4.舞踏会
「ええと、長らく失踪していたと噂されていた私ですが、こうしているように私は今も実在しています。魔王を倒した勇者セルファシアは現在も健在。先ずはそのことを知ってもらいたいために今回、王国の会合という多くの人が注目する場を借りて表明することに決めました」
「パチパチパチパチ」
多くの人が勇者セルファシアさんの登場を称賛する。最初はみんな驚いていたものの、多くの人が勇者セルファシア復活の話を聞いてから数日が経過しているのだ。今多くの人は勇者復活を驚くという事より、その登場を喜ぶという反応の方が多いようだ。
「それでなんですが私は勇者パーティーを編成しようと思います。理由はまだ言えないのですが色々な討伐クエストや調査を受注するメンバーを編成したいと思っての事です。候補者はある程度決めていますが、この会場内にもその人物が何人かいるだろうと思います。皆さんには完全にメンバーが決まった際に再度連絡したいと思います」
セルファシアさんがメンバーは決まっていると言うと、周囲の人が真っ先に僕の方を向いてきた。まあそりゃあ、魔王を倒した僕が真っ先にメンバー入りに注目されるのは最もだとは思うが、あからさまに皆こっち見るのをやめて欲しいよ本当。
「はははは……」
僕は苦笑いをした。
「さて、折角こんな豪華な会場を用意したのだから皆様にはぜひ楽しんで欲しいです。ダンスでも始めましょうか」
そうすると周囲の会場音楽が鳴りだす。
「是非この会合を楽しんでください」
周囲の人々はその言葉を聞くと、上品にいろんな人と会話を楽しみだした。
「こういったのには慣れてないんだよな……」
流石にみんな手馴れているだけのことはあり、急激な変化に僕は動揺してしまう。そんな中であたふたしている僕をゼーネシアさんが話しかけてきた。
「グラスさん!」
「は、はい!?」
「一緒に踊りませんか」
「え?」
ドレス姿のゼ―ネシアさんは僕に手を差し伸べてきたのであった。
ぜーネシアさんと社交ダンスをすることになった僕、正直ダンスは全く分からないのだがそんな僕でもゼ―ネシアさんのリードのお陰で、スムーズに行うことが出来た。
「ダンス経験はないと伺いましたが、結構うまいんですね」
「いえいえ、ゼ―ネシアさんリードのお陰ですって」
そんな風に楽しそうにゼ―ネシアさんと話していると、舞台の方から視線を感じた。
よく見ると、その人物はセルファシアさんだった。表情はいたって無表情であるが、思えばこの人は出会ったときから無表情が多かった気がする。
「どうしました? よそ見をしているようですが」
「いえ、何でもないです」
僕は視線をとっさに戻す。次の瞬間社交ダンスの音楽が突然止まった。
「ざわざわざわざわ」
周囲の人々はダンスの最中に曲が止まったことからざわめきだす。
「皆さんすいません、ちょっといい事を思いつきまして曲を突然止めてしまいました」
そんな人々に話し始めたのがセルファシアさんであった。
「これから勇者である私の弟子を紹介したいと思います。ゼーネこっちに来なさい」
「え、どうなされたんですか師匠、急に呼び出して」
セルファシアさんは困惑するゼ―ネシアさんを無視して、再び周囲の人々に話しだす。
「皆様もギルド活動の分野でご存じの方がいるかもしれませんが、こちらのゼ―ネシアは私の弟子なのです。日頃の活躍は私の教えの賜物でして、彼女の活躍は師匠として誇らしく思えます」
参加者たちは皆セルファシアさんに対する羨望の眼差しを向けだした。ゼ―ネシアさんは誰もが知るトップ冒険者なのだ。そんな彼女の師匠であるということを表明するのは、自らが勇者たりえる人物という事を周囲の人により明確にアピールできるはずだ。
でもそれってゼ―ネシアさんは喜ばないのではないだろうか。彼女はいままで普通の人物として活動したくて、自分が勇者の弟子であることを隠していたはずなのに、それを間髪入れず周囲の人の前で公表するというのは流石に配慮が足りない気がする。
僕はこの時セルファシアさんに少し嫌悪感を感じた。
「ちょっと師匠何を……」
「す、凄い!」
その時会合にいる上流階級の参加者が言葉をこぼした。
「あのゼ―ネシアの師匠であるなんて、いよいよ勇者としての風格を感じてきました。正直勇者復活についていまいち疑心の状態でいましたが、やっぱり本物だったんですね」
「パチパチパチパチ」
参加者たちの拍手が一斉に送られた。
「ありがとうございます皆さん。しかし私は弟子である彼女を危険な目には合わせたくありません。なので今回彼女はパーティーメンバーには加えずあえて別動隊に加えることにしました。ゼ―ネシア不参加の理由は師匠である私の気づかいによるものだとご理解ください皆さま」
「成程そう言う事だったのか、確かに勇者パーティー候補者メンバーの中にゼ―ネシアがいないのはおかしいと思ったのだが、あなた様の気遣い故のものだったのですね。ますます凄いと感じました。やはり勇者様はその人格も優れていると感じさせられる」
「パチパチパチパチ」
再び勇者ゼ―ネシアへの称賛の拍手が送られた。言い伝えの勇者の復活、突然の出来事に正直周囲の人々にはかなり疑念があったようであるが、それを一瞬でセルファシアさんは消し去ったのである。
「ありがとうございます。それでは引き続き社交ダンスをお楽しみください。また今度は私も参加するので、皆さま温かい目で見守ってください」
「ええ、セルファシア様がダンスを? いったい誰と踊るのかしら」
周囲の令嬢がざわめきだす。
「さあゼーネ、私の手を取るんだ」
「し、師匠……」
「おおおお!」
セルファシアさんの手を取るゼ―ネシアさん、まさに誰もが認める美男美女のコンビは会合参加者みんなの心を掴み称賛の声が鳴り響いたのである。
それから再び社交ダンスが盛り上がることになった。
「いや、それにしても僕と踊る相手がいないんですけど」
セルファシアさんのせいでと言いたくなりつつも、別に彼が悪いことをしたわけではないし、そもそも師弟関係の中に僕が口出すというのも問題外だ。ゼ―ネシアさんもああして踊りを楽しんでいるようだし、なんだかパートナーを取られて僕は惨めな気持ちになった。
「あなたなんて顔してしょぼくれてますの?」
「え?」
「さあ、手を取りなさい! 私自らあなたと踊ってあげますわ」
なんと、僕の前にレネが現れて社交ダンスのパートナーとして手を差し伸べてくれたのである。
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