2.王国書庫
「何しに来たんですか姉さま、それとおなじみの一行様もお見えのようで」
シュレッタ王国王の間に向かうと迎えてきたレネが普段通り毒を吐いてきた。相変わらずの腹立たしさである。
「エルカがお前に話があるってよ」
「……」
かなり緊張しているエルカは黙り込んでいる。久しぶりに王国の人として活動したいというのだから、無理もないであろう。ということで僕は背中を押すということで僕の口から事情を説明した。
「お姉さまが王国で活動を?」
おっこれは結構な反応である。意外とレネにとっては待望だった展開だったのかもしれない。
「ふ、ふん、そんなことグラスの口からでは信用できませんね。だって散々グラスのパーティーで好き勝手してたんですもの。今更そんなことを言われても信用できませんわ」
「本当だ」
「え? なんです?」
「レネ、私をお前のところで働かせてくれ」
「ガタっ」
レネはまさかのエルカの返答に椅子から転げ落ちそうになった。
「なっ? えっ? 本当に?」
「いったい何があったのか、確変でも起こったんですかね」
レネから見てその言葉は一番エルカに似合わない言葉であると思っていたようだ。
「そのまさかみたいだな」
「確変って言い方もあれだが、グラスが自分と向き合っているのを見ていて、私もしっかりと本心を告げたいと思うようになったのだ。私も王国の身、私情でレネにばかり厄介ごとを押し付けているような罪悪感を感じるようになったのだ」
「ふ、ふーん余計なお世話ですし、これは私が好きでやっていることですのよ。別に今更姉様の手を借りる必要なんて……うっ」
レネはうつむいたエルカの表情を見て顔が引きつる。
「なんですのよその情けない表情は!」
「私には何も言い返す言葉がないのだ」
「なんですって! そんな弱音をつらつらと今更……はあ……わかりましたよ。姉様には私の側で一時的に業務を手伝ってもらいます。これで文句はありませんよね」
「レネ……本当にありがとう」
エルカの表情はこの時とてもうれしそうであった。
「はあ、なんでこんな急な展開になったことでしょう。で? 姉様の件は分かりましたが、あなた達は何しにここに来たんですか? いちゃつきにでも来たんですか。いつもいつも頭の浮かれたお気楽セットみたいに一緒にいますけど」
「え? 俺たちの事?」
「え? 私はご主人様のお気楽セット!?」
僕は突然自分たちのことを指摘されてレピティと顔を見合わす。
「そうですよ、あなた達は別に来る必要なかったですよね。姉さまの保護者のつもりですか」
「いやいやいや、それくらいわかってるよ。僕たちも別のようがあってきたんだ。精霊について王国の書庫で調べたいことがあったんだ。使用許可をもらえないか」
「なんだ、そんなことですの。別に好きに使うといいですわ」
「ありがとう!」
「やりましたねご主人様」
「ああ、もちろんだぜ!」
「ふん、おめでたい連中ですこと」
レネはいつも通り一緒になって喜んでいるレピティと僕を見て、なんだか少し悔しそうにそうつぶやくのだった。
「ここが王国の書籍」
大量の書が立ち並んでいて、魔法学園のものとはまた違った質を感じる。
「ご主人様、精霊に関するものはあちらにあるそうです」
「ふんふん、ふんふん、じゃあ早速行こうか」
「はい!」
「ふーむ、しかしどうやって探したものか」
「何かその精霊の特徴とかは覚えていないのですか」
「うーん、確か干渉の力を使っていたような……」
「干渉ですか……」
「これじゃないですか」
「へ?」
「おっありがとう! これはなんだ原初の精霊の書? というか君は……うわあああああ!」
「ちょっとどうしたんですか、まるで恐ろしいものを見たかのような表情は」
「ミルティ! どうしたんだいきなりでてきて」
気づくと勝手ミルティが出てきていた。
「すいません。呼ばれていないのに突然出てきてしましました。興味深い内容だったのでつい」
「興味深い内容?」
「ええ、実は私もあれからあの精霊のことが気になっていました。ホルテラ様も精霊都市で聞いたこともない精霊、相当すごい存在なのではないかと、思っていたのです」
「流石王国の書庫だな。古の書庫もそろえているとは」
「ええ、精霊に関しては精霊都市の方が情報はありますが、こういった意外な観点からも見つけることができるのかもしれませんね」
「ほーんそれで原初の精霊という書があったんだけど知っているか」
「聞いたことがありませんね」
「ほーん、干渉能力があるあたり、それっぽいんだが、やっぱり精霊の類の存在なのかもね」
それから僕は原初の精霊の書を読んだ。曰く干渉の能力であらゆるものに干渉することができるらしい。
「うーん、なんだかすごい書だけどこれはおとぎ話な気がする。やっていることがぶっ飛んでいるからね。書も創作物みたいだし」
「でもやっていることはご主人様と変わりませんよね、外部に干渉して意のままにあやつるとか」
「いやいや、意のままに操れるなんて僕にもできないよ」
「そうでしたか」
僕が原初の精霊と同じことができるわけないし、そもそもそんなのは架空の存在に違いないだろう。
「うーん、書庫で得られた手がかりは確信足りえるものじゃなかったな。これからどうするか」
「そしたらセレネティリア様を訪ねてみたらどうですか」
「それ妙案!」
僕はミルティのひらめきを誉めつつも、明日精霊都市を訪れてみることに決めたのである。




