36.喧嘩
「お姉さま、率直に申し上げて現在の状況をどうとらえていますか」
エルカとレネの対面、相変わらずかなりエルカの表情は複雑である。
「私は王国とは既に関係ない身だ。父上がいなくなったことは驚いたが、鑑定システムαを使って私も今まで酷いことをされてきた。それを踏まえて言うと自業自得としか言えん」
「あなた、父上がいなくなって何とも思ってないなんてよくも言えましたね」
「何も思ってないわけではないわ! ただ私は、王国が大嫌いだったんだ。身分や能力主義で人を裏で見下す奴らにそれをよしとする父上。何より私の大切な冒険者仲間が、かつて父上のあの鑑定システムαの判断によって酷い目にあわされたのだぞ」
「そ、それは」
「レネ、お前達もどうせ使い捨ての道具みたく最後はされていたのではないのか」
「……」
どうやらこの表情から考えるに、レネ達冒険者パーティもシュレッタ王に見限られていたようだな。
しかしエルカは過去に国王に何をされたんだろう。またあの鑑定システムαはいつからできていたんだ。
「……確かに父上は鑑定システムαにのめり込み過ぎて、それは自業自得で擁護のしようもないです」
「……っ!」
レネは涙の表情を浮かべだす。
「な、なあ、その鑑定システムαっていうのはいつから存在しているんだ」
「それはもう代々続いていたそうだ。父上もその伝承を継承した形になっていたわけだが、あれを使って何回も選抜冒険者パーティが組まれた。その度に父上は追放を繰り返していたようだがな。グラス、お前はなんで鑑定システムαについて知っているんだ」
「いや、というか僕もその鑑定システムに選ばれた冒険者だし」
「……は、はあああ?」
そういえばエルカはまだ僕が選抜冒険者だったことを知らないんだったな。
「お前、じゃあ何で無事でいるんだ。鑑定システムで選ばれた後、不要とみなされて王国を追放されたものは王国軍の粛清を受けて生きて帰れんはずだが」
「ああ、そりゃあまあ、凄まじい粛清を凄い受けたよ。本当に生きた心地がしなかった。なあレネ、お前なら良く知ってるんじゃないか」
「っちっ、余計な口を挟みますね」
随分と口調が変わった。やっぱり嘘泣きだったか。
「レネ! お前グラスに追放迎撃を加えたのか」
「そりゃあ、まあ鑑定レベルEなんて最初はゴミだと思いましたから、速攻で切ろうとしましたよ」
「……この馬鹿者が!」
「バシッ!」
エルカのビンタがレネの頬を捕らえる。思わぬ攻撃を受けたレネは鋭い眼光でエルカを睨みつけている。
「あんな事をいまだに続けていたなんて、父上は論外であるが、お前も大概だぞレネ」
「うるさい黙れ! お前があの聖堂でお祈りごっこをしていた時に私は父上の機嫌を取り役目を全うしていたんだ。責任を逃れたお前に言われたくないわ」
「だからそんな機嫌取らなくていいんだ、お前も王国をとっとと抜けて私の元へ来ればよかっただけの話で……」
「誰が姉様みたいな負け犬の隠居生活を好んで選ぶもんですか! 私はシュレッタ王国の王女です! そんなものは受け入れません」
「なんだとお! とにかくお前はグラスに謝るんだ。そして今回の件は自業自得という事で終わりだ」
「ああ、姉様の意見はよく分かりましたよ。私がこいつに謝る必要もありませんし、引き続き王国の問題は私一人で対処します。何か起きてからでは遅いですからね」
随分と派手な姉妹の修羅場が起きてしまった。遂にはエルカにまで提案を断られたレネだが、微妙に気の毒な気がしなくもない。いややっぱりそんな気は全くしないかな。
「おいレネ、お前と協力するつもりはないが、どうも鑑定システムとハイフレードの動向が気になる。あいつがもし何か奇行を起こせば、別に王国とかお前たちのためとかではないが、僕はハイフレードと対峙することになる。だからお前はせいぜい余計なことはしないで慎重に行動するんだな」
「なんなんですか、その態度は本当に腹立たしいですね。一言多いんですよ。私の提案をここまで断っておいて、あなた達本当に嫌いです。あなたの提案なんて何一つ聞くつもりはありませんからね」
そういうとレネはギルドを去っていった。
「な、なあ私の蚊帳の外感が凄いのだがこれでよかったのか」
実は身を潜めていたエイマさん、側にいたレピティが口を開く。
「エイマさん中々の空気の読みぶりでしたよ。控えというのも重要な役割です」
「お前は随分と分別がつくのだな」
デッドヒートしたエルカとレネ、そして僕の口論。その間レピティとエイマさん達が蚊帳の外になって申し訳ない事をした気がする。
とは言え今回の騒動はひとまずこれで終了というわけになった。
ハイフレードが国王になろうとも普段通り王国を統治してくれれば、僕達は引き続き魔王軍鎮圧やクエストを受ける生活をしていくだけだ。そうハイフレードが何もしなければだ。
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