30.分析×精霊術
「久しぶりミルティ、早速なんだけどあいつの動きを止めてくれないか」
「かしこまりましたグラスさん!」
ミルティは僕の分析によって数値化された魔法陣のイメージを出力された魔力を吸収し、手のひらにそれを集約した。
「なんだそのガキは、まあ小細工をしてもどっちみち無駄なことよ」
高速で急接近するヘイズ、ミルティの登場にも動じずに打撃を加えようとしてきた。
「《精霊術・静》」
「なんだと……」
ミルティの呪文はまるで認知するのが難しいほど静かで、一瞬の出来事だった。
「おおおお、凄い本当に止まった」
ヘイズはミルティの精霊術によって静止した。まるでヘイズの時間だけが固定されているようだ。
「いえいえ、グラスさんの綿密に数値化して出力された魔法陣が秀でていたからできた技です。私たち精霊は契約した相手のスペックに応じて力を発揮するのです」
「ほうほう、そんな仕組みがあったのか」
ミルティの力を前々から使ってみたかったんだけど、まさかここまでだとは……僕のスペックに応じて力が発揮すると言う事はまだまだ凄いことが出来るんじゃないのか。
「よし! ミルティ、今度は時間を止めたあいつを消滅させてくれ」
「了解です。そうですね分析した感じ、グラスさんの魔力を1%ほど頂ければ確実に消せますが大丈夫ですか?」
「たった1%で消せるのか! それは凄いな。是非ともよろしく頼む」
「はい、《精霊術・滅》」
その時ミルティの身体全体が更なる輝きを放ち、薄紫色の光が辺りを覆うのだった。音はせず、まるで何事もなかったかのように光は進行し、ヘイズの身体を消し去った。
「終わりましたね」
「いやあ、これは見事だね。跡形も無くヘイズが消滅してるよ」
流石にあっさりしすぎていた気がしたけど、ミルティの初陣としてはかなりちょうどいい実戦場だった気がする。
「それではグラスさん、また機会があればいつでも呼び出してくださいね」
「ああ分かっ……ミルティ危ない!」
「グオオオオオオオオ」
その時地面からボロボロになったヘイズが突如姿を現し、ミルティ目掛けて突っ込んできた。
「貴様ああああ! よくもやってくれたな。大魔法をお見舞いしてくれるわ。《SS級奥義ヘルブラッド》」
凄まじい魔力を帯びた凝固した血だ。これをくらったらひとたまりもないな。
「すいませんグラスさんしくじってしまいました。私の分析だと多少グラスさんのよりラグが生じてしまうみたいでした。私はここまでみたいです……っ! グラスさん?」
「させるかよ、そんなこと」
この速さ確実に分析は間に合わない、そんな状況で僕が決めたとっさの行動は前に立って身体を張りミルティを庇う事だった。
「やめてください! 精霊は契約主様のしもべです。グラスさんが私を守る必要はありません」
「いいやミルティは僕の仲間だ! 絶対に無事でいてもらう」
刹那の時間の中でミルティとの会話は念話のような意識化の中で行われることになった。
「ははは、そのガキもろとも滅びるがいい」
ヘイズが放とうとしている魔法は、凄まじいオーラを纏い周囲の空気を振動させている。このオーラ確実に僕が知っているものだ。
「さあ! 来いよヘイズ!」
「くたばれええええええ」
「ドカアァァァァァァァァァン!」
ヘイズの魔法発動と共に辺りには凄まじい爆風が巻き起こった。アセルビデトの戦いの中で最も強大な爆発を前にミルティは戦慄する。
「グラスさん……まさか、そんな」
煙が晴れてくる頃に、僕は目の前にミルティが涙ぐんで立ち尽くしているのを確認した。
「ミルティ大丈夫だったか」
「……っ! よかったグラスさん無事だったんですね。私は全然おかげさまで大丈夫です」
「そうかそうか、それならよかった」
「空が……晴れましたね」
ヘイズ登場によって漆黒に染まっていたアセルビデト上空は徐々に元通りになっていくのであった。
「いやあ、ある意味賭けだったんだけど見事成功してよかったよ」
「私もびっくりしましたよ。まさか攻撃する側のヘイズの身体が消滅してるんですもん」
「ハハハハ、初めてだと驚くよね」
ヘイズが使った魔法はSSクラス神級魔法であった。このクラスの場合解魔石を使えないかわりに、僕の能力で意図的に出力出来るが、意思決定までのインターバルが長い。
しかし意思を無視した、SSクラスの神魔法に自動的に反応して発動する出力はインターバルがかなり短いのだ。これを知ったのはシャキラと戦った時だったかな。
沢山戦ってきて、どれが神級魔法に属するかなどある程度はわかるようになってきた。それでも間違える可能性はあるし、かなり確実性のない思い切った行動であるが、何とかなった。だいぶ能力の扱いに慣れてきたと言えるな。
「それでは私はもう消えます。また何かあれば呼び出してくださいね」
ミルティはそういうと片目を一瞬だけ閉じて、僕の前から姿を消していったのだ。
「ミルティもずいぶんとあざとい性格になって何よりだよ……そういえばゼーネシアさんとエイマさんはどうなったんだ」
ふと二人の戦況を見に行くと、心配の必要もなかったと言える光景が広がっていた。
「敗北した……シニバ駄目な奴」
「はあ、はあ、はあ。ハハハハ! 大口を叩いた割には噛み応えがないな。出直してこい」
「ヘイズ様ああああああ、弱いこのシエラを許してください」
「フフフ、返り血の味はどうでしたか」
「……以外に悪くない、バタッ」
無事二人とも勝ったようで何よりだ。流石ギルドのトップ、頼りになりすぎる。
「ゼーネシアさん、エイマさん、こっちも終わりましたよ」
「お前ヘイズをもう倒しちゃったのか。私が参戦してやろうと思ったのに」
「エイマ嘘はよくないですよ。あなた眷属のシニバさん相手に苦戦し過ぎです」
ゼーネシアさんは眷属相手でも無傷のようだったが、エイマさんはかなりボロボロの様子であった。
「はあ、はあ、はあ……うるさいゼーネシア、少し相手の出方を伺って手加減しすぎてたんだよ。お前は相変わらず無傷で腹立たしいわ」
エイマさんの意地っ張りなところは相変わらずである。
「それにしてもグラス、お前も結構苦戦したようだな」
「へ、別にそんなことは……うわあああああ」
自分の魔道服を見てみると、ところどころに焼け跡が残ってボロボロになっていた。
「くっそ、ヘイズの奴の爆風のせいで」
「いやいや、グラス君は無傷ですよ。見たところ外傷はゼロです。魔力の乱れもない、ただ服は損傷しているようですが」
「――お、おうそうだな、私も冗談で言ったんだ。ハハハハハハッ!」
エイマさん元気そうで何よりだ……。
「さて、皆よく無事でいられましたね」
ゼーネシアさんの言葉で、僕とエイマの表情も引き締まる。
「手でも合わせましょうか?」
「いい提案だな、おいグラスお前が一番下だ」
「へ、こうですか」
「どりゃああああ」
「はい」
「我がギルドの勝利です!」
ギルド《オルトレール》は魔王軍幹部撃破という大金星を果たしたのだった。
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