25.交錯Ⅱ
「いやあ、これは行き止まりではないか」
通路を抜けると、目の前にはただ空が広がっていた。かなり上層部まで来ていたようである。
「困りましたね。あれ、向こうに誰かいますよ。戦っているような」
ワイバーンが応戦しているところから考えてアセルビデトの兵士達に違いないが、一体誰と戦っているんだ。
兵士達と戦っている男はどうやら魔導士のようで空中を浮遊している。しかしあの風貌はどこかで見たことがあるような。
「イヤホッオオオオー!」
男が凄まじい速度で空中を動き回りながら叫ぶと僕の心当たりは確信に変わった。
「あいつはレジン! なんでこんなところに」
「レジンって誰だ」
エルカに続き他のみんなも誰だと言った表情だけど、それはそうだろう。ただ僕にとっては因縁の相手である。
「レジンは王国の選抜冒険者だ。レネ達のパーティメンバーにいた……その厄介な奴だよ」
レジンの奴は選抜冒険者時代からどこか狂っていると思っていた。追放前なので僕に危害を加えることは無かったが、やたら弱い立場の者を見下し痛ぶるのが趣味だったような……今思えば僕を追放した時の豹変ぶりはかなり腹立たしいものだった。
「王国ですって? なんでこんなところにいるの」
「セイラの問いも最もだが、アセルビデトの兵士達の異変は王国が絡んでいたのかもしれんな」
エイマさんの分析は確かに正しいかもしれない。あのレジンの事だからろくでもないことを仕掛けていたんだろう。
「見てください! 兵士たちが……」
「そろそろ、フィニッシュと行くか。雷魔法」
「ぐああああああ」
「な……」
なんとレジンはワイバーンに乗った兵士20組を一瞬で倒してしまった。
「あれ、グラスの奴発見! レネが言ってた通りだぜ」
こっちに向かってくるレジン、嫌な予感である。
「よう久しぶりだなグラス、まさかお前が生きてるなんて思わなかったよ。お仲間も随分増えたことで」
何だこいつ、人を裏切った後なのに随分と腹立たしい態度である。
「レジンお前は何でここに来たんだ」
「おいおい馴れ馴れしく選抜冒険者の頃みたく俺に質問をしてくるのやめてくれよグラス。正直俺からしたら鑑定レベルEだったお前とは格が違うんだよね。また追放された時みたく俺にボコされてみるか? あっやべえ思い出しちゃった、お前の騙されたと気づいたときのあの顔、あれは本当に傑作だったわ、ぎゃははははは!」
「何を!」
レジンの挑発に周囲の皆も嫌悪感を表す。
「おいグラス、こいつは私が仕留めてもいいのか」
「待て待てエルカ、ここではあまり暴れたくない」
「おおやる気か? いいぜ、まとめて片付けてやるよ」
「バチバチバチ」
レジンの周囲に雷鳴が纏わりつき緊張感が辺りに張り巡らされる。
「……ッ!」
その時突如レジンの背後に魔道服を来た男が現れた。
「うちの敷地で暴れるのはやめてもらえませんか」
「グハッ!」
目にも見えぬ速さで手刀を繰り出す男、レジンは気づく間もなく意識を失って僕の目の前で倒れた。
「お、お前は《カミト》か……」
エイマさんが震えている。《カミト》とは雲の都市アセルビデト最強の存在とされていると言っていたけどこの男が本人なのか。確かに身体から凄いオーラを感じる。
「ほう、私を知っている人物がいるとは、ただの無法者ではないようだな」
あれ、男のオーラが消えた。どうやら戦闘はしなくて済みそうだ。
「ついてこい、お前達を我が王宮に案内する」
「……っ!」
「ギュワアァァァ!」
男が倒れているレジンを抱えて外へ飛び降りようとすると、下から巨大なワイバーンが現れて、その背中に男が乗った。
「一先ずここから出よう」
皆も頷いてくれて、僕達はここからワイバーンに乗って脱出することに決めたのだった。
「しっかり捕まっていろよ」
「ギュワァァァァァァァァ!」
巨大なワイバーンは咆哮と共に上空へ急加速した。これは中々にスリリングな体験である。
「いやあああああああ!」
「おいセイラ、これくらいで叫ぶな、みっともないな」
「いやだって私、高いところ苦手なんだもの。エイマだって知ってるでしょう?」
「あれ、そうだったけ」
「とぼけないでよ! それよりエルカちゃんが大変なことになってない」
「うぎゃああああああああ」
セイラさんの指摘で後ろを振り向いた僕達、なんとエルカの足はワイバーンから離れて両手だけで身体を支えている状態になっていた。
「誰か助けてくれえええええ」
「おーいエルカ、あと少しの辛抱だから頑張れよー」
「無理無理無理! 落ちるって、落ちてしまうって」
その時ワイバーンが突如スピードを減速した。
「あっ……誰か助けてええええ!」
エルカの手がワイバーンから離れて落下しそうになる。
「おいおい勘弁してくれよな」
「おおグラス、助かったぞ」
「ご主人様、2人分はかなり重いです」
「すまん、急いで今からそっちに行く」
上空から落ちそうになったエルカを僕はレピティの浮遊バフに乗って助けることが出来た。ワイバーンは既に目的地に到着したようで、皆もすでに背中から降りている。
「到着したぞ、ここが我が雲の塔最上部であり、王宮であるクリープキャッスルだ」
塔の上にも、また小さな塔、正にそんな構図となっているこの建物。さらに今僕たちは地上からかなり離れた上空にいるため途方もない感覚である。
「はあ、はあ、はあ、流石にもう駄目かと思ったぞ……なんだこれは、みんなちょっとこっち来てくれ」
エルカが塔の下を指さすとみんなもその方向を見ることになる。
「これは凄い」
クリープキャッスルから見下ろすと、そこには壮大な都市が広がっていた。正に絶景ともいえる光景に言葉も出ないほど見とれてしまった。
「僕達はこんなところまで知らぬ間に来ていたのか」
「どうだ、クリープキャッスルからの眺めは、お前たちは試練を乗り越えたからこの光景を見るに値する」
「試練とは何のことだ」
「……」
エイマさんの問いに口を閉ざす男、手でこちらについてこいとだけ無言でサインを下した。
「じゃあ、みんな行くか」
「面白かった、続きが読みたい!」
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