Chapter03-4 箱入り令嬢は死を決意する
(なんでこうなっちゃったの……?)
夜会に参加
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婚約者になるはずの人の浮気現場に遭遇・修羅場
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爆発
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謎の美少女を拾う
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妹に怒鳴られる
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化け猫に襲われる
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推定〈黒魔法使い〉のジーンに助けられる
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「聖女を出して」と言われる
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変な貴族の少年に鎖鞭を振るわれ呪いをかけられる ←今ここ
怒濤の展開すぎて頭が追いつかない。
「足は大丈夫かい? ごめんな……俺のせいで」
リディアを横抱きにしたジーンが、スカートに隠れて見えない足に目を向けた。夜の帳の下では、すべての色彩は闇のモノクローム。そんな中、ジーンの瞳だけが、魔力を宿して煌々と紅い。
「あ……ハイ。痛くはないです」
足の痣からはもう血は流れていない。なぜかはわからないが、鎖鞭が擦れてできた傷は完全に塞がっていた。
現在――。
リディアはジーンに抱えられ、夜の王都を飛んでいる。
「俺は魔族モルドレッド。オマエは今から俺の下僕だ」
あの後、自称魔族の少年――メリルによると彼はこの国の第二王子、ウィリアム・ベリル・オクトヴィア殿下だという――は、リディアの〈黒魔法〉で自身を隠すよう居丈高に命令。「命令に従え。燃やすぞ」とメリルまで脅しつけて、リディアたちを内側から監視している。
『おい、その辺で降りろ』
殿下――モルドレッドが命じた。リディアはちょいちょいとジーンの袖を引く。
「この辺りで降りてください」
「わかった」
舞い降りた人気のない広場は、ついひと月前にリディアが冒険者崩れに襲われた場所だ。視界の端で、ジーンの翼が漆黒のマントに姿を変える。
『おい! 道案内だ。言え』
『んきゃあ?! このクソガ……わかったわよッ! 離れなさい、このッ! お姉さま、『ヤン・アゴスティノ商会』へ行って』
メリルの言った商会は、リディアたちの実家が営む商会の支店の一つだ。商会の支店同士の物流拠点となっているため、昼夜を問わず馬車の出入りがある。この時間でもきっと人はいるが。
(ウチの店に何をする気なの……?!)
そもそもこの自称魔族の王子、いったい何が目的なのだろうか……?
彼もまた、ジーンのことを〈勇者〉と呼んだ。けれど、創世のおとぎ話に出てくる〈勇者〉に翼は生えていないし、ましてや〈黒魔法使い〉でもない。
ジーンに「こっちです」と、商館の方向を示しながら、リディアは彼の横顔をちらりと盗み見た。
(本当に綺麗な人……)
ただ整った顔立ち、ではない。まるでこの世のものではない妖しさを思わせる、魅入られてしまいそうな、そんな綺麗さがジーンにはある。〈勇者〉というより、その真逆の存在のような……。
『止まれ』
〈隠れた空間〉から殿下が命令してきた。今度は何を言い出すのだろう。
『いいかオマエ、とりあえずドレスを派手に裂け』
「え」
リディアが石化したのもしかたがない。あまりにも突拍子がなく、かつとんでもない要求に頭が真っ白……。
(無理無理無理無理……!!)
我に返ってブンブンと頭を振る。そんなこと、できるわけがない。ドレスが惜しいとかではなく、ここには異性――ジーンがいるのだ。
『裂いたら、勇者に抱かれろ』
「?!」
(なんですって?!)
耳を疑ったリディア。
(どうしてそんなことする必要があるのよ?!)
意味がわからない。本気で。
『早くしろ。燃やすぞ』
動かないリディアに焦れたモルドレッドが脅し文句を吐いてくるが。
「なら一瞬で灰にして」
自分でも驚くくらい冷たい声が出た。
「一瞬で灰になるならきっと苦しくないでしょう。【放て】」
オレンジ色の光の帯が夜の広場を照らし、リディアが隠していたメリル、銀髪の美少女、モルドレッドが姿を現す。
「おまえ……」
憎々しげにリディアを睨むモルドレッド。でも、今は不思議と怖くない。リディアは淡く笑んだ。
そう……。マックスとは別れてしまった。自分は〈黒魔法使い〉だし、この先に幸せなんか……。
たとえ煮え湯を飲まされようと。
たとえ傷つく言葉を浴びせられようとも。
リディアは間違いなくマックスに恋をして、それを失ったのだ。モルドレッドに関わったことで、家に帰れるかどうかもわからなくなってきた。
リディアは箱入り娘だ。そんな彼女にとって、好いた相手と別れ、さらに家族とも別れる未来は想像がつかなかった――が、ゆえに。
(どうせ死ぬなら……。せめて尊厳が傷つけられない方を)
冷静な思考など、ぐちゃぐちゃな感情と高揚に押し流されて遥か彼方。リディアはあまりにも安直に、死を決意したのだ。
「メリル、走ってッ! 【隠せ】!」
「なっ?!」
驚愕の表情を浮かべたモルドレッドの姿がかき消え、メリルが駆けだす。
……ちゃんと逃がした。もう、悔いはない。
足首の痣がカッと熱を持った。
勇者の真逆って何でしょうね。




