表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翼の勇者  作者: た~にゃん
第三部 森の王女 厄災の女神
66/105

Chapter02-5 不届き者と異国の商人

メリル視点です。

(悪い部屋じゃないわ)


 金細工の花蔦に蝶が遊ぶ――豪奢な鏡で髪を整えながら、メリルは満足げに口元を緩めた。


 メリルに宛がわれた部屋――絹のクッションを並べたベッドに猫脚のソファ、彫刻の見事なクローゼットなど、重厚で豪華な家具調度が並ぶ。


(ま、なんだって使えりゃいいのよ)


 と、メリルは軽く受け流した。気が利くことに、中には着替えの下着と服が用意されていた。


(いただくわ)





 服を替えてさっぱりした。輝石は外の光を通さないらしく、肌を晒しても問題ない。久々の身軽な格好(※メイド服)は嬉しい。

 髪を丁寧に結い直し、顔の汚れを念入りに拭き取って。ひと心地ついてから自身の〈黒魔法〉――〈分けっこの魔法〉で仲間たちの視界を覗き、メリルは特に変わった様子がないことに安堵……


(はぃい?!)


 約一名、おかしな視界を見ているヤツがいる。庭園から館の壁に猛ダッシュ、その後あろうことか石の壁をよじ登り……


(ちょちょちょ! 何やってんのよ?!)


 チラと視界に映ったのは、なんと鉤爪。それを石積みの隙間に引っ掛けて――おい!!


 ガタガタガタッ


 輝石を嵌めた細長い窓の上の鉄格子が、ガタガタ揺さぶられている。そして――。


「よっしゃあ! 外れた! メ~リルちゃ~ん♪ 来ちゃった!」




♡♡♡




「アンタ何やってんのよ! バカなの?!」


 換気口から侵入した不届き者――ウィルを床に正座させ、メリルは眉をつり上げた。対する不届き者はというと、


「だって。メリルちゃんを守るのは俺しかいないっしょ」


 悪びれた様子もなく、フフンと胸を張りやがった。ムカつく。


 「守る」と言われてドキッとなんて、してない。


「い、いらないわよ。そんなの」


 プイッとそっぽを向く。そして、チラと横目でウィルを盗み見ると、


(あれ?)


 彼の姿が消えている。


「相手から目を離しちゃダメだよ」


「ひっ!」


 背後からニュッと伸びてきた腕に搦め捕られ、メリルは悲鳴をあげそうになった。何すんのよ! と怒る前に。


「捕まったらおしまい。失敗は取り返しがつかない」


 ひどく冷えた――本来のおちゃらけた彼らしくない声が、耳元で囁く。ドクリ、と心臓が跳ねた。


「もーぉ。メリルちゃんみたいな可愛い子は一人になっちゃダメだって。ね? 俺必要でしょ?」


 コロッ。


 一転、メリルの前に戻って、ウィルはニコニコと得意げに親指を立てて見せた。いつもの彼だ。さっきのそら恐ろしさは欠片もない。


(アンタ、やっぱりどんな生活してたのよ?!)


 さっきの雰囲気――子供の頃に感じたヒリつくような『何か』を、彼のうしろにも見た気がした。


(王族でしょうに)


