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翼の勇者  作者: た~にゃん
第三部 森の王女 厄災の女神
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Chapter01-4 恐怖のずぶ濡れラフティング

 一夜明けて。


 ツリーハウスから降りたリディアたちが目にしたのは。


『いかだだね』


 〈空間〉からジーンが言った。


 丸太を細い紐で縛っただけ――それこそ、切り倒した木を長さを整えることもせずそのまんま使ったとわかる超絶シンプルな造りのいかだである。それを、武装した〈厄災〉(異世界種)が数匹がかりで引きずっていった先は……?



『川だ』



 ツリーハウス集落から少し歩いた地点に、大きな川が流れており、丸太を組んだだけの粗末な桟橋が拵えてあった。


 〈厄災〉(異世界種)曰く、この川を下った先に『姫様』の館があるという。


「川下りだぜ、川下り! メリルちゃん、川下りって初めてでしょ? も、スリリングでさ、すっっごく楽しいから!」


 ウィルが目をキラキラさせて、はしゃいでいる。


 目の前にある川は、川幅も広く、流れは穏やかに見える。スリリングかどうかはわからないが、森の中を歩くより楽な移動手段だろうと、このときはリディアも思っていた。




 ……そう、思っていたのだ。




「ママー!(ヒャッハー!)」


「ひゃっほーぅ!!」


 ザッバーーン!!


「キィヤァァァーーー!!!」


 リディアたちはすっかり忘れていた。


 川の流れる方向は東――カストラム方向。そして、カストラムは四方を崖に囲まれた谷間の城塞である。つまり、地形はカストラムに向かって急激に低くなっていく。


 出発した当初は緩やかな流れだった川は、次第に流れが速くなり、


 ザザーー! 


   バッシャーーン!!


 小さな滝がいくつもある急流に様相を変えていた。丸太を紐で縛っただけの超絶シンプルないかだは、急流に揉まれ、滝を飛び越え派手に水飛沫を散らし、


 ザザザァー!!


「いぃーーやぁぁぁ~~~!! ブフホッ?!」


 楽な移動なんてとんでもない。恐怖のずぶ濡れラフティングに、ウィル以外は悲鳴が途切れない。


「ママー!(ヒャッハー!)」


 ぬいぐるみもどきたちは、見ているこちらが怖くなるような足裁きでいかだを操っている。よく放り出されずにいられるものだ。


「マ゛ァ?!」


 ……訂正。本気で吹っ飛びかけるぬいぐるみもどきもちょこちょこいる。大丈夫か。


「ママーマ、マーマー!」


「もうすぐでっかい滝があるって!」


 身振り手振りでぬいぐるみもどきの言わんとすることを理解したウィルが、期待に輝く瞳で教えてくれた。リディア以下三人の女子(?)は顔面蒼白、なりふり構わずいかだにしがみつく。


「お、お、おカニ様ァ、おエビ様ァ、おシャコ様ァ!」


 ヘリオスがお祈りをはじめ、


「こ、こんなときは懺悔よ、懺悔……」


 メリルが据わった目でブツブツと何やら言い始めたところで、いかだが宙に放り出された。


「ぎゃあああーー!!! まだ死にたくないィ~~!!」


「隣国のお義母さまァ! 貴女のプリンを食べた犯人は私~~~!!」


 ヘリオスとメリルの絶叫が滝にこだまし、白い水煙がいかだを包む。


 水しぶきが金剛石よりもまばゆく陽の光を反射する。スローモーションの視界は森の緑半分、空の青半分。その空を白銀に揺らめかせて、太陽が光の六弁花を咲かせていた。六弁花は揺らめいて、さらに光の筋を増す――。


(ああ……あれは、なん、だった、っけ?)


 何かの形に似ている。

 何かの――。


 リディアの茜色の瞳に、赤にも緑にも見える光の花が映りこむ。



 ――スゴイ、発見ダッタンダ……。

 ――ボクノ……エタ……最……ノ……



 世界が白銀に溶ける。

 『記憶』までも――。アレは、いつだったか……?

  


 瞳が太陽を追い、リディアの両手がいかだから離れた。


 姉の異常に気づいたメリルが目を大きく見開く。でも、リディアはただ茫洋と上を見上げ……。この態勢のままでは、着水と同時にいかだから投げ出されてしまう。


「リディアちゃん!!」


 ウィルが手を伸ばすが、あと少しで届かない……!


 眼下に渦を巻く水面が迫る。このままでは衝撃で……




『【我に従え】! 目を覚ませリディアーー!!』




 〈空間〉からジーンが叫び、彼の魔力がリディアの身体を伝う。


 上体を起こした態勢のリディアが、突然ガクッと身を伏せ、だらりと下がっていた両手がいかだを掴む――リディア自身の意思とは関係なく。



 ザッバーーン!!



 いかだが着水し、水しぶきが一瞬いかだの上に白いドームを形づくり、キラキラと光を弾きながら崩れていく。


「ッ?!」


 衝撃と顔に落ちた水の冷たさで我に返ったリディアは、目をパチパチと瞬いた。さっきのはいったい……?


『リディア?! 気がついた?!』


 ジーンの焦った声が脳裡にやけに反響する。


(温かい……?)


 温かな流れが身体中をかけ巡っているのだ。頭から指先までも。それから妙にふわふわする。


『ジーンさん?』


 〈空間〉に問いかける自身の声は、ジーンのそれとは反対にくぐもってよく聞こえない。


『念のため、いかだを降りるまでは俺が君を〈動かす〉。楽にしてな』


 響いてくる声は優しい。


『〈動かす〉……ジーンさんの魔法、ですか?』


 もうずいぶん前に思える、ゴブリン戦の時と同じように。

 わずかに、肯く気配を感じた。


 なら、身体を巡る温かな流れは、ジーンの魔力だろうか。ふと手許に目を移すと、己の手がしっかりと――指先が白くなるほど強くいかだを掴んでいる。なのに、リディア自身には、まるでそうしている感覚がない。自分の身体なのに自分でないような……。


(不思議……)

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