Chapter04-8 温室の下に眠るモノ
「ここだな」
館の中を漂う死臭――その出所を前にモルドレッドは後ろを振り返った。ドレスの少女は、甘やかな芳香が充満する温室を不安そうな面持ちで見つめている。
(無駄にかさばる服だが、まあ使えんことはない)
モルドレッドは「入るぞ」と後ろの少女に顎をしゃくった。
♤♤♤
ここに来た最初の晩、カーミラがジーン以前の〈勇者〉の話を知っていることに、モルドレッドは興味を抱いた。
〈勇者〉は『創世神話』に登場するにもかかわらず、文献に彼についての記載はほとんどない。モルドレッドの〈勇者〉探しが難航したのは、ひとえにこの情報不足だった。
しかし、ここにはどうやら〈勇者〉について豊富な情報がある――もしかしたらモルドレッドの弟の記録もあるのかもしれない。だから今まで図書室で蔵書を漁っていた。役に立ちそうな情報を、例の覚え書きに書き写したので、存外時間がかかってしまったが。
死臭に気づいたのは、偶然。ただ、あのカーミラから必要な情報をスムーズに聞き出す材料になれば僥倖と、探索に出た。
光溢れる温室に踏み込み、モルドレッドは嗅覚を研ぎ澄ませた。臭いの元を辿ると、
(床に切れ目……地下か)
タイル張りの床に四角い切れ目。隠してもいない。ともかく、隙間から手を入れて正方形の蓋をどかすと、地下へ続く階段が姿を現した。
「おまえはここで花でも見ていろ」
さっき自分で開けた蓋を戻し、その上にドレスを着たメリルを立たせておけばいい。かさばるスカートは、床の切れ目ごと隠してくれる。
念のため視界を共有させ、モルドレッドは階段を下へと降りていった。
螺旋階段を降りた先――そこそこ深さがあった――には、円形の部屋とも言えない狭い空間があった。そして、
(石棺だ)
空間の中央に、人一人が横たわれるほどの石棺が安置されていた。埃が積もっているあたり、ここに死体が容れられてから誰も訪れなかったとわかる。
「【Lift up】」
音も立てずに、重い石の蓋が宙に浮いた。
『きゃっ!』
直後、短い悲鳴とともにブツッとメリルの魔法の気配が途切れた。どうやら中の死体に驚いたらしい。
(…………)
気を取り直して、ソレを検分する。
(ほぅ。死体は女か)
すでに白骨化が進み、辛うじて残っていた遺髪と、ネグリジェを纏っていることから女性と判断できた。
石棺の隅に腰かけ、光魔法で中を照らすと、ボロボロになったネグリジェの胸に茶色っぽい染みがある。
「刺されたのか。貴様は」
穏やかではない死因だ。犯人はなぜこの女を殺したのだろうか。
(……ん?)
身を横たえた骸の、腹のあたりがわずかだが盛り上がっている。
「悪いな、女。だが、俺は貴様の身体には興味の欠片もない。安心しろ」
それはそれで大変失礼な台詞を吐いて、モルドレッドは骸の衣服の下に手を突っ込み……
「本?」
一冊のボロボロの本を発見した。傷みが激しく、モルドレッドが拾いあげた途端、バキリと音を立てて背表紙が剥がれおちた。
「立派な装丁の本だが。……そうか。表紙が中身を守ったか」
朽ちゆく死体が服の中に隠していた本が、それでもよく残っていたと思う。試しにパラパラ捲ってみるが……。
「貴様はいったいどこの女だ」
傷みと風化がひどいが、書かれている文字は明らかにオクトヴィア語ではない。
「……ふぅ」
淀んだ空気が思考を邪魔する。上に戻るか。
しかし、階段を登りきったモルドレッドを待っていたのは。
ガタッ ガタタッ
「ぬ。開かない……だと?」
上に重い物でも置かれたのか、ビクともしない床板だった。




