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5話 見た目だけクールな色指定・検査

 時計を確認するとそろそろ20時になるところだった。

 まずい、そろそろ検査が帰っちゃうかも……

「先輩、検査の千歳(ちとせ)さんから内線です」

 って思ったら内線来た、ナイスタイミング。

「あざっす、何番?」

「2番です」

 皐月から情報を受け取ると、受話器を取って光っている2番のボタンを押す。

「お電話変わりました、制作の西賀(さいが)です」

「……私もう帰るから、今すぐ来てくれると助かるんだけど」

「了解です! すぐ行きます!」

 そう言うと内戦を切る。ヤバい多分ちょっと怒ってるやつだ……

「先輩また呼び出しですか? 人気者ですねー」

「変わってくれ……」

「嫌ですー、じゃあ私外回り行って来ますね」

 ビシッ! っと敬礼風なポーズを決めて、好き放題言うだけ言うと出ていきやがった。

 俺もあいつにかまってはいられん、すぐに行かなければ。




 仕上げのフロアは撮影と同じで4階にあるが、撮影とは別の区画に分かれている。

「お疲れ様です、遅くなってしまいすみません……」

「……遅い、今日は来ないのかと思った」

 やっぱちょっと怒ってるな。

「ちょっとバタバタしてまして、ごめんなさい」

「それは仕方ないと思う……けど一言連絡はして欲しい」

 なんだろう、仕事の事だと思うのだが、なんか絶妙に生々しい会話な気がする。

 この人は(いろ)指定(してい)・検査の千歳美玖(みく)。肩と腰の間位までの長い黒髪をハーフアップにしており、前髪が右目側に長く流れているので片目が隠れ気味で少しミステリアスな雰囲気の女の子だ。俺が担当している最終話を担当してくれている。

 色指定・検査とは、簡単に言えばセルが正しい色に塗られているか確認する役職の人である。

「それと敬語も禁止、前にも言った」

「すみま……じゃないすまん、つい流れで」

 千歳は俺と同じ時に仕上げとしてこの会社に就職した、役職は違うがいわゆる同期である。なので何回か仕事も一緒にする事が多かったりで割と仲はいい方ではあるのだが、千歳は仕事が出来るのであまり同い年って感じがしないのとクールな雰囲気に押されてついつい敬語になってしまう。

「謝ってもダメ、どこか連れてってくれないと許してあげない」

 貴方もですか……みんな結託でもしてんのか?

「じゃあ、最終話終わったらご飯でも行く?」

「……わかった、いいよ」

 嬉しそうに微笑みながら了承されると妙に恥ずかしくなる。クールに見えるだけで実際は感情が顔に出やすいタイプなのだ。まあ、ご飯奢って期限直ってくれるなら喜んで行きますとも。

「そんなに楽しみ?」

「―—す、少し楽しみ」

「……そっか楽しみなんだ」

「少し、少しだけだから!」

 参加スタッフ多くなってきたな。身内だけでひっそりとやるつもりだったけど……まあスタッフ間の交流を深めるいい機会か。

「じゃあこの件はまた連絡する」

「うん。ごめん仕事の話しないとだよね」

 言われてみればそうだ、仕事の話するために来たんだった。お互いに距離感が近いからプライベートな会話がついつい始まってしまう。

「って言っても状況はあまり変わってないんだよね」

「じゃあ、予定通り色指定は演出上がりで進めていくね、素材的に厳しいカットあったら連絡する」

「申し訳ないけどそれで。素材のINタイミングは現状変わらずだけど、多分最後の方に固まる」

「多分大丈夫、1日に50カット以上とかじゃなければ。ただ枚数多いカットが最後固まると詰まるからそこは考慮して欲しい」

 検査はセル1枚1枚の色を確認しなければならないのでカット内のセル枚数が多いほど大変なのだ。

「悪いな、いつもスケジュール無い中で巻いてもらって」

「大丈夫、作画に時間がかかるのは仕方ない、アニメの花形だし」

「そう言ってもらえると作画さんも頑張れると思う」

「西賀君は頑張りすぎちゃダメ、最後まで持たなくなる」

 なんと、同期に心配されるほど疲れているのが目に見えているのか。

「大丈夫だって、まだ家にちゃんと帰れてるし」

「ならいいけど……途中で担当変わるとか嫌だから」

 そう今はまだ家に帰れている。後1週間もすれば段々と家に帰れなくなるなって来るだろう。まあ、単純に仕事が遅いって言うのもあるが、こうスケジュールが短いと1日の仕事の物量がどんどん多くなって手が回らなくなり、仕事が終わらず家に帰れなくなるのだ。

「担当変わったら色々面倒くさいもんな」

「……そう、特にスケジュールない中でそれやられると最悪」

 帰り支度を済ませて鞄を手に取り、千歳はもう帰るだけって感じになったので、お互い特に何も言わずにとりあえず出口まで歩き出す。

「それに、西賀君以外の人とやるの嫌だ」

「えっ?」

 聞き間違いか? なんか凄い事言われたような気が……

「あっ! 違っ変な意味じゃない。ここまで頑張って来た最終話で変わるの嫌って意味!」

「あっああーそういう事ね」

 ですよね~危うく深読みするところだった……

「とっ、とにかくそういう事だから、体には気を付けて! じゃあ私帰る!」

 そんな会話しながら階段を降りているといつの間にか制作フロアに着いていた。いつもの感じなら、ここで別れる前に少し話してそうなんだが……お互い気まずくてそんな余裕なかったな。

 さて、後数時間で日付が変わってしまう。それまでには帰れるように頑張りますか。

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