18.契約
「グラス殿今回は本当にありがとうございました。我らの力だけでは絶対にあれは倒せませんでした。本当に感謝です」
「いえいえ、これもレヴィナルトの為ですので、そう言えばさっきの部隊は何なんですか」
「はい、あれは我がコルバルト魔法学園の成績トップの者たちを集めた魔道部隊です。少数精鋭ですので、彼らが軍事力を持たぬ我が国の護衛となっています」
うーん、それが軍事力っていうんじゃないかな。末恐ろしい建前というやつだ。表の情報を信じてはならないな。
「成程そう言う事だったのですね」
「そしたら報酬を支払いたいのでグラス殿だけ理事長室まで来ていただきたいです」
「分かりました」
「レネお嬢様、このキルティオしかと見届けました。冒険者グラスは黒ですね」
「ええ、間違いないです。動きますよ」
魔王軍幹部シャキラが凄まじいオーラを放ちましたがあれはおそらくはSSクラス神級魔術、ハイフレード様と同等クラスの魔力でしたわ。それに呼応するように一瞬だけグラスの周囲から凄まじい魔力を感じました。
「この感覚は、あの時を思い出しますね」
私たちがグラスを追い詰めていた時いきなり魔力が上がった事、そしてハイフレード様の攻撃を受けても生きていたこと、全ての謎が解けてきました。グラスの鑑定レベルは恐らくEクラスではありません。
「フフフ、想像以上ですね。楽しみになってきました」
「レネお嬢様、いつにもまして笑みがこぼれてますね」
「う、うるさいですよ、直ぐに先回りします」
「かしこまりました!」
グラスがここまで強いだなんて思いもしませんでした。絶対シュレッタ王国の選抜冒険者パーティに引き戻して、選抜冒険者パーティの父上からの信頼を復活させて見せます。
シャキラ討伐を果たした僕達はアルトさんの理事長室で、今回の報酬について話し合った。
「す、凄い、これ全部貰っていいんですか」
「勿論だよ。この報酬では足りないくらいだ」
金貨1000枚、これが有れば何でもできそうである。装備とかアイテムとかその他もろもろ、自分が背負っている周囲の期待を無視すれば、このままレピティ達とスローライフを送るのも悪くない。
まあ近頃の不穏な情勢を見る限り、自分の気が休まる時など来るとは思い難いが、今回のシャキラ討伐である程度は魔王軍の動きも鈍るに違いないだろうな。
「その者は牢屋に入れておけ」
「ちょっと待って下さい。その子をどうするんですかアルトさん」
しまった忘れていた。今回の出来事の元凶はミルティであった。彼女が出そうとした魔法陣によってシャキラが召喚された。つまりレヴィナルトにとってミルティは大罪人。このままでは彼女の立場が危ういな。
「当然その者は永久投獄に値する罪を背負っている。ただ今回の件の首謀者であると断定できた場合だが、まあほぼ状況証拠から確定済みだ」
「そうですか……おいミルティ!」
ぐちゃぐちゃになった髪を放置しながら俯いているミルティ、こっちを一瞬だけ見るも、直ぐに目をそらしていく。
「本当にそれでいいのか。何か言いたいことがあるんじゃないのか」
僕はあの占い水晶の中でミルティの心の中を少しだけ覗いた。「誰か助けて」そう叫ぶ悲しみの声を頼りに、この処遇をミルティが望むはずもないことを確信していたのである。
「……」
「ここで勇気を出さないと、もう後戻りはできないんだぞ」
「……私は」
ミルティの目に光が戻っていく。
「私はこの処遇を受け入れられません!」
ミルティの渾身の叫びが理事長室に響き渡っていた。
「な、なにを言うか。お前が召喚した魔法陣がシャキラを呼び込んだのだぞ。今更言い逃れなどさせてたまるか」
「私はシャキラに洗脳されていたんです。脅されて、魔法陣を発生する作戦を実行するようにも仕向けられた。でも必死に抵抗しました」
「仮にそうだとしても君が魔法陣を発生させたという事実は覆されまい」
「……そ、それは」
