42.高嶺の花
「しかし随分と人が集まっているな、レネ達の周囲には」
僕は今遠くからお茶会の様子を見ているが、自由時間とはいえかなりの人だかりができている場所があった。そうカロンシュタールとレネのいる場所である。
「随分と騒がしいですわね」
「これも一興というものですよ」
これも一興ってそんなに注目の的になりたいんですのこの方は、私はこんな視線にさらされるのは本当にごめんですわ。つくづく私とは思想が相いれない人物です。
「さてさてさて、美しい令嬢様方に囲まれたこの場所で、早速私たちの式典の話をしましょうか。まずドレスですがレネ様のものは私から用意させてもらいますよ。あなたの姿を見て私は真っ先にこんなドレスがいいというインスピレーションが生まれているのです。なのでよろしければ私にレネ様のドレスを用意させてもらってもよろしいでしょうか」
「べ、別に構いませんよ」
「それはよかったです」
なーにがそれはよかったですだ。そのさわやかな笑顔も本当に気持ち悪いんですけど。というかお前の創造力を掻き立てる欲求のために話を進めるなって話ですの。
「いいですね、式典の場所はどうしましょうか」
「私はできればお城から近い……」
「そうだ!」
「っ……!」
「私のお城の近くにいい庭園がありました。そこでレネお嬢様との式典を華やかにうちあげましょう妙案だと思いませんか?」
「え……ええ」
だから勝手に話を進めるんじゃありませんの。
「決まりですね。これは当日が楽しみだ」
「そうですね!」
はあ、結局カロンシュタール様のお城にまでいかなくてはならない話の流れではないですか。できればあまり遠くへは行きたくありませんのに。気を使うから慣れた場所が私は良いんですの。
それにしても本当に騒がしいですわね。私たちのお茶会はまるで見世物見たくなっているではありませんか。うん? あの二人はどこかで見たことがあるような。
レネは自分たちを見守っている令嬢の集団の中をのぞくと、その中に見覚えのある猫耳が少し見えている人物と、自分と同じような髪色をしたこちらもまた見覚えがあるような二人組がいることに気づいた。
「あの二人はもしかして……」
「お嬢様の集団の方を見ていてどうかいたしました?」
「いえいえ、別に何でもありませんわ」
はあ、私疲れているのかしら。こんな時にも手のかかるグラス一味のことを考えてしまうだなんて、ついに幻覚まで見てしまうのは頭がおかしくなってしまったとしか言えませんね。
「ご主人様、どうやらレネさんはカロンシュタール様の屋敷の近くで式典を上げるという情報を手に入れました」
「それはよくやった」
式典の場所の情報はやはり最重要であるからレピティが無事入手できたようで何よりである。
「思ったよりかなり順調そうだね」
「ええ、私はですが」
「私は?」
「うぎゃああああああ」
「どうした! その叫び声は」
「ちょっとエルカさんがほかのご令嬢様たちに絡まれてまして」
「ええ? もしかして喧嘩でも始めたのか?」
「いえ、そういうわけではないのですが、言葉そのままの意味で」
「つまりは」
「溺愛されてしまったようなのです」
「へ?」
「エーマさん、あなたすごくお肌が綺麗ですのね。触ってもいいかしら」
「やめろ、私はお前らのおもちゃではない」
どういうわけか令嬢たちが一目見ただけでも、エルカの容姿はかわいらしいものと判断されて、お気に入りになっていたようである。
レネのことを称賛していた令嬢たちのことであるから、実は姉であるエルカのこともどこか本能的に惹かれるものがあったのだと僕は推測するのだった。
「騒がしいですわね」
まずいレネの奴がエルカの悲鳴に気づいてこっちを認識し始めたぞ。
「おい二人ともそろそろ撤退しよう」
「了解です」
「あばばばば」
エルカが令嬢たちに圧迫されている……。
「ちょっと失礼しますね」
「あなた何者?」
「エーマさんの友達のレピイですわ」
「きゃあああああ」
レピティは無理やり令嬢たちからエルカを引きはがすと、凄まじい速さでその場を離れていった。
「いったい何があったのですの」
周囲の人々は一瞬の出来事で何が起きたか理解できずに途方に暮れるのだった。
「はあ、はあ、はあ、散々な目にあった」
「まさかエルカさんがあそこまで人気だとは私も驚きましたよ」
「あの令嬢たち、レネにエルカが似た雰囲気だから惹かれるものがあったんじゃないかなと思った」
「なんで私だけ」
「令嬢ですから、レネ様の身分の高さを十分に理解していたのでしょうね。自分たちには高嶺の花だと。ただエルカさんにはそういった身分が確認できなかったため、その……すごく手軽に接することができると思ったのではないでしょうか」
「私はそんな軽い扱いをされる人物ではないわ! それに私だって王女様の身分だぞ!」
「いやいや、今はただの冒険者だろ」
「そ、そうだな」
エルカのテンションの高低ぶりが凄いなとこの時感じたのであった。
「さて、情報収集はかなり成功したみたいだね」
「そうですね。カロンシュタール様のお屋敷でレネ様は式典を上げるようです」
「ふむ、しかしそれが分かったところでどうするんだグラス」
「乗り込むんだよ」
「マジで?」




