていたリディアを床に寝かせ、両手を差し出すジーン。顔は見えないが、ヤツの背中からは隠しきれないワクワク感が伝わってくる。


「…………」


(べ、別に羨ましくなんかないんだから……な?)


 ふとレヴィンが噛みついていた腕を見ると、くっきりと歯形がついてわずかだが血が滲んでいた。……あとで捕まえよう。


「天空の精霊の御名においてこの者に聖なる祝福を授けん」


 レヴィンがモニョモニョと何やら詠唱しながら身体を右に左にふよふよと揺する。すると、ジーンの両腕に蔓が絡みつくような光り輝く紋が現れた。これは。


(スクロール魔法の劣化版だな)


 スクロール魔法とは、特殊な術式を記した紙――スクロールを通して、人間が他人に魔法を伝授するものだ。別に珍しくもないショボい魔法。加えて儀式をしたにしては、放出された魔力がひどく弱々しい。


(やはりこの自称天空の精霊の眷属、非常に怪しい)


「おい、そこのヘビトカゲ」


 相手の隠し事を暴くには、とりあえずキレさせるのが一番だ。理性を吹っ飛ばせば、口は緩くなるものなのだ。


(……別に、仲間はずれだとか子供じみた嫉妬を覚えているわけでは、ない)


「なぬ! ヘヘ、ヘビ……トカゲ……?」


 予想どおり、レヴィンはモルドレッドに向かってシャピーン! と尻尾と折り畳んでいた耳(エラ?)を立てた。……かわいい。


(くっ。誑かされてなるものか)


「フッ。天空のナニか知らんが、祝福が子供だましのスクロール魔法とは笑わせる」


 鼻で笑ってやると、レヴィンは「ぐぬぬぬぬ」とうなり声をあげる。まったく怖くないが。


「なぜ地下に、それも植魔なんぞの体内にいる? ああ、間違って食われたのか?」


 マヌケそうだし、案外それが真実かもしれない。けれど、何か釈然としないモノをモルドレッドは感じていた。


(なんだ……?)


 威嚇モードのレヴィンの後ろには部屋の壁がある。部屋は意外にもすっきりと片付いていて、掃除もされているのだろう。埃も積もっていない。


(……そういえば、俺の火炎魔法はどこへ消えた?)


 家を爆発四散させるくらいの威力は出したつもりだ。でも、部屋の中には着弾どころか掠った痕跡すらない。仮に打ち消したなら、相応の反応が起こるはず。けれど、あのとき……


(レヴィンが飛び込んできた)


 で、凄まじい威力のブレスをぶちかましたのだ。


(…………)


 今一度レヴィンを見る。しげしげと眺めてみたが、


「……ない」


 当然あるべきモノが一切感じられない。モルドレッドは考えるより先にレヴィンをひっつかみ、


「ぶぎゃああ?! 其方、何をす……きゃあああああ?!」


 …………吸った。


「やはり…………ない」

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