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翼の勇者  作者: た~にゃん
第三部 森の王女 厄災の女神
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Chapter07-4 ベレニケたちの事情

前半メリル視点、後半リディア視点となります。

 急に賑やかになった〈空間〉の中で。


(なんなの? なんなのよもうっ!!)


 メリルはカンカンに怒っていた。


 この〈空間〉はもともとメリル専用のスペースだったはずだ。それが今はどうだろう。


 パーソナルディスタンスを無視した至近距離に、変なお香の香りをプンプンさせた中年オヤジどもが胡座をかき、知らない国の言葉でホニャホニャとくっ喋っている。おかげでとても眠れたものではない。迷惑だ。ものすっっごく!


「○▶☆⇨٩( ‘ω’ )و」


「▷*★■ºº(ノД`)」


「◆⊗※※▷(~‾▿‾)~」


(アアアアッ!! クサいうるさいムサい!!!)


 メリルのストレスゲージがぐんぐん上昇していく。そこのハゲっ! アタシのブランケットを尻に敷くんじゃなーーーい!!!


 だが、彼らはカーミラの仲間――つまり、ハサンの仲間らしいのだ。敵対するのは避けたい……。だから余計ムカつくのだが。



 奴らは調子に乗ったのか、怪しげな壺を取り出して、棒でチャンチャラチャンチャラと叩き出した。さらに手拍子で盛り上がるオヤジども。そこに加わる〈厄災〉二匹、あとパスカル。もう意味不明だ。


(意味不明といえば、なんでコイツがここにいるのよ!)


 メリルが目を覚ました時にはすでに〈空間〉に転がっていたマックス。大蜘蛛も最悪な拾い物だが、それ以上に最悪な拾ってはいけない人物がなぜここにいるのか。一つわかるのは、拾ったのは姉ではないこと。犯人は……


(ア イ ツよね!)


 転がっている黒い塊――眠ったままのジーンを、メリルは射殺さんばかりに睨みつけた。姉は謎の植魔に捕まって眠りこけていた。つまり、姉を〈操る〉魔法でジーンが拾ったに違いない。


 なんてゴミを拾ってくれたものだろう。捨てるにも困る有害粗大ゴミなど、拾うだけ迷惑だ。そのくせ拾った犯人は高いびきとは。


(覚えてなさいよ……)


 怨念を募らせるメリルだった。




◆◆◆




 カーミラがうまく口添えしたこともあり、リディアとベレニケたちは森の館へ向かうことで意見が一致した。だが、困ったことがひとつ。


「わかっていたことだけど、蔓食みの森って最悪だわ」


 悪路に苦戦し、汗を滴らせながらベレニケがぼやいた。蜜色の長髪は土に汚れて、白い頬に張り付き、ブーツは足首のあたりまで泥だらけだ。


 現在時刻は昼前といった頃か。いまだ森の館に近づいた感がない。


 獣道さえない、深い藪や折り重なって倒れた木々が行く手を阻み、それらがなければぬかるみや生き物を捕食する類の魔草が食指を伸ばす。さらに、アップダウンの激しい地形……。遭難者が続出するのも頷ける。


「貴様らは今までどうやってこんな場所を迷わず目的地へ行けた?」


 盾持ちに手を貸しながら、モルドレッドが問えば。


「はぁ。もう言っちゃうけど、標石を埋めてあったのよ」


 ベレニケが肩を竦めて見せた。


「標石?」


 キョトンとするリディアに、ベレニケが説明する。


「一種の目印で、見た目は術式を刻まれた石板ね。術式には種類があって、対となる魔導具で効果……光を放ったり、音を鳴らしたりして存在を報せるの」


 商人たちが埋めていた標石は特注のもの――自分たちの持つ魔導具以外が反応しないように改良された特別製だったらしい。余所者に館までのルートを知られないようにするためだ。


