Interlude 王都城門にて
さて。その頃――。
「なぜ貴女がいるのですか? シャルロッテさん」
王都トリクローヌ東の城門、エルナト街道の出発点にて。
『怪物王子』捜索の任を受けたアイスローズは、招かれざる訪問者を冷たい眼差しで見下ろしていた。
「フニャフニャフニャ……」
空色のフリフリひらひらのエプロンドレスに、整えてもいないバサバサの髪、出しっぱなしのネコ耳。今はそれに加え、お魚の形の大きなリュックを背負っており……。完全にピクニック気分、気が滅入ることこの上ない。
(馬の手配でずいぶん待たせると思えば、原因はシャルロッテさんですか……)
アイスローズとしては、高確率で道中よけいなトラブルを起こす猫のお守りなど、御免被りたいのだが。
(おおかた、レグルス殿下がこちらの動きを嗅ぎつけたのでしょうね)
タイミングといい、馬の手配を遅らせる妨害工作といい、無駄に手際のいい王太子様だ。
「フニャフニャフニャ……」
んで、何やってんだ? この猫。
「シャルロッテさん?」
猫に一歩近づいて、アイスローズはふと感じた違和感に足元を見て……?
にゃ~るツナ、にゃ~るササミ、にゃ~るカツオ、にゃ~る……
おびただしい量のにゃ~るの包み紙が、猫の足元中心に散乱しているではないか!
なお、『にゃ~る』とはやんごとなきお猫様御用達の高級キャットフードである!
「フニャッ! お弁当全部食べたニャ!!」
元気よく振り返った猫の口には、にゃ~るのカス。どうやらお魚リュックの中身はすべてにゃ~るだったようだ。
「そうですか。では貴女のピクニックはここで折り返しですね。お疲れ様でした。おうちに帰るまでがピクニックですから、く れ ぐ れも、問題など起こさないよう」
「ニャ?」
金色の大きな目をぱちくりさせる猫の、ほっぺについた食べカスをハンカチでぬぐったあと、アイスローズはくるりと猫に背を向け、スタスタと城門へ歩きだした。
さっきどっかの幌馬車が通過したばかりだ。移動用の馬はそこから『もらう』として。
「アイスローズ様、実はこれ」
「私は耳が遠いことを貴方は知らなかったのです。ですから貴方は何も悪くありません」
衛兵から差し出された、明らかに猫のエサ代であろう金貨ずっしりの袋を突き返し、アイスローズは一人、捜索の旅に出たの
「ニャンパーーーンチ!! 獲ったニャー!!」
吹きぬける烈風。そして捲れ上がるスカートと宙を舞うにゃ~るツナ、にゃ~るササミ、にゃ~るカツオの色鮮やかな包み紙、あと、衛兵の誰かが隠し持っていたけしからん絵画……。
「嗚呼……。そういうことですか。コレに乗っていけと」
マーブル模様に流れる景色に、シャルロッテに担がれたアイスローズは独り言ちた。チラと見えた金貨の袋には、鮮やかな色糸を編んだ猫じゃらし(※レグルスの手作り)が結びつけてあった。実にご丁寧な工作である。
後方にはもうもうと立ちこめる砂煙、ぐんぐん遠ざかる城門。馬より速い。
あっという間に前を行く幌馬車に追いつき、追い抜きざまにアイスローズの髪にくっついていたにゃ~るの包み紙とけしからん絵画が舞い上がり、幌馬車の馭者の顔にペシャッと張りついた。
「〇§(・∀・)#〓▷~!!」
手綱操作を誤って麦畑に突っ込む幌馬車をしり目に、化け猫はさらに加速する。
「泥棒猫ォ!! 待ってるのニャ~~~!!!」
化け猫とメイド服の隠密コンビは、あっという間に麦畑の彼方に見えなくなった。
城門の衛兵Aと幌馬車の馭者は尊い犠牲となりました( ˇωˇ )




