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62.鮮血 

「よくやったね。君の勝ちだ、グラス君。もう終わらせてくれ」


「なっ、どういうことだ。僕は明らかにハイフレードの剣閃を直に受けたはずじゃ……」


 煙が晴れると僕とミルティは無傷、対してハイフレードが倒れていた。攻撃されていたのは僕の方なのにどうしてこうなったんだ。


「どうやら時間切れのようですね」


 ゼーネシアさん? 時間切れとはいったいどういう……。


「ああ、見てくれこの解魔石は完全に砕け散った」


 ハイフレードの持っている解魔石が崩れ去っている。完成体って言ってたのにどうして……。


「グラスさん、あなたの周囲の魔力を分析して出力した衝撃波は確実にハイフレードに致命傷を負わせていましたよ。ただそれに関してハイフレードはグラスさん同様魔法陣の分析と出力を魔王の力と解魔石の力を使って行っていたと言う事です。ただグラスさん程完璧にはできないようで、全ての無効化が出来ずダメージが身体に蓄積されていたんですがね、それに解魔石の負担も多そうです」


「そ、そうだったんですか」


 確かに手ごたえは感じてたんだ。なのにダメージを負っていなかったのにはそんなカラクリがあったのか。


「後ですが、ハイフレードの魔法陣が分析できなかったのは、ハイフレード自身が魔術付与を行わず、自力の身体能力と、剣による圧力で攻撃、いわば剣閃を繰り出していたわけです。神の分析発動を阻止するための小細工にすぎませんね。普通ならそれでも周囲の魔力を出力できるグラスさんには歯が立つはずがないのですが、そこは流石ハイフレードと言ったところでしょうか……あの魔王でも出来る芸当ではありませんよ」


 魔術付与を行わずにあの威力の攻撃とスピードを出していたってことなのか。明らかに規格外すぎるだろ……。


「ハイフレード、私は王国についてこれまでずっと調べていました。その中であなたの戦績を調べたところ、かなり限定的なものとなっています。おそらく力を使うごとに解魔石が壊れていたのではありませんか、あなたは魔王の演算能力による練度100%の演算力をリスクなしで扱うことが出来ないのでしょう。確かに瞬間的な力ならその戦闘センスで魔王を上回るかもしれませんが、解魔石の演算出力能力を限界まで使う事で魔王の演算能力を得られる、故に激しい戦闘終了後は解魔石が決壊する、そんなデメリットがあったに違いありませんね、だからアセルビデドで解魔石の補填も目指していた」


「いやあ全部お見通しか。全部僕の能力もバレっちゃったしこれはどうしようもないなあ……しかし凄いなあ、ゼーネシアさんだっけ、その洞察力君とも万全の状態で戦ってみたかったよ」


「冗談はやめて欲しいですね。正直あなたに勝てる気が微塵もしません」


 ゼーネシアさんが僕の方を向いて話しかけてくる。


「ハイフレードの実力は今でもトップクラスですが、グラスさんは魔王を倒す程強さのインフレをしていたためとっくにそのはるか上を言っていたわけです。ただハイフレードは戦いの巧者、強く見えたのはそのためですね……さて」


「ジャキっ」


 ゼーネシアさんが剣をハイフレードに向ける。


「グラスさんもかなり疲れているようですので、代わりに私がケリを付けます」


「いや待ってゼーネシアさんもう戦いは終わって……」


「待って下さい!」


 振り向くとそこにはレネが立っていた。


「そいつは魔王、世界の敵です。レネさんあなたも一緒に葬りますよ」


「いいえ、今はハイフレードさんです。ただ魔王の依り代になった被害者ですよ」


「魔王の力はその者が受け入れなければ発現しません。ハイフレードにも責任があると言えます」


 魔王の憑依能力は発現するのに契約を結ぶと言う事はハイフレードが自ら力を欲したと言える。しかしあの強さがあって何で力を欲したのか。


「そんなこと……」


「レネお嬢様、もういいですよ僕が悪いんです。僕が魔王の力を欲したばかりに」


「どうしてこんなことになってしまったのか」


「退屈だったんですよ。僕はあまりにも強すぎて、もっと拮抗した戦いを望んでいたんだ。そんなとき魔王が僕の前に現れたんだ。凄く弱っていたかな。いずれ僕を倒せる存在が手を組めば現れるって。そんな話最初は疑ってたんだけど本当にあえて光栄だよ」


「そんなことのために、あなたは師匠がどんな気持ちで魔王の封印に力を捧げたか分かりますか? 絶対に許せません」


 ゼーネシアさんが剣に力を強めるとハイフレードの首筋に血が落ちる。


「いいよ、そのまま切るんだ、もうこの世界に未練なんかない」


「やめてくださいっ!」


 その時ゼーネシアさんの前にレネが立ちはだかり、両手を広げてハイフレードを守る。


「そこをどいてください」


「嫌です。ハイフレード様は被害者です。裁かれる権利はありません、魔王を身体から取り去る方法を考えましょう」


「分かりました。魔王を庇うあなたも同罪です」


 まずいゼーネシアさんがかなり動揺している。正気ではないようだ。


「待って下さいゼーネシアさん。冷静になってください。この状況は僕からも話を聞いてみていいかもしれません」


 僕はゼーネシアさんの身体を取り押さえた。


「グラスさん……っ! 放してください! そいつには魔王が憑依しているんですよ。ここで今すぐ仕留めるべきです!」


 レネは僕に感謝の合図をするとハイフレードの元に駆け寄る。


「ハイフレ-ド様、直ぐに私とここから立ち去りましょう」


「……」


 何だろうハイフレードがレネに向かって笑顔を見せている。何かを決意しているかのような表情。


「レネお嬢様……ごめんなさい」


「……! まずい」


「しまった!」


 その時ハイフレードが剣を取り出して動きを見せる。


「ハイフレード様?」


「レネ逃げろおおおお!」


「ズサアアアアアアアアアア!」


 周囲に鮮血の血が吹き荒れた。


「ハ、ハイフレード……キ、サマ……」


 同時にハイフレードの身体の中にあった魔王の魔力の痕跡が消え去ったのが分かった。




「い、いやあああああああああああ……ど、どうして」


「……っ!」


 気づけば目の前に広がっているのは自分の体に剣を突き立てているハイフレードの姿である。レネの身体はハイフレードの返り血を浴びて鮮血に染まっていた。


「ああ、最後にいい経験が出来て良かった。もう……思い残すことは…………ない」


 ハイフレードの身体は生命活動を止めて、力が抜けていくのが分かった。


「ああ……ああ……ハイフレード様あ……」


 レネが涙目でハイフレードの身体を支える。


「グラスさん……」


「なんですかゼーネシアさん……」


「少し私も気が動転していたのかもしれません。さっきは止めてくれてありがとうございます。こんな光景の十字架を私はあの時背負いそうになっていたなんて……」


「無理もないですよゼーネシアさん……今はただこの目の前の光景を目に焼き付けて心の中でハイフレードさんを救えなかったことを反省していきましょう」


「ええ……」


 ハイフレードの命は尽き同時に憑依していた魔王は消滅、遂に魔王との戦いは終結することになったのである。



「面白かった、続きが読みたい!」


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