「あの植魔、標石の埋まった場所を根こそぎ掘り返してくれたのよねぇ」


 でもって、ルート上に居座って暴威をふるいまくっている。実に最悪な事態だと、忌々しげにベレニケがぼやいた。


「予備のルートは作っていないのか」


「あったら苦労しないわよ」


 ……まあ、つまり。


『絶賛遭難中ってワケね』


 〈空間〉から不機嫌も不機嫌なメリルが断じた。




◆◆◆




 少しだけ平坦な場所に辿り着いたので、一行は休憩を取ることにした。


「ハァ。とりあえず植魔からはかなり離れられたんじゃないかしら」


 ベレニケたちは、危険きわまりない植魔から距離を取ることを第一に移動した。つまり、森の館に近づいたわけではない。むしろ、離れてしまったかもしれない。鬱蒼とした森では、視界は木々に遮られ、方向感覚を狂わせる。


「あの、ベレニケさん」


 手頃な石の上に腰かけたリディアは、ふと思いついてベレニケに声をかけた。


「なあに?」


「あの……標石って、一種の認証なんですよね?」


 特定の魔導具でないと反応が出ない――つまり認証装置だ。それを聞いて思い出したモノが一つだけある――ガラシモスが寄越した割符だ。 


「ああ、まあそうね。でも、アレは特別製だから。普通の標石は基本、誰でも利用できるわ」


 標石は、砂漠地帯や荒野、雪原などで街道を判別するために使われているという。


「割符って、もしかして同じ仕組みなんですか?」


「割符……ああ、カストラムの通行証のこと?」


 リディアは頷いた。特定の物に反応する――多くの物から一つだけ判別したいときに便利なのではないかと思ったのだ。


『仕組みの根本は同じであるな。だが、カストラムの割符の方がえげつない』


 とそこへ〈空間〉から魔法使いが割り込んできた。彼は何やら知っているようだ。


『標石も割符、どちらも血を使った術式を使ってはいる。リディア殿は風邪を召されたことはあるか?』


「? あります、が」


『風邪をひくと、魔力を消耗するであろう?』


 風邪――誰もが一度は経験し、鼻水に咳、頭痛、発熱など症状はさまざまだが、共通するのは魔力を大きく消耗することだ。


『我々の身体は、外部から風邪の原因――瘴気(ミアズマ)を取り込んでしまうとそれを滅せんと血が魔力を放出する』


 そのとき放出される魔力を利用して、特定の現象を引き起こす――標石と割符はその仕組みを利用した魔導具なのだとか。


『これは推測であるがな。カストラムの割符は特定の魔物の血を使って判別を行っていると我は考えておる。異なる血同士を混ぜても、魔力放出は起こるゆえ』


『異なる、血??』


「生き物の血は大概赤色をしているんだけど、すべての生き物に同じ血が流れてはいないの。人間と魔物の血は違うし、人間と獣人の血も違うわよね」


 問い返したリディアにベレニケが補足した。


『割符の内部は、魔物の血とそれを生かす魔石が回路を成しておる。見た目では魔物の種類は判断できぬ。が、もし割符を不正に手に入れて間違った城門に帰れば』


 魔法使いは重々しい声音で続ける。


『瞬時に魔力が放出され、割符に仕込まれた攻撃魔法の術式が発動し、侵入者を殺すわけだな』


「こッ……それは、怖いですね」


 そんなもの、リディアのような小娘など瞬殺ではないか。少し前まで、割符をそれなりに「価値あるモノ」と考えていた自分に寒気がする。


『リディア殿、このような場所ゆえ言っておくが、落ちている割符を見つけても拾ってはならぬ。ほんの一滴の血にも反応するゆえ』


「ええ。私たちもカストラムの通行証は厳重に包んで万が一がないようにアイテムボックスに入れたわ」


 下手したらパーティー全滅もあり得るもの、とベレニケが肩をすくめた。


「そ、そうなんですね……」


 よかった。一応貴重品だからと魔法の効かない〈空間〉に入れておいて。

 もしかしたら割符の仕組みがわかるかもと聞いてみたことだが、恐ろしい真実を知ることとなってしまった。

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