39.初代
聖堂地下の壁はえぐれて天井には風穴があいている。そんな天井を見ながらエルカが不満をぶつける。
「おいリル、これはもちろん自分で責任取るんだろうな」
「も勿論よエルカ、まさかこんなに宝珠の扱いが難しいだなんて思わなくて」
どうやらリルさんはまだ宝珠を扱いきれてないらしい。聖堂の聖女になってまだ少ししか経ってないもんな。
「エルカだったらこの宝珠をうまく扱えるのか」
「いや、私はまだ使ったことは無いぞ、使う機会がなかったんでな」
「なるほど」
確かに聖堂で祈りを捧げているだけだもんなエルカは。
「じゃあ、リルさんも宝珠を使ったのは初めてってことか」
「まあ、そうですね、初の試みなので失敗は仕方がないと思います」
失敗と言っても限度があると思うと思わず突っ込みたくなってしまう。
「当分は宝珠の使用は避けた方がよさそうですね」
「はい、私も使用のタイミングは気を付けようと思います」
「ま、まあ今回の所はリルの心意気の強さに打たれたから見逃しておいてやるぞ」
おいおい、随分と上からの意見だな。
「エルカも凄く強くなったし、私もあなたを認めてあげる」
「へ? お前随分と素直な口調になったな! やめろ調子が狂うわ」
「はいはい、分かった分かった。そういう天邪鬼なところは相変わらずね」
「ははは……何とか収まりそうでよかった」
随分と決闘が長くなってしまったが、今回僕がここに来たのは《ホルテラの欠片》の痕跡を探すことだ。
エイマさん曰く女神ホルテラの力が宿るとされる欠片、それは僕が以前エルカからもらったあの宝珠に関連するなんて思っていたが……あれ?
「リルさん、もしかしてその宝珠って……」
「うん?」
僕がリルさんの持つ宝珠を指さすと、リルさんもその宝珠を見る。
「どうやら見つけたようです」
「……っ!」
風穴があいた天井に何者かが乗っている。この声はまさか……。
「そうですかトーラス聖堂、ここにあったのですね」
「ゼーネシアさん!」
なんと、天井からゼーネシアさんが現れたのである。
「あれ? グラスさん達もここにいらっしゃったの」
そう言うとゼーネシアさんは天井から飛び降りて、何事もなかったようにこちらへ着地する。
「それはまあ、エイマさんからゼーネシアさんがホルテラの欠片を探してるって聞いたんですよ。それで心当たりがあるからなと思って」
「成程、そう言う事でしたか」
「グラスさんその方はどなたですか」
「えーとですねリルさん、こちらの方は……」
「どうも、ギルド《オルトレール》でリーダーをやっていますゼーネシアと言います」
「ギルド《オルトレール》って……グラスさんのギルドじゃないですか。そんな方が何故ここに?」
「ひとまず場所を移しましょうか」
僕達はそれから聖堂応接室に移動した。
「成程、ゼーネシアさんもホルテラ様の欠片を集めていると」
「そうですよ、それであちこちを巡っていたら丁度近くでホルテラ様の魔力の痕跡を見つけたのでここまで飛んできたんです」
飛んできたって凄い表現だな。ただゼーネシアさんの事だからそんな突拍子もないことをやっていても納得してしまう。
「グラスさん達も確かホルテラ様の欠片を探して、ここにいらっしゃったんですね」
「そうなんですよ。それでエルカが言っていたホルテラ様の欠片の心当たりってこれか」
机の上にはさっきリルさんが使ったホルテラ様の本宝珠と呼ばれる欠片が置いてある。
「ああ、そうだよ、滝撃ちの時にグラスに渡した宝珠はこの本宝珠のレプリカなんだ。トーラス聖堂の現役聖女のみが所有を許されている代物で、ホルテラ様の魔力が宿ると聞いて真っ先にこれだと思ったのだよ」
「えええ、これってそんな凄い代物だったの、全然私知らなくて」
おいおい、大丈夫かこの現役聖堂聖女。
「それで、どうですかゼーネシアさん」
「うーん、大変惜しいのですか、これはちょっと私が探している《ホルテラの欠片》とは違いますね。その片鱗であることは確かなんですが」
「そうですか」
困ったぞ完全に手がかりが尽きたな。今回の件はこれ以上役に立てそうにないかも……。
「そうだ、シスター・ノエリを尋ねてみたらどうだ」
「誰だそれ」
「初代トーラス聖堂聖女ですよ。エルカが2代目で、私が3代目となっています。確か今ノエリ様は聖堂のシスター教育係をやっていたと思いますね」
「それじゃあ早速行ってみるか」
トーラス聖堂の側にある建物の中にいるノエリさん。この建物で毎年聖堂のシスター候補生が育てられるというわけだ。
それからリルさんが早速時間が空いたノエリさんを尋ねる。
「ノエリさん、ちょっといいですか」
「リル様、どう致しましたか」
「これなんだけど、どこで手に入れたか分かりますか」
「ほう、これはホルテラ様の本宝珠ですね」
「そうなの、この宝珠はホルテラ様の欠片に関係あるんじゃないかと言った人がいて、その人は本体を探しているようなのだけど」
「そうですね、聖女様が持つ本宝珠の更に元固体となると少々大変になるかもしれません」
ノエリさんは少し押し黙り、何かを決めたように喋り始める。
「うーん、分かりました。そしたら少し場所を変えてもらってもいいですか、出来れば広い場所がいいですね」
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