9.再スタート
「ご主人様! ご主人様!」
この声はレピティか、あれでも僕は今ロストクエイクで倒れていたんじゃなかったっけ。なんでこんなところにレピティがいるんだ。
朦朧とした意識が戻って来る頃、僕は身体を起こす。するとやっぱりそこにはレピティが居たのであった。
「良かったご無事だったんですね」
「グラスう! 本当心配したんだぞ」
「みんな来てくれたのかよ」
エルカとゼ―ネシアさんもいることを確認。地獄のようなパーティーから一転、安心感と嬉しさに包まれて僕は心の底からみんなに会いたかったんだなという気持ちを改めて感じるのだった。
それから僕はみんなと状況を整理しあった。どうやら別動隊の役割としては勇者パーティーが倒れた時のために、いつでも補助できるように時間差で行動するというもののようなのだ。
遠回りではあるが、既に開拓済みの簡単なルートを回ることになるため危険は未開拓ルートを回る勇者パーティーより少ない。
それで助けが必要になった時に救援魔法で知らせるというルールがあったのだが……セルファシアさんは僕を放置して救援魔法を使わなかった。
そんな中エルカがわずかに僕の魔力を感知したらしく、ギリギリのところで見つけられたというわけであった。
「エルカの感知は本当に凄いな。こんな広大な場所でも対象を見つけることが出来るのか」
「私も本当ギリギリだったんだよ。本当少しでも気を逸らしていたらグラスは見つかんなかったかもしれん。それだけに今私は非常に憤っているぞ」
「私もですエルカさん、ご主人様をこんな目に合わせて、勇者だか何だか知りませんが本当に許せません」
「ちょっと師匠に何があったのか知りませんが、私も弟子としてではなく、一人の冒険者として強く一言申さないといけないかもしれませんね」
みんなかなり勇者パーティーに対して不満を持っているようだ。普段ならまあまあと冷静に場を収めるところであるが、僕も今回に至っては相当腹の中が煮えくり返っている。
「みんな、目的地は精霊都市ファイフォビスだ。今回の事情をセルファシアさんから問いただしに行くよ!」
僕の提案は満場一致で受け入れられた。
精霊都市、名前から察するに精霊の都市であろうが、もしかしたらミルティが呼びかけに応じない理由も分かるかもしれない。それにホルテラ様も。
「どうしましょう、正規ルートで行けば、多少時間は遅れますが、安全に魔物に遭遇しなくて済みます。反対に未開拓ルートを行けばかなり危険ですが速い時間に目的地まで移動することが出来ますが」
正直今の僕は能力が使えるか未知数だ、それにミルティも呼ぶことはできないしゼ―ネシアさんはともかくレピティとエルカが危険だからここは安全な正規ルートを選んだ方がいいかもしれない。
「そしたら正規ルートで行きましょう」
僕たちは整備されたロストクエイクのルートを今歩いている。セルファシアさんと進んでいた未開拓ルートとは全く違って、凄く整備されている。時々人通りも見えるくらいだ。
「そういえばゼ―ネシアさんはホルテラ様を呼び出せるようになりました?」
「いいえ、全く私の呼びかけに応じてくれませんの」
「やっぱりですか、ミルティも呼びかけに応じてくれないんです」
「そうですか、精霊都市ファイフォビス……私も師匠にルートを教えてもらわなければ知りもしませんでした、そこに何かあるかもしれませんね」
「はい」
しかしセルファシアさんは僕に本当に何の情報も開示しなかったんだな。ゼ―ネシアさんがファイフォビスのルートを知っていて良かった。まあ補助班だしそれは知っている人物が一人いなくちゃいけないよな。
「……」
「ご主人様? どうしました。なんかいつもと比べて元気がないですよ」
「え? そうなのか……おかしいな……いつもと同じだと思ってたんだけど」
と言いつつもやっぱり精神状態がまだ安定しない。あんなひどい目にあって心の傷がうずいている感覚である。
「グラスもかなり勇者たちに酷いことをされたんだろうな。本当になんなんだあいつら、ゼ―ネシアの師匠っていうから信頼していたらこれかよ」
「……」
ゼ―ネシアさんは少し俯いて話し出す。
「師匠は少し複雑な性格をしているんです。揺れが激しいと言いますか、荒々しい勇者の魔力を体現したような性格……その振れ幅の底にグラスさんは触れてしまったのかもしれませんね」
「意味が分からないぞゼ―ネシア」
「すいませんエルカさん、私うまく説明できなくて」
「とにかく難しい性格なんですね」
「はい、そうなんですレピティさん」
「難しい性格ですかあ……」
正直振れ幅って言ったらいい面が現れる場合がある筈であるが……僕が見たセルファシアさんの印象からは悪い部分しか見えないんだよな。
まさにかつてないほどの嫌な奴である。
「師匠はとにかく特殊な思考をしているので、色々と合わせるのは大変かもしれませんね」
「まあ、また会ったら、認めてもらえるよう頑張ってみますよ」
「はい、無理にとは言えませんが、理解してくださる姿勢は本当に弟子の私としても嬉しいです」
「……」
と表では言っているものの、正直全く理解しようとは思わない感じだ。ゼーネシアさんには申し訳ないが明らかに今の僕にとってセルファシアさんは敵という認識なのである。
「みんな! 魔物の接近を感じたぞ。 戦闘態勢に入ってくれ!」
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