Chapter04-5 血だらけの
灯りの乏しい廊下を進む。古びた臭いと甘やかな芳香が薄く混じって、館内を漂っている。
「ちょっと……本当に行くの?」
前を行く背中に問いかけるが、背中の主――モルドレッドは「当然だ」と答えるだけ。
この館のどこかに、比較的新しい死体が隠してある。
モルドレッドにほぼ無理矢理つき合わされ、部屋を抜け出したメリルだが、ヤツは肝心の行き先をいっさい言わないのだ。まあ、現在進行形で死臭の元を探しているのだから、言えないだけなのだろうが。
でも、やっぱり良い気分はしない。
数歩前で、モルドレッドが立ち止まって空気の臭いを確かめている。
「こっちだ」
メリルの部屋があるのは、いわゆる「離れ」。そこから緩やかなカーブを描く渡り廊下を通って母屋に行くのだが。
「あ」
足を止めた。渡り廊下は、輝石窓ではなく目の細かい鉄格子がはまっており、外光が差しこんでいたのだ。
メリルは今、姉お手製の衣装を持っていない。洗濯係のメイドが持っていってしまったからだ。
「……くだらんことをする」
立ち止まるメリルにモルドレッドは顔をしかめ、
「被っていろ」
自分の上着を脱いでメリルに投げてよこした。
「……ありがと」
メリルはボソッと礼を言った。モルドレッドはメリルを旅に巻き込んだ張本人だが、ごく当たり前にこういうことをしてくる……どうも調子を崩されるのだ。
「で? アンタの探し物は母屋にあるの?」
照れを誤魔化すように尋ねたものの、モルドレッドはさっさと先へ進んでしまっている。
(気がきくのかきかないのか……変なヤツ!)
むくれて追いかけようとしたメリルだが。
「ウウッ……ウ……」
微かな物音に、メリルは再び足を止めた。
(な、今、泣き声が……)
二人並んで歩けない渡り廊下の先には黒い闇が蟠っている。鉄格子の外は、草丈の低い雑草がまばらに生え、壊れた煉瓦や石材らしき残骸が無造作に転がっていた。
静かすぎるくらい静かだ。
だからこそ。
ナニカが、いる気がする――。
メリルの心臓がトクトクと走り出した。こう見えてメリルは意外と怖がりなのだ。
「どうした。行くぞ」
足を止めたメリルに、モルドレッドがニヤリと笑った。
「怖くなったか?」
「そ、そんなわけないじゃない!」
つい反射で言い返し、メリルはギュウッと両手を握りしめた。イヤな予感しかしない。振り向いたら何か良からぬモノがいるかもしれない。
(前だけ! ムカつくけどアイツの顔だけ見るのよ。そうすればヘンなモノは見えないんだから)
固く決意して顔をあげたメリルだが。
「え」
斜め前の窓からこちらを見つめる緑髪の少女と、ばっちり目があった。
まるで生気がない蒼白な顔……の、目の周りがドロリと赤黒く、ツツと赤色が頬を伝
「あ゛ぁぁぁーー!!」
悲鳴をあげたメリルは、駆け戻ってきたモルドレッドにしがみつくと、ブルブルと窓の外を指差した。
「血! いいい今! 目の周りが血だらけのメイドがぁ!」
「? 血の臭いはしないが?」
ただのメイドだろう、とモルドレッドが走り去るお仕着せを一瞥した。
「でも見たんだってば!」
モルドレッドの胸ぐらをひっつかんでメリルは訴えたが、もうメイドの姿は消えており、誰もいない、うら寂しい庭があるばかりだった。




