Chapter01-4 何のために? あるいは欠けたモノ
星が瞬いている。遠くでフクロウが鳴いている。時折ザザァと風が行き過ぎていく。
『使い魔』騒動のあとギャーギャー騒いでいた仲間たちは、疲れたのかポーション作りの作業途中で寝てしまった。
よって、暗闇の中で作業を続けているのは、ジーンだけである。
その作業も終わり、道具類を片づけていたタイミングで、不意にウィルがむくりと起き上がった。
「? ごめん。起こしてしまったかな」
彼はゴブリンの時もワームの時も、素早く反応して戦っていたから。もしかしたら、ジーンのたてた小さな物音に反応してしまったのかもしれない。
「アイツではない。俺だ、〈勇者〉」
声こそ同じ。だが、纏う雰囲気はまるで違う。傍らで足を止め、睨むように見下ろしてくる彼は。
「! モルドレッド」
はるか昔、人間によって滅ぼされた古代魔族。その遺骸をあろうことか人間に食されて、ウィルの中に取り込まれてしまった『魂』――。
「すまない。まだ、貴方の弟のことは……」
「そのことではない」
言いかけたジーンをさえぎり、モルドレッドはどかりと隣に腰をおろした。
空には、細い三日月がどこか心許なさげに浮かんでいる。それを睨むように見つめながら。
「〈勇者〉、貴様のご立派な翼は何のためにある?」
「ッ、何を、いきなり」
面食らうジーンには目もくれず、モルドレッドはさらに問う。
「狼の姿も取れるようだな。鋭い爪と牙、人間より遥かに強靭な肉体……何のためにある?」
三日月に、風で飛ばされてきた薄雲がかかり、溶け出すように光が空ににじむ。月本体はまるで穴が開いてしまったように、所々が暗く沈んで、見る者を寂しいような不安なような心地にさせた。
「空を自由に飛ぶためか? 強さを誇るためか?」
「そ、そんなつもりはない!」
ジーンは即座に否定した。ジーンは〈勇者〉なのだ。空を自由に飛ぶことも、強さを誇ることも、その目的から外れている。
「なら、何のためだ」
「それ……は、」
言葉に詰まったジーンに、モルドレッドはフンッと鼻を鳴らした。
「おまえはなぜ〈勇者〉を続けている?」
「それは……。役目、だから……だ」
絞り出すように答えた。〈セカイノヘイワノタメ〉だから。やらねばならないから……。
「俺が調べたところによれば、〈勇者〉は 〈厄災〉の時期に合わせて生まれるらしいな。つまり、貴様が役目を果たせばよかったのは、貴様の時代の〈厄災〉のみ。何百年……未来永劫背負う必要はなかったのではないか?」
「ッ……」
ついに答を失ったジーンに、モルドレッドはつまらなそうに息を吐いて、姿勢を崩す。鋭い碧玉の眼が、睨むようにジーンを見つめ。
「俺と貴様は、生きすぎている点では似た者同士だ。その誼で教えておいてやる。目的だけでは、虚しいぞ……望み、欲がなければ、な」
話はそれだけだ、とモルドレッドは締めると、さっさと仲間たちの元に戻って身を横たえた。
ザアッと風が吹きぬけて、木々の枝を揺さぶり、バラバラと夜露を落とす音がした。
視界の端、モルドレッドが敷布を蹴とばしてしまったメリルに自分の敷布を掛けてやるのが見えた。




