31.神閃
「皆さん3人が無事帰還しましたよ!」
「うおおおおおおおお!」
魔王軍幹部を相手に大金星ともいえる活躍をした僕達はギルドの皆から英雄のような凄まじい称賛を受ける。
「皆も無事でよかった」
見たところギルドメンバーの負傷者もゼロ、みんなを後衛に回した作戦が功を奏したと言える。
「我がギルドの勝利だあああああああああ!」
エイマさんはギルドの皆へ向かって両手を広げて、大声を上げた。皆もそれにこたえるように歓声を上げる。
「やったぞおおおお!」
「ご主人様」
レピティがこちらに近づいてきた。それに答えるよう僕も足を進めていく。
「無事でよかった」
「それはこっちのセリフですって。前衛に出ていたのはご主人様の方ですよ」
「まあ、それもそうだな。ハハハハハ」
「フフフフ」
僕はレピティと互いの無事を称え合って、笑いながら拳を合わせた。
「何2人でいい雰囲気になってんだ」
「うわっエルカ! お前いつの間に」
僕とレピティの間に割り込んできたエルカ、その表情は大変この状況に不服そうであった。
「エルカも無事でよかったよ」
「フ、フン、私はお前の事だから余裕だと知ってたから、戻ってきたのは当然だと思ってたがな」
「エルカさんでも、後衛支援の時ずっとご主人様が心配で前戦に行きたいずっと言ってましたよね」
「はっ! レピティ何余計なことを言ってるんだ!」
「そうなのか」
「いや、これはレピティが口から出まかせを言っただけの事で、私はお前に関して何も心配した覚えはな……」
顔を赤らめて言葉に詰まるエルカ、まんざらでもない様子である。
「相変わらずお前たちはうるさいな」
「水差しちゃダメでしょエイマ、それくらい仲良しってことよ」
「あれ何か悪い事してたのか」
エイマさんとセイラさんが僕たちの元に現れた。思えばこのギルド遠征で2人とはかなり親睦が深まった気がする。
「いえいえ、エイマさんは本当に凄くて助かりましたよ。セイラさんも無事でよかったです」
「かなりグラス君風格が出てきたんじゃない、ゼーネシアさんとエイマに並んでも遜色なかったわよ」
「そ、そんな、お二方と自分が並ぶなんてまだまだですっ……」
その時セイラさんは突然人差し指を僕の額に向けて顔を近づけてくる。
「はい、また言っちゃたねグラス君。そういう謙遜はもういいのよ。だって君はもううちのギルドのグランドマスターなんだから」
「……ハハハ、そうですよね」
セイラさんはいつも僕の心の隙をついてくる。一つ先の目線で時々くれる一言は凄くためになるのである。
「いつか心も身体も、成長したグラス君を見せてよね。本当に期待しているんだから」
そういうとセイラさんは人差し指を優しく突き出して、僕の額を軽く押してきたのだった。
「……っ!」
「どうしましたご主人様、顔が赤くなっていますよ」
「セイラの奴め、中々の策士だな」
レピティがこちらをじろじろ見てくる一方で、エイマさんは少しだけニヤついている。
「おいグラス、何ぼうっとしておるんじゃ!」
「うおうおうおうおお……エルカ?」
僕はエルカに肩を激しく揺らせれて意識を取り戻したのであった。
「それでは皆さん、今回の討伐遠征はこれで終わりです。後はここアセルビデトの代表であるカミトにお礼をしに行きましょうか」
ゼーネシアさんがギルドの皆をまとめて今回の遠征の終わりを告げる。長かった遠征も遂に終わるなんて少し寂しい。
あれ、しかしカミトさんって、ハイフレードと戦ってどうなったんだろう。
「おい、空から何か振って来るぞ」
ギルド冒険者の1人が指をさした方向を見ると、何かが高速で落下してくるのが見えた。
「ドッカァァァァァァン!」
その後丁度ゼーネシアさんの目の前に何かが落下した。
「あなたはカミト!」
