16.降臨
学園の裏路地を通っていく黒髪、赤目の子、気が付けば古びた倉庫裏の中にまで入っていったので、ドアの隙間から覗いてみるとフードをかぶった男が現れた。
「おいミルティ、進捗はどうだ」
「あ、あの……今のところ順調です、あと少しで実行にまで移せます」
「頼むぞ、俺らの首が掛かってるんだ」
ミルティって名前なのか。しかしなんの話をしているのだろう。進捗? 何か2人で計画を立てているのか。
「いいか、約束の時間にまたここに来るんだ、じゃないと分かってるよな?」
「は、はい」
ミルティの表情は何処が薄暗く感じた。声のトーンもかなり小さいし、普段の彼女を知らない僕でも明らかに男との会話で怯えているように見えた。
占い創生論の時に水晶から見えたあの助けを呼ぶ声、あれがミルティのものだったとしたらこの件はかなり闇が深いのかもしれない。
「行くしかないな」
ミルティは男と別れると倉庫から出てきた。僕は男が居なくなったところを見計らってミルティに接近した。
「何をしていたんだ」
「……っ! いいえ、あのごめんなさい!」
「ちょっまって」
一目散に逃げ去っていくミルティ、凄まじい足の速さで僕から遠ざかっていき一瞬で見失ってしまった。
「まいったなあ」
ひとまず今日の所は深追いはやめておくとしよう。明日からまたミルティに少しずつ問いかけてみるしかないかな。
というかエルカとレピティを待たせ過ぎた気がする、直ぐに戻らないとな。
「あ、帰って来た、グラスお前何をやっていたんだ。かなり待ったんだぞ」
「悪い悪いちょっとな」
「じゃあ次はどうしますか」
「そうだなあ、これとかどうだ」
コルバルテ魔法学園での生活は想像以上に興味深いものとなっていた。魔法の概念や原理を扱った授業の数々、魔術を分析が当然ながら好きな僕にとって夢のような場所であった。
しかし学生達に交じって、こんな生活をしていて大丈夫なのだろうか、僕の目的は魔王軍幹部シャキラを倒すことなのだが、襲来の気配も全くなく、現在のレヴィナルトは平和そのものであるといえる。まるで嵐の前の静けさのようだ。
真夜中の学生寮、辺りは静かであるが、この日は何かが違っていた。
「レネお嬢様、こんな夜にどうなされましたか」
「しっ、外で異様な魔力を感知しました。何か起きるかもしれませんからここはいったん退避しましょう」
「かしこまりました」
この魔力……遂に動き出しそうですね。お手並み拝見と行かせてもらいますよ。
「グラス起きろ、凄まじい魔力反応を感知したぞ、あの占いの授業を受けていた場所付近だ。これはシャキラが関連してるかもしれん」
「んんん……ってそれは本当か」
魔力感知スキルは聖女の専売特許ともいえる特性だ。エルカの魔力感知の腕に並ぶものはそういないだろうな。
「そしたら僕は現場に向かうから、レピティとエルカはアルトさんへ報告を頼んだぞ」
2人は頷くと即座に理事長室へ向かった。こんなに早く事態が動き出すなんて、本当束の間の学園生活だったな。
「僕も行くか」
コルバルテ倉庫前で、深夜にいるはずもない2人組が怪しい動きを見せている。
「よく来たミルティ、始めるぞ」
「ええ勿論」
「汝冥界の門開く者なり、冥界の扉開くとき、我が供物の魂を捧げる、今封印の鍵をここに開示する」
古びた倉庫の上空に巨大な魔法陣が刻まれていく。空はドス黒い闇に包まれていき、雷鳴を帯びていた。そんな場面を現場に向かう僕は目撃することになる。
「これはまずいな、急がないと」
「ふう、よくやったこれで俺たちは救われる……バタッ」
「い、いやあああああああああ!」
叫び声! この声はミルティだ、今助けに行く。
「大丈夫か」
「……」
倉庫に駆け付けるとミルティが倒れていた。問いかけてみるも返事をしないミルティ、意識を失っているようだが。
「倉庫の中で何があったんだ」
倉庫の中を覗くと、ミルティと以前話していた男の衣服だけが落ちていた、本人は消えてしまったのか。
「これは一体どういう状況だよ」
「ゴゴゴゴゴゴ」
「っ!」
その時凄い轟音が辺りに鳴り響いた。音は上空から聞こえるようだが。
「な、なんだあれ」
コルバルテ魔法学園上空に出現した巨大な門、凄まじい轟音と共に扉が開こうとしているようだが、中から現れたあれは一体……。
「ハハハハハハ、よくやったぞ下僕ども。デビルズゲートからここに転移してやったわ。魔王軍幹部闇の欠片の1人シャキラここに参上!」
遂に魔王軍幹部シャキラが中央都市レヴィナルトに出現したのであった。
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