40.異空間
僕達はノエリさんの提案で再び聖堂地下一階の聖水の間で話し合うことになった。
「そうですか、ゼーネシア様はホルテラ様の欠片を探していたのですね」
「何か心当たりはありませんか」
「これはかなり秘匿の情報になってしまうのですが、ギルド《オルトレール》のリーダーゼーネシア様なら心配はなさそうですね」
魔王軍が出現してからギルド《オルトレール》の名前はかなり有名になったそうだ。やはりギルド冒険者が魔王軍幹部を倒したという功績が大きいらしい。
「それに、グラスさんには初代聖堂聖女としての恩義がありますからね。聖堂の闇の問題を解決してくれただけでなく、エテラカネルカ様がかなりお世話になっているとか。断る理由がありませんよ」
「ありがとうございます」
それにやはり何といっても僕が偶然クエストで以前、トーラス聖堂の問題を解決したのが大きかったといえるようだ。
「おいノエリ! 久しぶりだな元気にしてたか」
「エテルカネリカ様こそ随分見ない間に、成長したようですね。私は嬉しいですよ」
この2人は聖堂聖女では先輩後輩の関係に当たると思うのだが、随分とエルカの態度がデカい気がする。
「おいおい、お前先輩にそんな口の利き方でいいのか」
「え? 何がダメなんだ。普段からこうして話しているだけだが」
ああ流石元お姫様だ。かなり常識がなってないと見た。ノエリさんも苦労してそうだな。
「全然私は大丈夫ですよグラスさん、エテルカネリカ様とは長い付き合いでしてね、その背景も大方把握していますよ」
「じゃあエルカがシュレッタ王国の第一王女であったことも知っているのですか」
「そうですね。私も最初は驚きましたが、なればこそ行き場所もないだろうと思い、私が預かりましたの。やはり血筋もいいため聖女迄の道のりはあっという間でしたわ」
「そうだよ、だからノエリは私の恩人なんだ」
成程なあ、エルカがトーラス聖堂にいた謎がこれで解けた。
「現聖女のリルも、かなり当時は神童とシスターの中で言われていましたの。でもエテラカネルカ様はそれ以上でしたわ。2人の天才が切磋琢磨する様子はとても見ていてワクワクするものでした。」
「なっ! おいノエリ、私がエルカより下だったと言いたいの!」
「いえいえ、そんなことは全然、昔の話ですので今は分かりませんって」
ノエリさん結構辛辣だな……とはいえエルカとリルさんの関係もなんとなくわかってきたし、尋ねてみて良かった。
「エルカ様にとって聖堂は第2の実家みたいなものなのですねご主人様」
「そうだなあ、エルカを預かった身としては、これまで以上に聖堂を大切にしないといけないよな」
なんだか責任感がさらに強くなった気がした。
「そろそろ本題に入るのですが、今回の目的の《ホルテラの欠片》を手に入れることですよね。そして私はその在処がホルテラ様の精神空間にあることを知っています。リル様が所持している本宝珠もそこから手に入れたものです」
「ホルテラ様の精神空間ですか……初めて聞きますね。今回の欠片はかなり特別性な感じな気がします」
ゼーネシアさんでも知らないことがあるのか。かなり意外な展開である。
「ゼーネシア様は他の欠片を何処で手に入れたのですか」
「そうですね各地でホルテラ様のエネルギー反応ポイントを感知して、そこをしらみつぶしにあたったという感じでしょうか。現在特に何もなく拾った形で6個ほど集めましたが、後4つほど魔王軍に備えて欲しいところですね」
「成程対魔王軍に備えることが目的でしたか。それでは私どももより一層協力をしたいと思います」
「事情を理解してもらえてありがたいです」
「ホルテラ様の精神空間への入り口は、トーラス聖堂初代聖女である私にしか開けられません。そして開錠条件は私が頭の中に扉をイメージしてこのように空間を切るよう手を動かすと言う事です」
「ドドドドドドドドド」
ノエリさんが開錠の仕草をすると、突如扉が現れて同時に開きだした。奥には異質な白い空間が広がっている。
「さてこちらがホルテラ様の精神空間になります」
「話が早くて助かりますよ。この先へ行けばホルテラの欠片が手に入るのですか?」
いや、話が早すぎるだろ。いきなり扉出現しちゃったけど。しかもゼーネシアさん動じてないし。
「申し訳ありませんゼーネシア様、ここから先が問題となっているのですが、実はホルテラ様の精神空間を抜けますとホルテラ様の精神体と会うことになります。その精神体が課す課題を乗り越えなくては欠片が手に入りません。私の時は宝珠でしたのである程度苦戦する程度で済みましたが欠片クラスになるとかなり大変な課題が予想されます」
「成程険しい道のりになりそうですね」
ゼーネシアさんはそう言うと迷わず足を踏み出す。
「ちょっ、もう突入するんですかゼーネシアさん」
「ええ、まあそうですね。私は全然大丈夫ですよ」
いやそこは作戦を立てたりだとかした方がいい気もするが、毎回予想外の行動を起こすゼーネシアさんにそんな正攻法が当てはまるわけがなかった。
「そういえばですね、この精神空間には定員が決まってまして、2名迄しか入ることが出来ません。メンバー選出は慎重に行ってくださいね」
「いやそれ1番最初に行ってくださいよ!」
「さてメンバー選出だがどうするか」
っていうまでもない感じだな。
「決まったようなものですねご主人様」
「おいグラス、お前が行くんだぞ、ゼーネシアの奴危なっかしいからお前がいざとなったら助けてやれ」
いやいや僕がゼーネシアさんを助けるって、全く想像できないんですけど。
「私は聖堂側の人間なので、勿論参加しませんよ。お二方の健闘を祈ります」
「リル様と同じくですね」
そりゃあまあ、リルさんとノエリさんは参加しないだろうな。
「それじゃあ決まりですね。行きますよグラスさん」
「そうですね! 突入しましょう」
こうして《ホルテラの欠片》を手に入れるために、ノエリさんが出現させたホルテラの精神空間に、僕とゼーネシアさんの二人が突入することになった。
ホルテラ様の精神空間とは一体どのようなところなのだろうか。そして僕達に待ち受ける欠片クラスの課題とはどのようなものなのか、かなり不安のある状況である。
ただまあゼーネシアさんがいるし、かなり僕に対する重荷は減っている。万に一つも失敗することは無いだろう。
そんなことを思いながらホルテラ様の精神空間に突入した僕の前にいきなりハプニングが訪れた。
「何か来ますよグラスさん」
「これは灰色の瘴気?」
白の空間で覆われているホルテラの精神空間に突如出現した灰色の瘴気、僕はゼーネシアさんがいつの間にいなくなっていることに気づいた。
「え、ちょ、ゼーネシアさんどこに行ったんですか? おいおいおい、どういうことだよこれは」
「どういう事もないが、そう言う事なんだよ!」
「だ、誰だ!」
その時辺りの白い空間は剥がれ落ちて、紫色の空間に立ち替わる。
「あ?私か、いいだろう教えてやるよ。私こそ世界の救世主にして、勇者と共に魔王を討伐した大女神ホルテラ様だ! よく覚えておけよガキが!」
あれ、女神ってこんなに口調が荒いのか。僕の中での女神ホルテラのイメージはその日完全に崩れ去ることになった。
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