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翼の勇者  作者: た~にゃん
第二部 旅のはじまり
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Chapter02-2 外来種ゴールデンロッド

「おおい、聖職者の兄ちゃんよ」


 野太い声でリディアを引き留めた、威圧感バリバリな冒険者は、自らをイーノックと名乗った。


『デカい……』


『バッキバキだわ』


『すごい迫力だね……』


 泣きそうなリディアをよそに、 〈空間〉 で三人がコソコソと囁いている。気楽で羨ましい。


「ったく、ラームスのタヌキ(ジジイ)が。旅の聖職者様を巻きこみやがって」


 受付から少し離れたテーブルにドカリと腰かけ、リディアに向かいの椅子を示す。座れということらしい。


「聖職者様よ、あの村に肩入れするのはやめときな。大きな声じゃ言えねぇ事情があるんだ」


『話を聞いてみて、リディア』


 ジーンに言われて、リディアは恐る恐るイーノックを見上げ……。


(にににに睨んでるわ! 無理無理無理無理!)


 イーノックは筋骨隆々の見本のような体躯であり、何度も言うがかなりの強面である。子供だったら一発で泣く。そんな顔。


「……取って食やしねぇよ」


 ボソリと吐いてから、イーノックが言うことには。


「ラームスのヤツらは、どこの馬の骨とも知らねぇ外つ国の商人に身売りしたんだよ。ンなことやってみろ、森で採れる獣肉も魔物の素材も薬草も、みんな連中に盗られて、こっちにゃ入らなくなる。代わりに、その商人んとこの傭兵に村を守ってもらうんだとよ」


 恩知らずなこった、とイーノックが結んだところで。


 ギルド内に、大きな麻袋を担いだパーティーが、わいわいと話しながら入ってきた。


「ゴールデンロッドだ。確認を頼む」


 大きな麻袋を指して、リーダーらしき茶髪の若者が職員と話している。採集依頼だろうか?


 ややあって、職員と麻袋を担いだパーティーメンバーが、連れだってロビーの奥へ消えた。


「クソ困った外来種でよぉ」


 彼らを指して、イーノックがしゃべりだした。


「先代の領主様が、食糧の主軸にしようってことで外つ国から買い入れたのが、アレだ。荒野でも育ち、栗に似た実を鈴なりにつけるってな。麦畑の麦は、ほとんどが王都に取られちまう。庶民のためにって、領をあげて栽培したんだ」


 そこで言葉を切り、アンタも見とくか? と、イーノックは腰をあげ、顎をしゃくった。


 …………。


 …………。


「思うようにゃいかねぇもんでよ」


 歩きながらイーノックは話を続ける。強面ゴリマッチョは、思いのほかよく喋る。


「ここに植えたゴールデンロッドは、食える実なんぞいっさいつけなかった。それどころか……見ろ」


 ギルドのロビーを通り抜けた奥は、広い中庭になっていた。その一角、曇り空の下で先ほどのパーティーが麻袋の中身をあけていた。袋から出てきたのは、草丈が一メトルほどの不格好な植物。


 (コブ)だらけの肥大した短い茎、それを取り巻くように、大人の手の平より大きな葉がスカートのように幾重にも重なり、葉っぱスカートの天辺には、黒々と毒々しい色合いの泡のような(つぼみ)が密集している。形も色もグロテスク。


「これが……食べ物?」


 思わず呟いたリディアに、パーティーメンバーの一人が振り返って苦笑した。


「ハハハ! ぜんぜんそう見えないでしょ。実際、食えるとこないしね!」


 実はつけるけど種ばっかでさぁ、と彼は言った。曰く、悲しいほどに可食部がないのだそうだ。


「しめて三株。図体がデケぇから駆除もはかどらねぇ」


 イーノックが、根こそぎ抜かれたゴールデンロッドに舌打ちをした。



 フュゼでは、森の肥沃な土を畑に混ぜこみ、小麦や他の作物を育てている。逆に作物を育てた後の古い土は森に戻し、栄養豊富な土になるのを待つのだが。その際、ゴールデンロッドの種が土に紛れて森に運ばれて、大繁殖してしまったのだ。


「図体のデカさだけあって、コイツが育ったあとの土地は痩せちまって作物が育たねぇ。そんな養分食いのモンスターが繁茂して、森が無事で済むワケねぇだろ?」


 森の土が痩せ、食べられる木の実や果樹が十分に実をつけなくなった。

 結果、森で採集できる木の実や果実が激減し、それらをエサにする獣も減った。森の土が痩せたことで、その土に頼っていた畑も、作物の成育が悪くなっているという。


「人間様の食糧が脅かされてるってワケだ」




◆◆◆




『お姉さま、ボケッとしてないで冒険者登録!』


「あ!」


 ロビーに戻ってそのままギルドを出ようとしたリディアを、メリルが怒鳴りつけた。

 いけない。イーノックのインパクトに目が眩み、うっかり大事なことを忘れていた。


『ありがとう、メリル』



 冒険者登録をすれば、ギルドカード――偽名の身分証が手に入る。



「まさか、女が男になって旅をしているなんて思わないだろうからさ!」



 広く知られている属性魔法では、性別を偽ることはできない。だから、【擬態】魔法で『男性』として身分証を作ってしまえば、スムーズに検問を通れる――追っ手の目を誤魔化せる。追っ手も、まさか令嬢が冒険者(男)になったとは思いもしないだろうから。



(冒険者になるには、登録書類を書くだけね)


 箱入りお嬢様だったリディアも他のメンバーも、そう思い込んでいた。実際、王都では紙切れ一枚書くだけで『冒険者』になれるから。


 軽い気持ちとお金を稼いだ高揚感で、カウンターに冒険者登録をしたい旨を伝えると……?


「よっしゃあ! たまには俺が相手をしてやろうじゃないか」


 なぜかイーノックが張り切り。


 …………。


 …………。


 …………。


『認定試験、あったんだ……』


 さっき後にしたばかりのギルドの広い中庭。いや、正確には中庭ではなくて訓練場なのだが。そこで、イーノック相手に冒険者認定試験を受けるハメになってしまったのである。


『メリルぅ~~~、どうしましょうぅ~~~!?』


 試験の方法はいたって簡単。イーノックとの一対一の模擬試合である。


 どんより曇った空の下、木刀を振りまくっているヤル気満々なゴリマッチョ相手に一戦。死ぬ気しかしない。


『リディア、とりあえず当たらないように逃げよう!』


『走るの遅いんですぅ~~!』


『ともかく、目はつむらないで!』


 ゴブリンの時もそうだったが、毎回自分を盾にするってひどいじゃないか。

 ……リディア単独で入門している以上、他のメンバーを代わりに立てることなどできないのだけれど。


「これより認定試験を行います。始め!」


 無情にも、ギルド職員が試合開始を告げた。


 ――もう逃げられない。

ゴールデンロッドは、とある植物の英名より。本作に出てくるモノととある植物の見た目はぜんっぜん違いますが、遠く離れた土地で大暴れするのは同じなので、名前をいただきました。さて、ゴールデンロッドの和名は何でしょう?←正解しても何もでません(^^;)

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アキノキリンソウ?( ˘ω˘ )
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