「うっ、うっ、うっ、ハイフレードの奴、まるで禁忌に触れたかの如き力……」
落下してきたのはなんとカミトさんだった。何か言おうとしているようだが、直ぐに意識を失ったようである。
「また上から降って来るぞ」
「ドカ、ドカ、ドカ、ドッカアァァァァァァン!」
「あれはドラゴンじゃねえか! あんな俺達を苦しめた奴がなんでこんなことに」
続いて落ちてきたのはカミトさんが呼び寄せた数十体のドラゴンだった。遠方に四方八方に落ちるドラゴンは巨体故に、凄まじい轟音を放っていた。
「これはえらいことになったんじゃないか」
カミトさんが戦っていたのはハイフレードである。カミトさんが落下してきたと言う事はつまり、勝ったのは……。
「いやあ、参ったよ。まさか奥の手を使うことになるなんてね」
「何者だお前!」
「離れてください! その者のオーラは異質です」
落下したドラゴンにより巻き起こった粉塵の中から出てきた男、ギルド冒険者の1人が近づこうとすると今まで見せたこともなかった焦った様子をゼーネシアさんが見せる。
「え、ゼーネシアさんどうしたんですか急に……っ!」
その時前に出たギルド冒険者に剣撃が襲う、その威圧感はまさに神閃とも言えるものであった。
「ガギギギギギーン!」
激しい剣の衝突音が周囲に鳴り響く。気が付けば凄まじい速さで冒険者を守って剣撃を捌くゼーネシアさんの姿がそこにあった。
「うちのギルドの者に、何か用ですか、王国聖騎士長ハイフレード!」
ゼーネシアさんの額にかすり傷が入る。
「うん? 君は確か、そうギルドリーダーのゼーネシアさんじゃないか、ってことはこちらの方は冒険者だった。済まないちょっと見分けがつかなくてね」
とぼけた様子で剣をおろすハイフレード、冗談じゃないゼーネシアさんが居なかったら直撃してたぞ。
「ありゃりゃ、グラス君たちもいるじゃないか、それじゃ皆さんはギルド御一行様という事かな、皆出てきていいよ」
「ドドドドドドド」
「な、なんだってえええええ」
その時ハイフレードの背後に数百にも及ぶ王国兵の軍勢が出現した。ギルドのみんなはその光景に戦慄する。
「……」
ゼーネシアさんもこの状況を目の当たりにして、首筋から汗が出るほど、焦っている様子である。
「皆には僕がステルス魔法を付与しといたんだ、だから君達には見えなかったんだよ。まあいま解除したんだけど」
「その軍勢をどうするおつもりですか」
「そうだな……」
混沌とした状況の中沈黙と緊張感が辺りを包み込む。
「勿論撤退するさ、もう目的は達した。それにこちらはギルドに危害を加えるつもりはない。ステルスを解いたのも意思表示のためだよ」
「そ、そうですか」
「なんだよ、ビビらせやがって」
ギルドのみんなに安堵の表情が流れた。
「それじゃあ、みんな撤退するよ」
王国軍の一斉撤退が始まった。
「待って下さい、ハイフレード」
その時ゼーネシアさんが口を開く。
「あなたは何が目的でカミトを攻撃したのですが」
「うーん、それは言えないかな。あまり多くを知ることは僕もおススメしないよ」
「そうですか……分かりました。それではこれ以上は控えさせていただきます」
「賢明なことだ。またどこかで会えるといいね」
キザな態度で怪しく微笑むハイフレードは、手を振ってギルドの皆にお別れを言って去っていった。
「ふう、一時はどうなるかと思いましたよ」
何とか僕達は無事この危機的局面を乗り越えたのだ。
「ううう……」
「カミトさんまだ息してますよ」
「至急救護に取り掛かるよ」
僕達ギルドはカミトさんを始めとした、アセルビデトの負傷者の応急処置をした。さらにその後はアセルビデトの救護班の人たちも駆けつけてくれて戦いを終えたのだった。
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