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翼の勇者  作者: た~にゃん
第二部 旅のはじまり
53/105

Chapter06-1 行き場を失って

 ――困った。


 思わぬトラブルから、寝る場所を失ったリディアたち。けれど、人里でないところで野宿するのは危険である。森の縁――ワームはもちろん、夜行性の肉食獣だっているのだ。


「ジーン、何度も悪いけど。東の門へ運んでくれないかな?」


 隣を歩くヘリオスの声は、思ったより穏やかだった。彼はもっと怒ってもいいはずなのに……。


 メリルはあれからひと言も喋らない。〈空間〉が見えないリディアには、妹の様子を知る術はないが、心はひどくささくれ立ったまま。胸には、身勝手なことをしたメリルへの腹立たしさが渦を巻いている。


「リディア、さっきはごめん」


 せかせかと歩くリディアに、何を感じたのか、ヘリオスが真剣な声で謝ってきた。


 立ち止まり、足を止めた彼を振り返る。夜のヴェールの下では、彼の深い海色の瞳もモノクローム――灰色……よく、わからない色。


(だから……なんで、貴方が)


 昼間より読み取りづらい視界の中で、奇妙な罪悪感が、悪戯にささくれた心を撫でてはまとわりつく。口に出してはいけない言葉が、己の喉をくすぐる。


 ため息――。


 これはリディアの八つ当たりでしかないのに。自分はなんて感じの悪いヤツなのかと、自覚して唇を噛む。


「いえ……。仕方ない、ですから」


 平静な声が出せただろうか。


「ゴメン……」


 二度目の謝罪への返事は、しなかった。




 

 村が見えなくなるまで歩いたところで、ヘリオスとウィルを〈隠し〉、リディアはヘリオスによって再び小さな砂色のカニに姿を変えた。蝙蝠の群れとなったジーンが、小さなカニを足に引っかけて空に舞いあがった。



 

◇◇◇




「ディオと名乗る聖職者は、魔女派の異端だ。見つけ次第捕らえるように」


 リディアを取り逃がした紳士は、城門に来ていた。


「魔女派の……? 犯罪者ではなく、魔女派でございますか?」


 威丈高に門の兵士に命じた紳士だが、呼び出された警備隊長は首を傾げた。


「魔女派は異端。犯罪者と同じではないかね?」


 当然と言わんばかりに目を眇める紳士に、警備隊長は内心で「ねぇよ」と突っ込んだ。


 異端――そんなモノをどうこう言うのは、大都市だけである。小都市(フュゼ)で宗派がどうのと差別すれば、領兵も冒険者も集まらない。論じる価値もない。


 ……本来なら。


 しかし、目の前で威張りくさるお貴族様は、確かカストラムから来たはず。カストラムの領主は伯爵様だ。一方のフュゼは男爵様。身分的にはカストラム伯爵の方が上。そこからの要求となると……。


「警備隊の一存では動きかねまする。一度領主様に」


「異端は重罪人である! 見つけ次第即刻捕らえよと命じているのだが? 私は何か妙なことを言っているのだろうか」


 穏便にやり過ごそうとした警備隊長だが、紳士は遮って早口に捲したてた。


「い、いいえ! めっそうもございません」


 大慌てで否定する警備隊長。


「ならば今すぐ命令を徹底させたまえ」


「ははっ!」


 奇妙なことを言うお貴族様だが、身分は上。下手に逆らうと厄介なことになると思えた。警備隊長は、言われた通りに部下を集め、件の聖職者を見つけ次第捕らえるよう命令を出した。




◆◆◆




 夜空を飛ぶことしばし。眼下に篝火と、それに照らされる城壁が見えてきた。壁が崩れ、足場が設けられたあたりには、兵士が何人も辺りを警戒していた。


「城壁の内側に降りる?」


 カニの姿をしたリディアに、蝙蝠の群れ(ジーン)が問うた。


「そうですね」


 いくら姿を変じているとはいえ、蝙蝠の群れがカニを運んでくるのは珍事でしかない。壁の内側なら人が少ないだろうか?


「こっちもたくさんいるな」


 夜空を旋回しながら、ジーンが城門前の広場を見下ろし言った。

 壁の内側に篝火はなく、ランタンがぼんやりとした白い光をポツポツと広げているばかり。壁の外側と比べて暗いため、広場を行き来するのが兵士なのか冒険者なのかは判断がつかない。彼らが慌ただしく行き交う理由も。


「ジーンさん、どこか物陰に降ろしてくれませんか?」


 行き交う彼らがリディアたちを捕まえようとしているのか否か――それは、上空からではわからない。会話を聞ける距離まで近づいてみようと、リディアは提案した。


「わかった」


 闇の蟠る路地に降ろしてもらったリディアは、小さなカニの姿でシャカシャカと広場を横切り、城門手前に積み上げられた荷車の影に身を潜めた。


「魔女派が気に食わないって?」


 手始めに、門の脇で話している二人組に近づく。


「そうらしい。見つけ次第捕まえろとよ」


(もう手配されているの?!)


 思わず二人組を見上げるリディア。服装から二人は兵士のようだ。彼らは足許に小さなカニがいることには気づかず、お喋りを続けている。


「で? 問題の僧侶様って女と見紛うスッゲェ美人ってホントか?」


(ドキッッ?!)


「おうよ。実物を見たけど、口を開かなきゃシスターで、いや、ご令嬢で通るぜ」


(はわわわわっ?!)


 図らずも真実を言い当てた兵士に、動揺したリディアはシャカシャカと横歩きをし……。


 何かにぶつかった。


(?)


 真横に気配――まず目に入ったのは、忙しなく動く長い触角。次いで黒光りする


『きゃああぁっ!!! ご、ゴキブリ?!』


 自分と同じデカさのゴキブリと対峙した恐怖たるや。身も世もない悲鳴……ではなくプクプクプクーッと泡を噴いてリディアは、広場を猛スピードで逃げ、


『びびび、びっくりしたぁ』


 城門を駆け抜けたところで、ゼイゼイと息を切らした。ゴキは……よかった、ついてきていない。


 ……と。


「ディオさん、まだ見つからない?」


「のようだな」


 頭上から落ちてきた聞き慣れた声に、リディアは思わず上を見上げた。


(ヨルク君?!)

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― 新着の感想 ―
自分と同じデカさのゴキブリ怖すぎる( ˘ω˘ )
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