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翼の勇者  作者: た~にゃん
第三部 森の王女 厄災の女神
80/105

Chapter04-8 温室の下に眠るモノ

「ここだな」


 館の中を漂う死臭――その出所を前にモルドレッドは後ろを振り返った。ドレスの少女は、甘やかな芳香が充満する温室を不安そうな面持ちで見つめている。


(無駄にかさばる服だが、まあ使えんことはない)


 モルドレッドは「入るぞ」と後ろの少女に顎をしゃくった。




♤♤♤




 ここに来た最初の晩、カーミラがジーン以前の〈勇者〉の話を知っていることに、モルドレッドは興味を抱いた。


 〈勇者〉は『創世神話』に登場するにもかかわらず、文献に彼についての記載はほとんどない。モルドレッドの〈勇者〉探しが難航したのは、ひとえにこの情報不足だった。


 しかし、ここにはどうやら〈勇者〉について豊富な情報がある――もしかしたらモルドレッドの弟の記録もあるのかもしれない。だから今まで図書室で蔵書を漁っていた。役に立ちそうな情報を、例の覚え書きに書き写したので、存外時間がかかってしまったが。


 死臭に気づいたのは、偶然。ただ、あのカーミラ(雌ギツネ)から必要な情報をスムーズに聞き出す材料になれば僥倖と、探索に出た。




 光溢れる温室に踏み込み、モルドレッドは嗅覚を研ぎ澄ませた。臭いの元を辿ると、


(床に切れ目……地下か)


 タイル張りの床に四角い切れ目。隠してもいない。ともかく、隙間から手を入れて正方形の蓋をどかすと、地下へ続く階段が姿を現した。


「おまえはここで花でも見ていろ」


 さっき自分で開けた蓋を戻し、その上にドレスを着たメリルを立たせておけばいい。かさばるスカートは、床の切れ目ごと隠してくれる。

 念のため視界を共有させ、モルドレッドは階段を下へと降りていった。







 螺旋階段を降りた先――そこそこ深さがあった――には、円形の部屋とも言えない狭い空間があった。そして、


(石棺だ)


 空間の中央に、人一人が横たわれるほどの石棺が安置されていた。埃が積もっているあたり、ここに死体が容れられてから誰も訪れなかったとわかる。


「【Lift up】」


 音も立てずに、重い石の蓋が宙に浮いた。


『きゃっ!』


 直後、短い悲鳴とともにブツッとメリルの魔法の気配が途切れた。どうやら中の死体に驚いたらしい。


(…………)


 気を取り直して、ソレを検分する。


(ほぅ。死体は女か)


 すでに白骨化が進み、辛うじて残っていた遺髪と、ネグリジェを纏っていることから女性と判断できた。

 石棺の隅に腰かけ、光魔法で中を照らすと、ボロボロになったネグリジェの胸に茶色っぽい染みがある。


「刺されたのか。貴様は」


 穏やかではない死因だ。犯人はなぜこの女を殺したのだろうか。


(……ん?)


 身を横たえた骸の、腹のあたりがわずかだが盛り上がっている。


「悪いな、女。だが、俺は貴様の身体には興味の欠片もない。安心しろ」


 それはそれで大変失礼な台詞を吐いて、モルドレッドは骸の衣服の下に手を突っ込み……


「本?」


 一冊のボロボロの本を発見した。傷みが激しく、モルドレッドが拾いあげた途端、バキリと音を立てて背表紙が剥がれおちた。


「立派な装丁の本だが。……そうか。表紙が中身を守ったか」


 朽ちゆく死体が服の中に隠していた本が、それでもよく残っていたと思う。試しにパラパラ捲ってみるが……。


「貴様はいったいどこの女だ」


 傷みと風化がひどいが、書かれている文字は明らかにオクトヴィア語ではない。


「……ふぅ」


 淀んだ空気が思考を邪魔する。上に戻るか。


 しかし、階段を登りきったモルドレッドを待っていたのは。


 ガタッ ガタタッ 


「ぬ。開かない……だと?」


 上に重い物でも置かれたのか、ビクともしない床板だった。

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