Chapter02-2 謎めいた王女
『ちょちょ、王女ォ?!』
念話でウィルが素っ頓狂な声をあげた。リディアもメリルも、ヘリオスまでも驚きを隠せない。どうして森の中に王女様が?
「私は、生まれつき魔力が異様に高かったのですわ」
リディアたちの驚きを察したのか、カーミラは美しい容に微かな憂いを浮かべた。伏せた長い睫毛が白い頬に影をおとす。
「お兄様より高い魔力だったのが、よくなかったようですの」
兄王子より高い魔力の持ち主だったことが災いして、王宮から遠ざけられた――。カーミラの顔は悲しげだった。
確かに、魔力の高さは血筋と並んで重視される。
(……やっぱり凄腕の魔法使い??)
怪鳥なんか怖くない?? それも気になるが。
『お兄様?』
メリルがウィルを見るが、彼は目顔で「ちがう」と訴えた。
(今の国王陛下のお子は……)
アグネス第一王女、レグルス第一王子、ハンナ第二王女、ウィリアム第二王子――この四人。第三王女はいない。
『認知されていない、ってこと?』
メリルが念話で尋ねた。認知されていない――つまり、隠し子?
『いや、庶子はいるかもしんないけど、わざわざ離宮建てたりしないって』
あのオッサン、女遊びはやりそうだけどな、とウィルが他人事のように言う。
『じゃなくて、アンタの血の繋がってる方の姉妹よ』
ウィルは『怪物王子』――かつて古代魔族モルドレッドの遺骸を飲んだ王族の末裔。しかし、遺骸を飲んだ初代以来、放蕩の果てに勝手に子を為すので、王族の血は入っているもののかなり薄い。ウィルは『怪物王子』がゆえに王族に組み込まれているだけで、国王の実の息子ではないのだ。
それに、異様に高い魔力持ちというのなら――。
『俺、そっちは一人っ子だもん』
『ええ……』
じゃあ、目の前にいるカーミラはいったい『何』なのか。
仮に王の隠し子だったとしても、彼女の見た目は二十代半ばは過ぎている。第二王女であるハンナは、ウィルと一歳差のため、明らかに年齢が合わない。
「ねぇ、旅のお話を聞かせて?」
憂いの表情から一転、カーミラは好奇心に輝く瞳をリディアたちに向けた。
「メリル様のドレス、とっても変わった形ね。もしかして異国からいらしたの?」
ワクワクと尋ねるカーミラ。
「ど、どうして私の名前を?!」
メリルが動揺も露わにカーミラに訊き返した。リディアたちはまだ名乗ってもいないのだ。
「ふふ。この子が教えてくれたの。メリル様と、リディア様、ウィル様にヘレネ様でしょう?」
カーミラが示したのは、彼女の膝の上でごろごろしている〈厄災〉。
『あ、それは俺が教えたんだ。聞かれたから』
〈空間〉からジーンが申し訳なさそうに明かした。まさか〈厄災〉が人間と交流しているとは思わなかったから、と。
(だとすると、カーミラ様は〈厄災〉から私たちの名前と特徴を聞き出したことになるわ)
〈厄災〉とは、ごく簡単な伝達なら身振り手振りでなんとかなる。「おいで」とか、「ごはんだよ」程度の内容だが。
しかし、個人の名前をジェスチャだけで伝えるのは無理だろう。いくらなんでも。
「ねぇメリル様、異国のお話を聞かせて」
こちらの動揺に気づかず、少女のように無邪気な笑みのカーミラ。そう、無垢な少女のように……。
「わ、私、陽射しがダメなんですぅ。だから、えっと、異国の話はできないのですぅ」
上擦った声で答えるメリルに、カーミラは「まあ!」と目を丸くし、白い指先を口許に当てた。陽射しに当たれない人間がいるなど、聞いたこともないといった風。灰色の瞳をまん丸にして、ハッと気がついたように、
「ごめんなさい」
シュンと肩を落とした。その様子は痛々しく悲しげで、剥き出しの感情に中てられたメリルは慌ててフォローした。
「い、いえ! そんな! 気にしないで……ほら! 輝石窓は外の光を通さないから全然平気なのでぇ」
大丈夫、とメリルがパタパタと手を振る。
(なんだろう……何か……)
リディアは違和感を強く感じていた。でも、その正体がわからない。
「本当? 嬉しい!」
一方のカーミラはキラキラと嬉しそうな笑み。感情の起伏がはっきり出るタイプのようだ。でも、違和感の正体はこれではない、とリディアは思った。
「どうぞ」
そこへ年嵩のメイドがやってきて、リディアたちの前に紅茶のカップを置いた。
カップは、飲み口が大きく広がったピオニーシェイプ。外側はミントグリーンに金のラインが入ったシンプルなデザインだが、内側には一面に薄紅色の薔薇が繊細なタッチで描かれている。
「これ……!」
ウィルが思わず声をあげた。
「『ベルローズ』だ! ほ、本物だ」
碧玉の瞳を見開いて、薔薇を凝視するウィル。
『ベルローズ』とは、王室だけのために考案されたティーカップの絵柄である。その名の通り、花の真ん中がややくびれた鐘のようなシルエットの薔薇は、王室のシンボルでもあり、文字通り、王族以外は使ってはならない品だ。
「フフッ。ウィル様はよくご存知ですわね」
微笑むカーミラは、上品な手つきでカップのハンドルを持った。そして、何気なしに……
「誰と話したの?」
膝の上でごろごろする〈厄災〉に話しかけた。
「マ、マーマ、ママーマ(ヘレネとジーンって言う茶髪の男だよ)」
「ヘレネ様とジーン様?」
〈厄災〉の言葉を理解して、喋っている?!
驚くリディアたちの前で、カーミラはぱあっと顔を輝かせた。キラキラした灰色の眼差しは、銀髪の怪しい男の娘と化しているヘリオス(ヘレネ)に向けられている。
「やっぱり! ヘレネ様というお名前で綺麗な銀色のお髪……。それに、この子たちと話せるなんて一人しかいないわ。聖女ヘレネ様!」
「?!」
「私、『創世神話』が大好きですの! 〈聖女ヘレネ様〉は傷つき病に苦しむ者を種族を問わず憐れみなさる――癒しの奇跡を施されるお方。ああっ! なんて素敵なのかしら!」
素早く、優雅な仕草でソファから立ちあがったカーミラは、ヘリオスの前に膝をつくと、感極まった様子で彼女(♂)の手を自らの両手で包みこんだ。
(やっぱり、何か引っかかるんだけど……)
この違和感は何なのだろう。強く感じるのに、その正体がわからない……。
〈厄災〉独自の言語をとりあえず既存の言語(韓国語)で代用しております。オリジナル言語を作るべきだったのですが、その余裕がなく☆⌒(_;´꒳`;):_




