28.合流
「こ、こんなことをしてタダで済むと思っているんですか」
「なあレネ、お前も姉をあんなに侮辱されて何も思わなかったのか」
「ふ、ふん、当たり前じゃありませんか、そんなこと……」
一瞬だけ言葉に詰まるレネ、何か思うことがあるのだろうか。
「魔王軍は既に止まりませんよ、アセルビデトももう終わりです。カミトもそのうちハイフレード様にやられることになるでしょう」
精一杯の抵抗ともいえる捨てセリフだな。
「ハハハハハ、その後はあなた達です! あの魔王軍の数相手にギルド冒険者の被害が出るのは間違いないでしょう! それにあなた方も無事で済むとは限りませんよ。私の提案を断ったあげく私達に楯突いたことを後悔するんですねグラス」
「やめろ、レネ! お前も役目に囚われずこっちに来るんだ!」
その時エルカが再び声をあげた。
「……う、うるさいですよ姉様、私は最後まで鑑定システムαの元父上の命令に従うまでです。キルティオ来なさい!」
「ハッ! レネお嬢様」
なんだ、突然壁から男が出現した。コルバルテの時もレネの側に仕えていた男だ。しかしレネとエルカが何の話をしているか過去を知らないからはっきり分からない。
「撤退しますよ。もうここに用はありません。後の事はハイフレード様達に任せましょ………」
「かしこまりました! 転移陣発動……レネお嬢様? これは! 聖魔法「痛みの分散」レジン達のためにそこまでしなくても……」
何だ突然レネが気絶した。彼女の身体を優しくキルティオが支える形になったが、これはどういう……。
「おい、待て! 逃げるのか」
「冒険者グラス、お嬢様は色んな物事を俯瞰してなされる。表では見えないところで、常に戦っておられるのだ」
「はっ、突然なんだよ、意味が分からないな」
「これ以上は私の口から語ることはできぬな。さらばだ」
キルティオはそう意味深なことを言い残すと、レネと共にその場を立ち去って行った。
「なんだったんだ一体」
「考える時間もなさそうだぞ」
エイマさんが一連のやり取りを聞き終わった機会に合わせて外の様子を指さす。指先の方向には凄まじい光景が広がっていた。
「ふははは、この都市は我が魔王軍幹部ヘイズ様のものだ!」
「な、これは」
アセルビデトの兵はこの短時間で気が付けば壊滅、更に塔周辺は魔王軍に包囲されていたのだった。
「どうするんだよ」
「やはり王国軍の不意打ちがかなり効いているようだな。性質状夜に力を発揮することから、予想だと深夜に来るとされていた魔王軍であるが、王国の策略でこの速い時間の襲撃を誘導された。しかも主力のカミトも足止めされているし、奴らも中々の策士であるな」
毎回ながら状況分析能力が軍を抜いているエイマさん。流石ギルドの支部長であると言える。
「見てください、あそこ」
レピティが指さす方向にいた人物、あの人の見た目をよく僕らは知っている。
「ゼーネシアさんだ!」
「皆さん行きますよ」
「おおおおおおお!」
あれギルドの皆もいるぞ、囚われていたんじゃなかったっけ。
「どうやらゼーネシアさんが解放したようですね」
「流石すぎる!」
兵がいない今なら牢は現在がら空きだ。この機会を予期して即行動に移す、エイマさんに並びゼーネシアさんの状況把握能力も頼りになりすぎる。
「みんな、僕達も行くよ」
その時一匹のワイバーンが飛んできた
「お前はジャスティス!」
現われたのはギルド入口の酒場の店主、一瞬誰だよと思ったが、この人ジャスティスって名前だったのか。
「よお皆元気にしてたか。ゼーネシアさん達にみんなの迎えを頼まれてここに来たというわけだ。っておいセイラなんで泣いているんだ」
「いやね、ジャスティスがこんなに役に立つときが来るなんて」
「魔法も、スタミナもないから酒場の店主しかやることなかったもんな」
「おいおいやめてくれよ、エイマまで、俺の特技はライダーだからな」
かなり仲がよさそうだ。
「よし、お前ら掴まってろよ。ゼーネシアさんの元まで連れてってやる」
その時空中に大量に霧散していた魔王軍眷属のコウモリが襲い掛かってきた。
「ギニャアアァァァ!」
「うわ!」
「ドオオオン!」
「ほら、すぐそうやってよそ見するんだから」
「ははは、すまんすまん、助かったぞ」
ジャスティスさんを助けたのはセイラさんだった。遠距離攻撃魔法は初めて見たけど中々の威力だな。
「みんなジャスティスの援護を頼めるか」
「エイマさん勿論です」
「よしじゃあ、援護は私たちに任せろ。ジャスティスは操縦に集中してくれよ」
「ああ分かった」
「うおおおおおおおお」
急降下するワイバーン、登りの時とはまた違ったスリルを感じる。
「中々魔法どころではありませんね」
「まあ、そこを何とかするしかないわけだな」
エイマさんはそう言うと片手で刀を振り回しだした。この状況でもかなり余裕そうに見える。そういえばエルカは……。
「……」
エルカは前回の反省を生かしてしっかりとワイバーンから落ちないようにしている。ただこの調子だと援護は難しそうだな。
「また眷属がきたぞ、今度は3体いるぞ」
「私に任せろ!」
エイマさんは足に魔法陣を張り巡らし固定、急降下しているワイバーンに乗りながら抜刀の構えを見せている。
「《乱れ切り》」
「シュババババ!」
「ギュアアアア」
エイマさんの剣撃によって、三体の眷属は一瞬にして塵となった。
「す、凄い」
「まだまだ油断できないぞ」
喜んだのも束の間、仲間がやられたのを感知して、次々と眷属がこちら目掛けて接近してきた。
「みんなで協力して倒すよ」
これは骨が折れる作業になりそうだ。
僕達は襲ってくる眷属を押しのけてゼーネシアさん達がいる地上に到着した。
「ふう、一時はどうなるかと思ったぜ、おいお前ら連れてきたぞ」
ジャスティスがギルドの皆に僕達が帰還したことを伝えてくれた。
「グラスさんとエイマ支部長たちが帰還したぞ!」
「うおおおおお」
「やれやれ、相変わらずうるさい奴らだな」
「皆無事で何よりね」
やっと僕たちは遠征部隊のみんなと合流することが出来た。見たところ負傷者は未だにいないようで、前戦ではゼーネシアさんが中心となり次々と魔王軍の眷属を倒しているようだ。
「早速だけど皆は後衛支援頼む、僕はゼーネシアさんがいる前戦に行ってくる」
「ご主人様お気付けてください」
「ちょっと、グラス君そんなに焦らなくても……あっもう行っちゃった」
「ハハハハ、グラスは一回決断したらもう止まらんぞセイラ」
「やれやれだな」
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