 ……というか。


「まさか、アンタここに居座る気?!」


「うん!」


 元気よく答えるウィル。だが、曲がりなりにもここは女子の寝室である。そこにウィル(男子)が護衛とはいえ滞在(潜伏?)。つまり、夜も一緒。


「ダメでしょ!」


 叫んだメリルに、ウィルはキョトンとする。


「今までだって同じ部屋で寝起きしてたじゃん!」


「そ」


 そういえばそうだった、と思いかけて、メリルはブンブンと首を横にふる。


「み、みんな一緒くたと二人きりとはぜんぜん違うのよーー!!」


「二人きり?!」


 さすがにウィルも察したらしい。みるみる顔が赤くなる。


「あ、あ、あ、アンタなに想像してんのよ! こ、このドスケベ! 変態!」


「エエエッ?! わぁ?!」


 ギャアギャア喚きながらメリルはウィルを足蹴にし、ウィルは腕でガードしながら必死に弁解を試みようと……


「ご、誤解だよっ! そりゃメイド服のメリルちゃんもちょっといいなって思」


「イヤァーー! 痴漢!」


 火に油を注いでしまった。


 …………。


 …………。


「ハッ、ハァ、ハァ……」


 肩で息をするメリル。手には椅子――化粧台の前にあったヤツだ。それを構えて、ウィルを押しこんだベッド下を睨む。


「…………」


 反応はない。ヤツは沈黙した。だが、もしメリルが椅子を下ろしたら出てくるだろう。膠着状態……


 トントントン


 そのとき。部屋のドアがノックされた。




♡♡♡




「突然失礼いたしました。私はカーミラ殿下にお仕えしております、ハサンと申します」


 ドアの向こうから聞こえたのは、耳障りのいい男の声だった。


(?)


『とりあえず出てみてよ。メリルちゃんになんかするようなら俺が出る』


 沈黙していた痴漢王子が何か言ってきた。


(…………)


「え、えっとぉ……私、陽射しに当たれないのですぅ。奥におりますのでぇ、どうぞ」


 とりあえず体質を口実に、訪問者側にドアを開けてもらうことにし、メリルはサササッと化粧台の後ろの影に下がった。


「失礼します」


 ひと言断って部屋に踏み込んできたのは、ゆったりした袖口が特徴的な異国風の服装の男。薄暗い中ではわかりにくいが、初老にさしかかったくらいの年齢。ふわりと乳香の香りが鼻腔をくすぐる。


(とりあえず武器はもってなさそう?)


「実は、殿下が晩餐会をなさりたいと。そのお誘いに伺ったのです」


 ハサンと名乗った男はにこやかな口調で言った。

 一瞬、「晩餐会」という単語に心躍ったメリルだが。


(もしかして「引っかけ」ようとしてるの?)


 よろこんで、と言ったら最後。貴族の娘だとバレて捕まるパターン?


 それは良くない。


「私たちはただの冒険者パーティーですのでぇ、その……お気づかいなく」


 ハサンはメリルの回答に目を丸くした。


(うぐ……もしかして選択をまちがった?)


 気まずい沈黙――。


 と、そこへ。


「マ、マ、マ~♪」


 やってきたのは二匹の〈厄災〉(ぬいぐるみもどき)。フツーに館に入ってきている。出入り自由なのか?


「マー!」


 一匹がピョーンと飛んで、メリルの膝の上に乗っかった。短い尻尾をちぎれんばかりに振っている。


「あら」


 メリルは反射でよしよしと〈厄災〉(ぬいぐるみもどき)の頭を撫でた。やっぱかわいい。モフモフは癒やし!


「ママ、マーママ!」


 膝の上の〈厄災〉(ぬいぐるみもどき)が何やら言ってきた。しかし残念ながら、メリルに彼らの言葉はわからない。


(笑ってごまかす……ちょっと待って)


 チラとハサンを見て。


(この子たちと話せるってことにしといた方がよくない?)


 あくまでもメリルの感覚でしかないけれど。この館にいる人間はそんなに多くない。メイドだって護衛だって、『フツーの貴族宅』に比べたらとても少ない。それに対し、〈厄災〉(ぬいぐるみもどき)たちは数が多く、しかもフュゼの冒険者を悩ませるほどの矢の使い手だ。


(……使える)


 メリルは早速、念話で姉に話しかけた。問答無用で聴覚を共有させ、


「…………蜂蜜クッキー? カーミラさんとあなたで作ったの?」


 〈厄災〉(ぬいぐるみもどき)の言葉を通訳させた。わかりやすくハサンが目を丸くする。よし!


「マーマーマ、ママ!」


「…………うん! キラービーを育てて蜂蜜採るってすごいよ!」


 これ見よがしに、言葉がわかる&仲良しアピールをする。


(ただの冒険者ならどうとでもできるでしょうけど、森にいっぱいいるこの子たちの「お友達」なら、簡単に手出しできないでしょ! 私って賢い!)


 うわべだけの「歓迎」を信じこんじゃダメよね。人間なんて汚いんだから。


 メリルは心の中でフフンと鼻を鳴らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