46.悪性開放
「この黒い空は一体」
「しまった!」
「っ!……ホルテラ様?」
姿は見えないが、頭の中にホルテラ様の声だけが聞こえる。かなり焦っているようだけど大丈夫かな。
「どうやら私の精神世界にいた悪性はまだ生きていたようです。先ほどの戦いによって空間に亀裂が生じて外の世界に逃げたのに違いありません。この黒い空は悪性の仕業です」
「そんな! じゃあ悪性のホルテラ様が精神空間から脱走したんですか」
「これは不味いことになりましたね……直ぐに探して追いましょう」
ゼーネシアさんも事情を理解して、直ぐに行動に移そうとする。その時聞き馴れた軽快な声が僕の名前を呼んでこちらに来た。
「グラスうううう、よく戻ってきたな、目的は達成したのか」
「エルカ! そうだな目的は達成したぞ。でも他に問題が出たみたいなんだ」
「それならすでに知っているわ、さっき突然ひび割れた空間から赤髪の精霊が飛び出してきてな、何事かと思ったら突然空が黒く染まって飛び去ってしまったんだよ」
「他の皆は無事なのか」
「3人はさっき赤髪の精霊を追っていったぞ、私だけグラス達が来た時のためにここに残ってたんだ」
これは危ないかも、もしレピティ達が悪性のホルテラ様と対峙したら勝てっこないし。
「直ぐに追わないと」
「その心配はないようですよ」
ゼーネシアさんの指さした方向を向くとレピティ達がこちらに向かって走ってきた。
「よかったみんな無事だったみたいですね」
「ご主人様よくお戻りになりました」
「どうやら目的を達成したようだな、いやそれ以上の収穫を得た様子で」
ノエリさんはゼーネシアさんを見ると、以前とは違う何かを感じたようでそう呟いていた。それにしても皆無事でよかった。
「それで、追っていた精霊はどうなりましたか」
「精霊? ああホルテラ様の事ですか。いきなり空間からホルテラ様が出てきたので声を掛けようとしたのですが、無視して飛び去ってしまったんです。仕方ないので私が全速力で追って名前を大声で呼んだのですが、全く反応してくれず見失ってしまいましたね」
リルさんはそう残念そうな表情で頭を抱える。
「いや、お前がいきなり飛び出していったからノエリとレピティが安全確認をするために振り回されることになったんだからな」
「だって現聖女としてホルテラ様と会話くらいしたいじゃない何がダメなの?」
エルカがリルさんを言及している。どうやらリルさんがホルテラ様を追う発端になったようだな。
「すまん、私があれはホルテラ様だと言ったばかりに」
「リルさん凄く足が速いので私達が追いつくのに凄い苦労しましたよ……」
「ほらノエリとレピティに凄い迷惑が掛かっているぞリル」
「……ごめんなさい」
ホルテラ様の姿は精神空間に入った僕達意外だとノエリさんしか知らない。しかもどうやらこの様子だとノエリさんは悪性のホルテラ様が本物だと思ってるみたいだ。
確かリルさんは極度のホルテラ様オタクだったんだっけ。女神像持ち出し事件の発端でもあるし、ノエリさんがホルテラ様だと言ってしまったせいでリルさんのホルテラ様愛が爆発してしまったんだろうな。
リルさんを止めることになったノエリさんとレピティには同情してしまう。
「まあ何がともあれみんな無事でよかったよ。先ずは今回の成果の話をしようか」
それから僕達はトーラス聖堂の応接間に集まった。
「成程、つまり私が会っていたホルテラ様は偽物で、あちらのホルテラ様が本物というわけか」
僕とゼーネシアさんはホルテラ様の精神空間であった出来事を全てみんなに話した。
「ノエリさんは悪性のホルテラ様しか見たことありませんもんね。宝珠の試練の時は意地悪されなかったんですか」
「いや、特にはされてませんよ。あまり興味がないから早くしてと言った感じで、すんなり課題は突破しましたね」
成程な、あのホルテラ様ならやりかねない気がする。
「しかし驚きましたね。まさかホルテラ様自身がゼーネシアさんと契約することになるなんて、これは欠片どころの話では無い程の戦力アップと言えますよ」
「私も驚きでしたよレピティさん。ホルテラ様が力を貸してくれるのですから、より魔王討伐に身を引き締めなくてはなりません」
そう話す2人が少し離れたところにいるホルテラ様を見つめる。ゼーネシアさんは状況説明のためにホルテラ様を呼んでみんなに見せていたのだ。そしてホルテラ様の側には興味深そうに近くによってる2人の少女の姿がある。
「ホルテラ様ああ! あなたが本物のホルテラ様なんですね! 私現トーラス聖堂現聖女のリルって言います。この機会にどうか仲良く致しませんか? 見てくださいこの聖堂の豪華な装飾品、これは私がホルテラ様のために用意したんですよ」
「おいどけリル、ホルテラ様こちらのお布施を見てください。これは私が長年ホルテラ様への祈りを捧げるために念を込めているんですよ」
「汝らは、我にどうして欲しいのだ……」
見たところエルカとリルさんの押しにかなり困っている様子のホルテラ様である。この3人は面白そうだからこのままでいいのかもしれない。
「それで、当初の目的以上のホルテラ様の力が手に入ったのですが別の問題が浮上しました。悪性のホルテラ様が外の世界へ出てきてしまったことです。その実力は凄まじいもので、恐らく魔王軍幹部以上の脅威になるでしょう」
「魔王の力の一部を吸収した悪性のホルテラ様か、想像するだけで恐ろしいな」
ゼーネシアさんの説明を聞き、リルさんが相槌をうつ。
「しかし完全に見逃してしまったために、これは様子を見るしかなさそうですね」
「そうですね、一先ず相手の出方を見るしかありません」
「我がトーラス聖堂もお前達に協力するぞ、ホルテラ様の目撃情報が有ったら即伝えることを約束しよう」
「お願いします」
こうして僕達はトーラス聖堂を後にすることになった。ゼーネシアさんがホルテラ様の力を得るという想像以上の収穫があった反面、悪性のホルテラ様解放という不安材料も残ったため、何とも言えない結果となった。ゼーネシアさんはやる事があると話合いが終わってすぐに姿を消していた。
「皆さん本日はわざわざトーラス聖堂までお越しくださいありがとうございました。またいつでもお越しください」
「おいリル次会った時はホルテラ様のためにそのダサい装飾品を片付けておけよ」
「分かった今度はもっと聖堂をアレンジしてお迎えするね」
エルカとリルさんは軽口を叩きあいつつもなんだかんだ、信頼し合っている様子を見せている。そして互いに手を振り合って別れをすることになった。
「今回もかなりの冒険ぶりでしたねご主人様」
「ああ、そうだな本当に今回は凄い体験をした」
「いや、私達は別に聖堂で待機していただけだが」
「……」
レピティはエルカの言葉で黙る。
「いや、ごめんやっぱりそんな大したことしてないや。聖堂巡り楽しかったな……ハハハ」
「ご主人様、今度は私も冒険する時は同行しますからね」
「私もだぞグラス」
「も、勿論だよ。2人とも次はよろしく頼むぞ」
こうして2回目の聖堂巡りの旅は幕を閉じるのである。
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