いや違う、あの場にいたもう1人の男、あいつも魔法陣を作ろうとしていた。その後肉体は消え去り着ていたローブだけが倉庫に残っていた。
もしかしたらデビルズゲート出現の魔法陣は術者の肉体を生贄にするのがコストなのかもしれない。つまり肉体が残っているミルティは術を扱いきれないかったか、途中で解除したともとれるといえる。
「ミルティは無実かもしれませ……」
「バタッ!」
「っ!」
何だ、こんな時にいきなり誰が入ってきたんだ。
「ミルティさんは無実ですよ」
白髪短髪でセージ特有の正装、見覚えがありすぎる見た目に僕は思わず目を見開いた。
「シャキラが召喚されたデビルズゲートの魔法陣、あれは肉体を媒介にしなくては発動しません。しかしミルティさんはこの通り無事です。これが何よりの証拠でしょうね」
「お、お前はレネ! いきなり何……」
「少し黙っててくれませんか、あなたの相手は後でしてあげます」
「な、なんだとお」
あれから随分と腹が立つ奴になったものだな。いったい何しに僕の前に現れたのか。
「レネ殿わざわざこんなところにまで遥々申し訳ない……ところでそれは本当なのですか」
「ええ、証拠もあります。キルティオあれを持ってきなさい」
「はっ」
「あっそれは!」
華奢でキザそうな騎士? が持ってきたのは僕が倉庫で見たミルティと一緒にいた男のローブであった。
「これの所持者はミルティ殿と同じ倉庫にいました。そして肉体が消え去ったためか、ローブだけが倉庫に落ちていたというわけです。そこの魔導士部隊の方達が発見してくれましたよ」
「本当なのか」
「はい、確かにそのローブは倉庫で確認致しました」
僕は証拠が本当であるとアルトさんに頷く。
「うむグラス殿迄……どうやらこれは事実であるといえそうだな」
なんだかいい流れになってきたぞ。レネの奴よくやってくれた。
「ならば減刑として、ミルティをレヴィナルトから追放とする」
「なっそんな仕打ちあるんですか?」
「うむ、レネ殿残念ながらミルティは多少なりとも犯人側に加担しているから無罪というわけにはいかないのだ」
「……」
ミルティの俯いた表情を見るに、レヴィナルト追放は相当つらい処遇だといえる。ならば
「なら僕がミルティを引き取ります」
「な、そんなグラス殿がそんなことをしなくても」
「いえ、自分は全然心配ありません。後はミルティがどう思うかですので」
ミルティの表情は驚きと疑心に溢れている。
「いっしょにこないか」
手を差し伸べると、その疑念は晴れたかのようにミルティは笑顔になったのであった。
「ありがとう」
ミルティと手を繋いだ瞬間、突如光が放たれた。
「こ、これはもしや精霊契約!?」
レネが驚いた表情でこちらを見る。
「ミルティ!?」
気が付くと目の前のミルティは消えていて、僕の持っている解魔石が更なる輝きを放ちだした。
グラスさん呪いを解除してくれてありがとう。
「これはどういうことだ」
「おそらくですがシャキラとの精霊契約解除されたことによりミルティは肉体の実態を失い元の精霊体へと帰ったに違いありません。精霊は契約主を変えることが出来る。さっきの握手によってミルティの新しい契約主がグラスさんになったのでしょうね」
そ、そんなことが……。
「ってことは、ミルティは僕の精霊になったということか」
レネは小さく頷く。まさかミルティが精霊だったなんて、しかも自分と契約してくれるなんて、こんな偶然があるんだな。
「ありがとうミルティ、この力は大切に使うよ」
事態を把握したアルトさんが最後に話し合いを閉めることになった。
「一先ずこれでグラス殿のクエストクリアとさせてもらいます。それでは皆さん今日は遥々このレヴィナルトの地へ訪れていただきありがとうございました」
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