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翼の勇者  作者: た~にゃん
第三部 森の王女 厄災の女神
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Chapter05-4 メリルの妙案と光る綿毛

 抜け道は、森へ通じていた。けれど、夜闇の中では、どちらの方向に館があるのかさえわからない。ウィルの姿も見えない。


 離れ離れでかつ、連絡が取れないとはなんと不便なのだろう。夜の森では、彼を大声で呼ぶのも憚られた。万一魔物が出てきた場合、この三人では対処のしようがないからだ。


 ウィルの行方は気になるが、今はともかく、館に戻ろう。三人はそう結論を出した。


「遠く離れたわけじゃないんだもの。まっすぐ来た方向に戻れば……」


 言いかけたメリルが口を噤む。小瓶で照らした方角には、ぎっしりと灌木や背の高い草が生い茂り、とても通り抜けられそうになかったからだ。


 そもそも、抜け道の出口でさえ、蔦が覆い尽くしかけていたのだ。抜け道から先が、人が通れるように整備されていないのは明らかだった。


「マ~(ダメだな)」


「マーママ、マー(草むらにはヘビがいるしな)」


 短い剣を携えた〈厄災〉(テディー)たちでも、たった二匹ではできることが少ないようだ。


「通れそうな所を迂回するしかなさそうね」


 ぐるりと頼りない灯りで照らした先――灌木の僅かな切れ間を進むしかなさそうだが……。 


 まるでリディアたちの判断を迷わせるかのように、白く光る綿毛がフワリフワリといくつも飛んできたのだ。




「さわっても大丈夫だよ。ついていったらいけないけどね」




 あの綿毛は魔物が放っている、とジーンが言っていた。つまり、綿毛が飛んでいく方向には魔物が待ち構えているのだ。

 息を詰めて綿毛を見つめていると、フワフワと彷徨っていたそれらはやがて、左方向にゆっくりと流れるように消えていった。


「……行ったわ」


「とりあえず、反対方向に行きましょうか」


 声を潜めて、三人と二匹は綿毛とは反対の右方向へと足を向けた。


 …………。


 …………。


「……ねぇ。何か聞こえない?」


 少し進んだところで、メリルが足を止めた。リディアも耳を澄ませて……


「足音……?」


 微かだが、ザク、ザク、と草を踏みしめる規則的な音が聞こえてきたのだ。どっち? どっち? と三人で音の方角を探して……。カーミラが「光よ」と前方を指さした。見れば、木々の影からチラリ、チラリとオレンジ色の――カンテラらしき灯りが見える。


「人だわ!」


 メリルが声をあげた。


(よかった……! きっと館の人が探しにきたんだわ)


 なにせカーミラとメリルまで姿を消したのだから。ハサンあたりが人を遣ったのだろう。


「お姉さま、服を交換して」


 メリルが言うことには――。

 探しに来たのがハサンの場合、家探し娘(リディア)を助ける可能性は低いこと。よって、メリルはリディアの服を着て〈生き物を隠す魔法〉で〈空間〉に隠れる。リディアはドレスを着てメリルに成りすまし、ハサンには「姉とは森ではぐれた」と嘘をつけばいい、と。


「でも、メリル。私、髪が……」


 メリルが自分を守る策を練ってくれたことは正直嬉しい。とても嬉しい。でも、現実問題、髪の長さはどうしようもないのだ。いくら顔が鏡あわせのようにそっくりでも、リディアの髪は肩に届くほどしかない。


「そんなの、なんとでもなるわよ」


 カーミラに光を放つ小瓶を持たせ、メリルがドレスのポケットから取り出したものは。


「わ、わぁ」


 大粒珊瑚のネックレスに真珠の三連、さらに色鮮やかなリボンにリボンにリボンに……。


「言っとくけど、盗ったんじゃないわよ。ハサンから全部貰ったの!」


 目を丸くする姉とカーミラに言って、メリルはリボンの中にネックレスなどの宝飾品を詰めこみ、三日月型にこんもりと膨らんだリボン袋を三つ、拵えた。


「これをこうして頭につけて上から髪を被せれば、それっぽく見えるわよ」


 要は、詰め物で嵩を稼ぎ、ロングヘアのまとめ髪っぽく見せかけるわけだ。


「すごいわ! メリル、とっても賢いわ!」


 思わず褒めると、メリルは得意げな顔で「まあね」と胸を張った。




◆◆◆




 メリルと、意外にもカーミラが着付けと髪結いの才能を発揮し、リディアは令嬢だった頃と変わらない見た目になった。髪はリボン袋の上に髪を被せて嵩増しし、大きな偽シニョンを造ってある。ピンはメリルのとカーミラの手持ちを借りた。


「じゃ、うまくやるのよ」


「頑張る。ありがとうメリル。【隠せ】」


 オレンジ色の光が一瞬、夜の森を照らし出し、メリルの姿がかき消えた。


 さあ、先を急ごう。


「マーマーマ!(人間のニオイだ!)」


 二人と二匹は速歩で、先ほどオレンジ色の光が見えた方へ急ぐ。


「こっちよね?」


「ええ」


 二匹の〈厄災〉(テディー)たちが玩具みたいな剣で草木を切り払い、どうにもできない障害は迂回するため、急ぐとてスピードは出ない。まどろっこしい思いをしながら、道なき道を進んでいると、


「? リディアさん、何か落ちたわ」


 後ろにいたカーミラが、何かを拾いあげた。小瓶の灯りで照らすと、カーミラの手の中に、薄紅色の石を嵌めた髪飾りらしきものがある。


「私のじゃないけど」


 なぜなら、薄紅色の石以外は原型がわからないほどにボロボロに錆びてしまっているから。元は、宝石で薔薇を模った美しい品だったのだろうが……。


 …………。


 沈黙が落ちる。なぜなら、その宝石の薔薇は、半ばが括れた特徴的な形で――。


「どうして……ベルローズが」


 震える声で、カーミラが呟いた。


 王族しか持つことを許されない、薔薇の意匠――ベルローズ。よく見れば、薄紅色の薔薇の脇には、すっかり黒ずんでいるが、エメラルドやルビーと思しき小粒も添えられている。とても豪奢な宝飾品だったのだ。


 しかし、なぜ、そんなものが森の奥に……?


 ――と。


 フワリ、と白く光る綿毛が、向かいあう二人の間を行き過ぎた。


「え?」


 フワリ、フワリ


   フワリ、フワリ


 気づけば、リディアたちは揺蕩う綿毛の雪の中にいた。たくさんの……今まで見たこともないほどたくさんの綿毛がリディアたちを取り巻いている。


「ママ!(マズいぞ!)」


 危険を察知した〈厄災〉(テディー)が鋭い声をあげた。先頭にいた一匹が慌てて引き返そうとし、


「マー!!!!」


 闇の中で悲鳴があがる。


「テディー!!」


 カーミラが悲鳴を追い、リディアの手を放し、


「カーミラさん、ダメッ!」


 リディアが叫んだ直後、かん高い悲鳴とビシャリと濡れた音が響いた。

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