表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翼の勇者  作者: た~にゃん
第一部 鳥籠の外へ
14/105

Chapter03-3 新たな仲間? 怪物王子

遅くなりましたm(_ _)m

「ギガント・ニャンパァーーーーンチ!!!」


 ギュオン、と空を切り、拳を突き上げて真上に跳躍(ちょうやく)した化け猫を、リディアを抱えたジーンは素早く後方に飛んで避けた。


 幼女が驚愕(きょうがく)に目を見開いたものの、すぐに小さな身体を空中でひねり、天井に足を向ける。


「目を閉じて!」


 ジーンがリディアの顔を庇うように抱き寄せ、翼が強く風を打つ。視界が黒一色になる寸前、天井を蹴る化け猫が垣間見え。


 バーーン! と、大きな衝撃と破砕音。


 ヒュゥと唸る風の音に恐る恐る目を開くと、砕けた色ガラスの破片がキラキラと月光を反射して、舞い落ちていくのが見えた。


 眼下の王宮が、ぐんぐん遠ざかる。飛び出してきた化け猫ももう豆粒のよう。



 ――飛んでいるのだ、空を。




♤♤♤




 逃げ惑う人々、倒れて動かないドレスの(かたまり)、床に飛び散った料理、柄が折れた楽器、倒れた燭台(しょくだい)から燃え移り、チロチロとクロスを()める(ほのお)


 惨憺(さんたん)たる大広間に、ポツンと佇む人影があった。あまり整えられた様子のない癖のある金髪、青年というには(いささ)か小柄な体躯を王族を示す豪奢(ごうしゃ)な夜会服に包む――第二王子ウィリアム・ベリル・オクトヴィア。


 『怪物王子』と渾名(あだな)される少年王子は、砕け散った大窓の向こうへ遠ざかる人影に、端整な口許を歪ませた。


「ついに見つけたぞ! 〈勇者〉!!」




♧♧♧




 王宮の建物が見えないところまで飛んだジーンは、人気のない通りにそっと着地した。


「怪我はない?」


 抱えていた令嬢――リディアに尋ねると、彼女は不安げに茜色の瞳を揺らしながらも、コクリと無言で頷いた。


「君にお願いがあるんだ。〈聖女〉を、抱えているね?」


 アクベンス神国の〈聖女ヘレネ〉――この国の王が私利私欲のために捕らえた彼女を解放するために、ジーンは魔女派の力を借りて王宮に入りこんだ。けれど、〈力〉を使って探せど、彼女の姿は見当たらず。途方に暮れかけていたところに、懐かしい魔法を見つけた。




堅牢(けんろう)なるカルキノスよ

 我らを守り給え!

 【(よろい)】!』




 あの気配は間違いなく〈聖女〉のもの。同時に思い出したのだ。ついひと月前に冒険者崩れから助けた〈黒魔法使い〉の娘を。


(〈生き物を隠す魔法〉……道理で見つからないはずだ)


 ジーンが〈力〉で視認できるのは、(おのれ)のいる建物の中のみ。そこから外れた存在は感知できないのだから。


「彼女を出してほしい。俺は元々彼女を逃がすためにあそこにいたんだ」


 目の前では、状況を飲み込みきれていない様子の娘が何か言おうとしてはやめ、唇を震わせている。


(貴族の娘は社会を知らない。だからきっと不安でしかたがないんだろうな)


 ジーンは、彼女を怖がらせないよう蝙蝠(こうもり)の翼を消して(ひざ)をついた。さっきまで翼だったモノは、漆黒のマントに姿を変えた。


「大丈夫。〈聖女〉を出してくれたら、すぐに家まで送ってあげる」


 元より無関係の彼女を巻き込むつもりはない。彼女は今の境遇で幸せなのだ。自分のように『日陰』で生きる必要など、ないのだから。



 しかし、事態はジーンの思いもしない方へ転ぶ。



「っシャーー!!!」


 怒号と、凄まじいスピードで迫ってくる気配を感じ取ったからだ。


(もう追っ手が?! 早すぎる!)


 リディアを抱きかかえ、翼を顕現させる。


 ぐんぐん迫ってくる気配に、ジーンの脳に警鐘(けいしょう)が鳴る。それにまだ〈聖女〉が……。リディアを連れていかないわけにいかなかった。


 ジーンが地を蹴り翼を動かすのと、矢のように飛んできた何かが「ジャリッ」と音をたてたのはほぼ同時。


「きゃあっ?!」


 リディアが悲鳴をあげ、空へ飛びあがった身体が、ガクン、と空中に()い留められる。


「?!」


 ――足だ!


 宙に投げ出されたリディアの白い足首に、先端に(おもり)のついた細い鎖が絡みついている。ピンと張ったその先には。


「ハハハハッ! ついに捕まえたぞ! 〈勇者〉!!」


 豪奢(ごうしゃ)な夜会服という場違いな服装に癖っ毛の金髪を風に遊ばせ。もし笑えば「かわいい」と揶揄(からか)われそうな、スラリと小柄な少年が、歳にそぐわぬ残忍な笑みを浮かべ、鎖鞭(くさりむち)手繰(たぐ)る――まるで悪魔の化身だ。


「降りてこい、オレの〈勇者〉!!」


 少年が(わめ)いた。


 鎖の巻きついた足首から血が(にじ)み、ジーンの腕の中でリディアが苦しげにうめく。


「やめろ! 彼女は……」


「さもないと娘の足がもげるぞ」


 ジーンの制止にも少年はまるで聞く耳持たず。小柄な体躯が信じられないほどの力で、容赦なく鎖を手繰(たぐ)り寄せようとする。


「ッ、わかった」


 苦渋(くじゅう)の決断でジーンが地に降りたつと、少年はニヤリと満足げに口許を歪め、


「【Curse of Blaze】!」


 リディア目がけて魔法を放った。禍禍(まがまが)しい赤黒い(もや)がリディアの足を取りまき、絡みつく鎖のような(あざ)が白い足首に浮き上がる。


「俺は貴様を逃がさないからな!」


「逃げたら呪いが発動してこの女が燃えるからな!」


 と、少年はフフンと鼻を鳴らした。


「俺は魔族モルドレッド。貴様は今から俺の下僕だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 生意気なショタ、イイ( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