Chapter05-2 ちょうだい!
前半メリル視点、後半ジーン視点でお風呂シーンとなります( ´艸`)
「お願い! 一着でいいの。私にちょうだい!」
村長の家――。
今は外つ国の傭兵に厳重に守られた玄関先に、姉の服を着たメリルは立っていた。
「?! リディアさん、急にどうされたんです?」
出てきた村長は戸惑い顔。少なくとも、村長から見たリディアは控えめで、まさしく神に身を捧げた聖者様に付き従うに相応しい人柄だと思っていたのだから。なぜこんなに押しが強い?!
「お願い! お願い! お願い!」
勢いで押し切ろうとするメリル。彼女は彼女で必死だった。
だって……。
あの服さえあれば、陽射しがダメな自分でも昼間外に出られると思ったから。
家を出て一週間、存在を秘していることもあり、メリルは一日の大半を〈空間〉で過ごしている。それが、もう苦痛になりつつあった。
「リディアさんが来ているの?」
メリルの声が聞こえたのか、家の奥からニーナが顔を覗かせた。
「お願い! 私にあの服をちょうだい! 一着でいいの!」
ニーナの顔を認めるや、メリルはメリルで必死に頼みこむ。
(だって! たくさん貰ったって言ってた! なら一着くらい恵んでくれたって……!)
どんなに地味なものでもいい。
たくさん貰ったのなら、一着くらい気に入らないものだってあったろう。
だから……!
街で売られていたその服は、あまりにも高価で手が届かなくて。でも、光の世界には出たくて。
何度も言うが、メリルは必死だった。邪な思いなど、いっさい無く。
「ええっ?! 旦那様からいただいた服を?! ダメよ。あれは贈り物だもん」
姉に成りすましている以上、陽の下に出られないことは話せない――ニーナが申し出を断るのは当然だろう。そもそも、ニーナからしたら旦那様は格上の存在。贈られた物をあかの他人に譲り渡すなどもっての外だ。
「そんな……!」
「リディアさん、なんであなたが砂漠の国の衣装を欲しがるの? いったいどうしたの?」
目の前にいるのは、確かにリディアだ。けれど、まるで雰囲気がちがう。ニーナの知るリディアは、控えめで優しくて、穏やかな微笑みを絶やさず、聖者様に付き従うに相応しい人柄だった。だからこそ、リディアには心の内を吐き出したりできたわけで。
「お願い! お願いします! 私を助けると思って!」
彼女はこんなに勢いこんで話す人だっただろうか。
「リディアさん、そのお願いのことは忘れるから、今日は戻って。ね?」
戸惑いながらも、ニーナは精一杯の優しさを彼女に向けた。奥からは騒ぎを聞きつけたのだろうか。客人であり旦那様の声が……。
「旦那様に聞こえたらよくないわ。帰って」
トラブルになることは誰も望んでいない。それはニーナもメリルも同じだったろう。だが、人は時に周りが見えなくなることだってあるのだ。
「そんな! ひどい! 欲張り!」
心をすり減らしたメリルの口からは幼稚な罵倒――さすがのニーナも顔色を変えた。
「な?! なんなのあなたこそ! もう帰ってよ!」
悲鳴じみた声に、奥から複数の足音が迫る。恐怖を覚えたメリルは、謝罪もなしにその場から駆けだした。
♧♧♧
「な……なんで君たちも入ってるの?」
一方、手作り風呂で騒いでいた野郎どもはというと……?
小さな風呂にぎゅうぎゅうに身を寄せ合って入っていた。もともとそんなに大きく作られていなかった風呂桶である。そこに無理やり三人。
「ええーっ! いいじゃん一緒に入ったって」
「そうそう!」
自分を風呂に放り込んだ二人は、狭苦しいのに楽しそうだ。ジーンは居心地悪そうに身体を縮めた。
……どう振る舞っていいのかわからない。
冷たく、決して温まることのない身体。陽の下に出られない体質に蝙蝠の羽――普通の人間なら気味悪がるし、場合によっては忌み嫌い、排斥しようとするだろう。だからこそ、手袋をはめ、人間には極力近づかないようにしてきた。
人間ではなくなってしまったから。
人間から距離を置いて、深く関わることをやめてしまったから。
必要なことをするのはどうともない。けれど、そうではないことで面と向かいあうのは――戸惑ってしまう。どうするのが正解なのか、どう答えれば安全なのか、わからないから。
「ジーンさんってさぁ」
不意にウィルが口を開いた。思いのほか真剣な表情でまっすぐ目を見つめられ、ジーンはごくりと唾を呑み込んだ。
(やっぱり、体温がないのを変だと思ったんだろうか)
ジーンの不安を反映してか、風がヒュゥゥと鳴いて存在を主張する。
…………。
「ご飯、食べられないの?」
「……え」
(そっち?!)
いや、てっきり人間じゃない部分を根掘り葉掘り聞かれるのかと身構えていたから……。
「食べられないの?」
身を乗り出して問うウィル。ものすごく真剣な表情だが、鼻がくっつきそう。近い。
「そ、そんなことはないよ」
ジーンは仰け反って答えた。食べられなくは、ない。必要なくなったから、食べなくなっただけ。
「そっかぁ~。よかったぁ~」
すると、ウィルはニヘラ、と気の抜けた笑みを浮かべた。顔が離れてホッとするジーン。
「じゃ、明日からジーンさんも一緒に食べよ!」
「え」
だが、次ぐ台詞にジーンは目を瞬いた。
一緒に……?
自分、食べなくてもまったく問題ないのだが。それに、必要もないのに食べることになんの意味が?
「ウィル、俺は食べなくても平気なんだ。それに、食費だって……」
「食費じゃないの! ジーンさんだけ食べないのがイヤなの!」
バシャッ、と湯をはね飛ばして、ウィルがずいと身を乗り出す。全裸で距離がほぼゼロ。いろいろと誤解を招く――一部の女子が見たら鼻血を噴く絵面ができあがっている。
「ジーン、君の体質がどうなっているのかは、僕にもわからない。でも、もし君が嫌でないなら、一緒に食べて欲しいんだ」
食事は生きる糧であり、楽しみであり、会話の場になるから。
ヘリオスが濡れた銀糸をかきあげながら言った。湯で温もったらしく、白い頬が上気し、なんとも妖しげな色香が漂う。……言っておくが他意はない! たまたま、だ!
「そうだよ! ジーンさんが何にも食べないとリディアちゃんが悲しむんだからっ!」
(……なんでそこでリディアの名前が?)
戸惑うジーンに、ヘリオスがニタリと笑う。
「ボア肉、食べなかったもんな~。リディアが初めて仕留めた獲物だったのに~」
「うっ」
確かに夕食時、彼女からすすめられた。でも、いつも通り笑顔で断ってしまったことを思い出し、ジーンはたじろいだ。
「悲しそうだったなぁ~、リディア」
「だよな~! も、泣きそうだったし」
さらに悪ノリしたウィルからも責められ、ジーンはますます狼狽える。
(そんなに悲しませたのか?!)
思い返せば肉を断った時、リディアの顔をよく見ていない。
(ダメだ! 思い出せないーー!!)
ニヤニヤする二人の前で頭を抱えるジーンだった……。




