38.聖堂クエスト再来
ギルド《オルトレール》の支部長室で今僕はエイマさんと近況を話し合っている。
「おいグラス、近頃の調子はどうだ」
「そうですねえ、掲示板の方も徐々に元に戻りつつあって凄く日常が安定してきている気がします」
国王の事件から一か月が経過、あれからかなり魔王軍の動きが弱っていった。今では本当に偶に下っ端の目撃情報が寄せられる程度である。
「ふむふむ、そうであろうな。私も最近は平時通り支部長室でくつろぐことが出来ている」
……そういえばエイマさんは支部長室でよくくつろいでたな。やっぱり遠征の時のやる気が異常だったのか。
「それでな、今日は興味深い情報を耳に入れたのだが、ちょっとグラスにも聞いてもらいたいのだ」
「はあ、興味深い情報とは」
「女神ホルテラを知っているか?」
「はい、まあ少しは」
女神ホルテラ様って確か聖堂でエルカが拝んでいた神の事か。確か魔王を勇者と倒した時にも手を貸したとかなんとか。
「実はゼーネシアの奴が魔王軍殲滅の更なる対策として、《ホルテラの欠片》を集めているそうなんじゃよ。実力不足を感じたとか言い出してな、アセルビデトでのハイフレードとの対峙でかなり堪えていたみたいなんじゃ」
「確かにハイフレードの力はかなり異質でしたもんね、しかし《ホルテラの欠片》とはどんなものなのですか?」
「いや手のひらに乗るサイズの欠片でな、中にはホルテラの力が宿ってるとされているんだ。何か思い当たる節とかないか?」
「うーん、そうですねえ」
手のひらサイズで、ホルテラ様の力か……ッ! 待てよそれってエルカの宝珠にそっくりじゃないか。
「お、僕もしかしたら心当たりがあるかもしれません」
「本当か! そしたら《ホルテラの欠片》捜索を頼んでもいいか」
「勿論です」
こうして僕は《ホルテラの欠片》探しを請け負うことになった。今回はエルカがかなり喜ぶ気がする。
【ババババンッ!(クエスト難易度?)ホルテラの欠片を探せ!】
「ご主人様、そろそろ時間になりましたね」
「おお、そうだな」
「ふふふ、私は嬉しいぞグラス、久しぶりにあいつに会えるのだからな」
「遊びに来たんじゃないからなエルカ。よしじゃあ早速行くぞ!」
見慣れた建物の扉を僕は開ける。この光景をよく僕は知っている。
「みんな、よく来てくれたね! 待っていたわよ」
「お久しぶりです、リルさん!」
そう僕達が久しぶりに訪れたのはエルカとの出会いの場である《トーラス聖堂》であった。
「すっごいですね。随分と派手な空間になりまして」
見渡す限りに飾られている荘厳な装飾品の数々、以前には何もなかったが随分と変わったものだな。
「ふふふ、言ったでしょ、私が新しい現役聖女になったからには、この聖堂をもっと進化させちゃうってね」
「私こんなに綺麗な空間初めて訪れたかもしれません」
レピティの瞳が凄い輝いている。それほどこの空間が気に入ったのだろうか。しかしこの状況をよく思わない人物は身体を凄くプルプル震わせているのが分かった。
「ふざ、ふざ、ふざけるなああああ!」
「おい、おい、どうしたんだよエルカ、いきなり叫びだしてびっくりしたぞ」
「すまんなグラス、ちょっとリルのこの愚行に腹が立ったんじゃ。おいリル! 聖堂はホルテラ様に祈りをささげる神聖な場所だぞ! こんなアクセサリーで覆っていい訳がないだろうが」
「絶対エルカがそういうと思った。あのね、ホルテラ様は伝承では綺麗な装飾品が好きだったとされているのよ。前から思ってたけどエルカの質素なお祈りアイテムに資金を使うならよっぽどこっちの方が有効に決まってるでしょ」
「おま、お前! よくも私がホルテラ様のために用意したお布施の数々を馬鹿にしたな。決闘じゃ、決闘!」
「ああ、望むところよ。久しぶりに受けて立とうじゃない」
おいおい決闘ってなんだよ。しかしまたこの二人は性懲りもなく喧嘩をしだして。
「喧嘩をするほど仲がいいってことですね」
「いやね、本当にそう思うよ」
ふとこぼしたレピティの格言に僕は思わず頷いてしまった。
それから僕達はお馴染みの聖堂地下一階の《聖水の場》を訪れた。
「決闘のルールはいたってシンプル、魔法の力比べ! 勝ったら私の言う事を聞いてもらうからねエルカ」
「私が負ける? 面白い冗談を言えるようになったなリル」
「えええ、審判は聖堂シスターの一人このホゥが務めさせて頂きます。エルカ様とリル様準備はよろしいでしょうか」
「勿論!」
「当たり前だろ」
聖堂にはシスター複数人いる。ホゥさんは見たところシスターの代表と言った感じだろうか。リルさんも元はシスターだったもんな。
「それでは初め!」
2人の魔法が激しくぶつかり合った。
「これは凄いですね、高濃度の聖魔法の衝突ですよ」
「ああ僕もエルカがこんな魔法を使えるなんてびっくりだ」
普段主に後衛でサポートをしてくれていたエルカ、なので攻撃魔法を使用するのはわりと初めて見たわけだが、中々のものである。
「今度エルカを前衛に出してみようかな」
まあ、危ないからやらないけど。
「見てくださいご主人様、動き出したようですよ」
拮抗していたリルさんとエルカの魔法の衝突は、突如動き出すことになる。
「流石じゃないエルカ、ここまで強くなったなんて」
「当たり前だ、グラスの元でずっと実戦を積んできたからな。聖堂にいた頃と同じにしてくれては困る」
魔法の衝突はリルさんが押され気味であった。エルカの魔法の威力がリルさんを上回っているらしい。
「そろそろ負けを認めたらどうだリル」
「馬鹿じゃないの! まだまだここから……あれ?」
リルさんの魔法の威力がその時一気に弱まった。どうやらスタミナ切れのようである。
「おいどうしたリル、もう限界のようじゃな」
「あああもうスタミナ切れなんてあったまきた! 奥の手を使っちゃうもんね」
なんだ、リルさんが欠片のようなものを取り出した。
「おい、ずるいぞリル、それは現聖堂の聖女しか使えない【ホルテラ様の本宝珠】じゃないか」
「ずるくないでしょ。エルカだって旅で実力アップをしたんだから、私も今の聖女としてのアドバンテージを使わせてもらうわ」
リルさんが宝珠に触れると、それは凄まじい光を放ち、リルさんの身体に膨大な魔力を付与した。
「はあああああああ!」
「おい、おま、リルちょっと威力出し過ぎじゃ」
「アレちょっと加減間違えたかも」
「なっ……」
「ドカアアアアアアアアアン!」
リルさんが本宝珠を使って魔法を放とうとした途端、エルカの魔法もろとも暴発して爆発を起こすことになった。
「いてててて」
エルカとリルさんは2人とも同じ体勢で倒れているものの、無事な様子である。
「えーと、今回の決闘の勝者は無しです! 両者ダウンで引き分け」
「いや二人とも本気出し過ぎだって……」
ホゥさんの判定で勝敗が決した決闘、予想以上に派手なものを見せられた僕は、そう突っ込まざるをえなかった。
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