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翼の勇者  作者: た~にゃん
第一部 鳥籠の外へ
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Chapter05-1 仲間たちの思惑

 あのとき……。


 もしも、呼び出されたことに疑問を抱いていれば。

 もしも、親友と引き離された意図に気づいていれば。


 きっと……。







『アンタの感情が揺らぐなんて、ずいぶん久しぶりだな』


 昔を思い出していたら、親友が話しかけてきた。


『自分も出たいと、思ったか?』


『それは……そうだね。空を飛べたら、あの場から逃げるのも簡単だったろうし』


 ジーンは素直に答えた。もし己が昼間も外に出られたら、彼女たちがこんな恐ろしい思いをすることはなかったから。


『そっか』


 ――しばしの沈黙。


 シトシトと降る雨音が、リディアを通じて聞こえてくる。降り始めたのは、〈聖女〉が魔法を使ったタイミングとほぼ同じ。


(助けたかった……)


 怯え、諦念(ていねん)、噛みしめた無力さ……。かつて(おのれ)が感じたモノを彼女からも感じ取ったから。


 天候を変えたのはジーンだ。感情が揺すぶられると、こうして雨が降ったり、時に嵐になる。〈あのとき〉を境に、身についた〈力〉だ。感情に左右されるがゆえに、コントロールがきかないのが玉に瑕だが。


 降り続く雨に麦畑の火災は完全に消し止められ、今は街から駆けつけた大勢の人間たちが荷馬車の周りを行き交っている。咄嗟(とっさ)の判断で、リディアに全員を魔法で隠させ、リディア自身には二重底になった馬車の床下に隠れてもらった。ここで街の人間に見つかるのはよろしくない。


 外の話し声を聞く限り、馬を外された荷馬車は、御者に捨ておかれたものと思われているようだ。おかげで中身の検分は、薬種の強烈な臭いもあっていい加減に行われただけで、人々は片づけに集中している。たぶん、日が落ちたら彼らはいったん街に引き返すだろう。


『助けたい、と思うか? 今でも』


『それは……わからない』


 〈あのとき〉以前の思考や感情と、ついさっき心を揺すぶったモノを『同じ』と言いきるのは、ためらいがある。

 なぜなら、〈あのとき〉以前の自分は『間違って』いたから。そのせいで、親友を……。



 雨の勢いが強まる。雲が雷を抱えて、ゴロゴロと唸る。



『俺は望んでこうなった。悲しむなよ』


『……パスカル』


 親友が、己のせいで処刑され命を喪ったと、彼自身から聞いた。彼もまた、とうに『人間』ではなくなっている。それどころか、魔女に願って己のそばにいられるよう、『使い魔』になった。


 腹立たしくて、悲しくて、悔しくて。

 何より、親友に耐えがたい苦しみを与えた己が情けなくて、憎くて。


『俺は……』


『素直なのはおまえの最大の美徳だよ、ジーン』


 ――だから。


 心まで殺すんじゃないぞ。


 そんな言葉を最後に、親友の気配は霧散した。




♡♡♡




 がらんとした暗い〈空間〉。


 黒く()びた金属を思わせる灰黒の床は、少し歪んだ多角形。広さは、小さなダンスホール程度。天井が高く、そのせいかうら寂しい〈空間〉の所々に、花を模したランプシェードや、パステルカラーのキルトクッション、ウサギのぬいぐるみ、読みかけの本やティーカップが、無造作に転がっている。普段この空間を使っているメリルの私物だ。


 その一角に、魔力を使い果たしてグロッキーな王子様と〈聖女様〉が並んで転がっている。


(コイツらはいいわ。役に立つし)


 戦える――つまりは『護衛』だ。


 広いプライベート空間の一部で『護衛』が休むくらい、別にかまわない。心の広い人間なのだ、自分は。



 そう。コイツらはいいのだ。居させてやっても。問題は……。



 転がっている二人に、勝手にメリルの私物――クッションを拾ってきて枕にしようとしているジーンに、メリルは口をへの字にした。


(コイツは役立たずなのよ。なんっっにもしないし!)


 ゴブリンに襲われても何もしない。無表情でこの空間に座っているだけ。〈勇者〉かなんだか知らないが、激しくムカつく。



 メリルは、ジーンが魔法で姉を操って大立ちまわりをさせたことを知らない。ジーンがリディアにかけた台詞もなぜか聞こえていない。



(コイツ、魔法使えないの?)


 いや、仮にそうでも、鈍くさい姉に声かけ一つ――「避けろ」なり「伏せろ」なり言えただろう。それすらしないとはいったいどういうことか。


(ま、おとぎ話の〈勇者〉ってロクなヤツじゃないしね!)


 美女に化けた〈魔女〉に(たぶら)かされて、まんまと〈聖剣〉を奪われ、〈女神〉の加護を失ってしまうのだから。


「? どうした?」


 ヤツが笑いかけてきたが、メリルは鼻を鳴らして思いっきり無視してやった。


 メリルはジーンが気に食わなかった。気持ち悪さを覚えるほど美しい(かんばせ)はこの世のモノとは思えないし、なによりコイツ、表情がない。いや、表情筋は動かしているが、『作った』笑み――心が伴っていない。不気味で気持ち悪い。


 加えてヤツの従者――確かに姉が魔法で 〈隠した〉 のに、まったく姿も見えず気配すら感じられない。メリルからしたら、煙のように消えたわけで。


(気持ち悪っ!!)


 野生の勘だが、メリルは二人が真人間ではないと確信していた。


 それに。


(あのイカレ男(モルドレッド)の弟を探す? 見つかる保障もないのに、やってられっか)


 メリルは〈分けっこの魔法〉がゆえに『モルドレッド』に使えると判断され、姉ともども巻きこまれた。だが、ゴールの見えない旅に一生を捧げるかと問われれば、全力で否と答える。


(絶対、途中で抜けてやるわ)


 夜しかなくても、もうメリルは大人――つまりは自由だ。きっかけは不本意だが、コンコーネ家からも離れられたし……。


(さ、先のことはわからないけど! 何とか自立して、好きなように生きていくんだからっ!)


 そんな決意を新たにしたところで。




「おーーい、荷馬車の馭者がいたぞー!」


「大丈夫か?! 担架(たんか)!」




 外から、不穏な会話が聞こえた。

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不穏ですね( ˘ω˘ )
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