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翼の勇者  作者: た~にゃん
第三部 森の王女 厄災の女神
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Chapter02-1 厄災の女神

 その後、いかだは森を出て街道に渡された橋の下を一瞬のうちに通過して再び森の中へ入り、川の流れが緩やかに変わったところで、目的地に到着した。


 いかだを降りたタイミングで、リディアの身体を駆けめぐっていた温もりはスゥ、と消えてしまった。感覚が戻ってくる――やっぱり不思議な気分だ。


 到着した桟橋は、ツリーハウス集落の場所とはちがって、小規模ながら堅牢な造りの立派なものだった。紐だけでなく釘――金具も使ってあり、いかだを繫ぐロープも細い縄を編んだ太いもの。


(人間の手が入っている……?)








 〈厄災〉(異世界種)たちの案内で桟橋から森を歩いてしばし。緑の木々の向こうに突然、石造りの城館が姿を現した。



 繰り返すが、森の中に、だ。



 城館の周りは草木が刈られており、明らかに自然の植生ではない――林檎やアーモンドなどよく見知った植物に囲まれた庭園もある。しかし、その外側は全方位が原生林。城館と外を行き来するための道はない。


(ここは、いったい……?)


 疑問符をとばすリディアの横を、武装した〈厄災〉(異世界種)たちがトテトテと駆けていく。


 ――しばらくして。


 城館から戻ってきた〈厄災〉(異世界種)は、一人の女性を連れていた。


 まるで『エルフ』のような美しい女性を。


 身体のラインに沿うドレスはクリーム色で、腕と腰骨のあたりを締める帯は柔らかな草木染め。ドレープがたっぷりの広い袖口からのぞく腕はすらりと細く。

 﨟たけた白い肌に、ガラス玉のような大きくて澄んだ灰色の瞳。スッと通った鼻筋、ぷっくりと厚い唇――美しく整った彫りの深い顔立ちは、精巧な人形を思わせる。

 波打つ豊かな髪は月の光を集めたようなプラチナブロンド。結い上げていないからか、髪を飾るのが白い野の花だからか。浮世離れした――『エルフ』のような印象を受けるのかもしれない。


 彼女は、懸命に何かを言う〈厄災〉(異世界種)に微笑んでいる。あわく紅をひいた唇が、妖艶な弧を描く。


「あら」


 リディアたちを認めるや、美女は柔らかくて品のいい笑みを浮かべた。吸いこまれそうな大きな灰色の瞳がこちらをじっと見つめる。


「お客様?」


 ドレスのスカートを揺らしながら駆けよってきた彼女は、にっこりとリディアたちに問いかけた。


「あなたたちはだあれ?」




◆◆◆




 通されたのは、城館の一室。


 室内には美女と、メイド服を着た女性が二人。一人は淡い緑色の髪をおさげにした十二、三歳くらいの少女で、もう一人は灰色の髪を引っ詰めた飴色の瞳の年嵩の女だった。


 粗末な服を着た客人(リディアたち)に、緑髪の少女はびくりと肩を震わせ、年嵩の女は軽く目を剥いた。しかし、〈厄災〉(異世界種)をくっつけた美女がニコニコと「お客様なの!」と言うと、戸惑いを露わにしながらも何も言わなかった。


『この人がクマの言う『姫様』っぽいね』


 ウィルがコソッと念話で囁いた。


 向かいの長椅子に腰かける美女の膝の上では、鎧を脱いだ〈厄災〉(異世界種)が頭をのせて、甘えた声を出している。

 豊かなプラチナブロンドの髪が光を反射し、俯いた横顔はさながら女神のよう。彼女の纏う衣服が、教会の女神像のそれに近いからだろうか。


(こんな森の中に……。いったい誰なのかしら?)


 立派な館に住み、召使いもいる。でも、貴族にしては妙な服装だ。言うなれば、おとぎ話から飛び出してきたような――現実との落差がありすぎる。


(それに……)


 何か、違和感を覚えるのだ。


(そういえば、変わった部屋ね)


 板張りの床は正八角形。八面の壁には天井近くまで届く縦長の窓。ガラスではなく、白く淡い光を放つ輝石が嵌め込まれている。


(わぁ……!)


 見上げると、正八角形の天井にもその白く光る輝石が嵌め込まれ、まるで……


(ん!)


 一瞬、頭の芯が白く痺れたような感覚に、リディアは目を瞬いた。何……? 


『窓が細長くて、ガラスの代わりに輝石を使っている――リディア、この辺りは怪鳥が出るみたいだ』


 〈空間〉からジーンが言った。


 怪鳥とは、獰猛な大型の猛禽の総称である。ジーン曰く、輝石窓は怪鳥が出る地域ではよくある様式らしい。輝石は怪鳥の体当たりを受けても割れない。窓が細長いのは、強度と、採光の悪さを補うためだとか。


『外に出たときは、上に注意して。鳥って音もなく降りてくるから』


 だそうだ。


(え、でも、彼女はさっき外に)


 怪鳥が出るのに、美女は普通に外に出てきた。護衛もなしで。


(無防備すぎない?!)

 

 それとも、長椅子でくつろぐ美女は凄腕の魔法使いだったりするのだろうか。そんなふうにはとても見えないが。


 その美女がフワリと立ちあがった。


「ようこそいらっしゃいませ、旅のお方。私はオクトヴィア王国が第三王女、カーミラ・ダーナ・オクトヴィア。訳あってこの森の離宮を賜っておりますの」


 口上を述べて、美女――カーミラはにっこりと屈託のない笑みを浮かべた。


『ちょちょ、王女ォ?!』


 念話でウィルが素っ頓狂な声をあげた。

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