48.殲滅
「ご主人様! いつの話をしているのですか」
「いや、いつの事だったっけ? なんか遠い昔話だった気がするけど、つい潜在的に言ってしまった」
「おいグラス! レネはとっくの昔に改心してるぞ。ボケているのか」
「いや~すまんすまん……本当に反射的に言ってしまったんだよ」
「あなた達は本当に……」
レネの目に涙がよぎる。
「みんなごめん! 遅くなってしまった!」
連合軍最大の危機を前に遂に術析師グラスが駆け付けるのだった。
「グラスさん! よく来てくれました」
「おい、無理するなゼーネシア、それにしてもよく来てくれたなグラス! 待っていたぞ!」
魔力を使い切って倒れそうなゼーネシアさんをエイマさんが抱えている。かなり大変な状況だったんだろうということが分かる。
「ゼーネシアさん……本当に遅れてきてしまってすいません。そしてエイマさんもよくやってくれました」
2人は安堵の表情で頷くのだった。
「ふん、やっと来たか。遅すぎて危うく破滅するところだったぞ」
「セルファシアさんは随分とボロボロのようですね。本当に頑張ってくれたんですね」
「ふんこの勇者である私にその口の利き方……やはりお前は私にとって苦手な存在だな」
「安心してください、僕も同じ気持ちですよ」
勇者との再会では、変わらぬ軽口を叩き合うことになったのだった。
「なあ、レピティ、グラスと勇者は毎回こんなひねくれた会話をすることになるのか……」
「それはもう、相性の問題ですから仕方のない事ですよ……」
困った表情でささやくエルカにレピティは苦笑いをする。
「さて、私はそろそろ力を使い果たすから後は任せたぞ」
「バタっ」
「えええええっ!?」
なんと僕に軽口を叩いた後直ぐにセルファシアさんは力尽きて倒れてしまうのだった。
「師匠! だから無理をし過ぎないようにと」
「セルファシアさんはかなり無理をしていたんですね」
「まあ、そうですね……それより師匠が倒れたという事は魔物達の静止が一気に……」
「ぎゅわああああああああ!」
会話の最中も魔法陣により無数の魔物を対処していた勇者セルファシアさんであるが、彼が倒れたことによって一斉に魔物が動き出す。
「レピティ、エルカ! ケガしてる皆を頼む!」
「おう、勿論だ!」
「了解です!」
僕は大量の魔物と正面から対峙するのだった。
「グラスの奴あいつ本気みたいだぞ」
「ええ、あの男ならやってくれますよ」
「レネさんとエイマは随分とグラスさんの事を信頼するようになったのですね。まあ私も……正直これまでの彼の活躍を見てきて全く不安は感じませんわ……」
連合軍を壊滅までに追い込んだ魔物の大群に対峙してもこの場に不安を感じるものは一人もいなかった。それくらい今やグラスは凄まじい信頼を得ているのだった。
「さあて、始めるか! 大群掃除を……出力はいきなり60%からいかせてもらうよ! 来てミルティ!」
「グラスさんお呼びしていただきありがとうございます! 状況は把握していますよ。これはかつてない大きな局面に立たされていると言えますね」
「ああ、そうだろ? かつてないくらいの魔物の大群……いったい何体いるんだ。数が多すぎて真っ黒にしか見えないや。なんか奥にもすごいでかいのがいるし」
「まあ、問題ないですよね。私達、魔王ブォネエセテラと対峙して出力を上げてから、凄く力がみなぎっている感じがするんですもん」
「そうでしょ? 僕もずっと感じてたんだよね。この魔力の高まりはきっと放出すれば凄いことになるよ」
「楽しみですね」
「ああ」
危機的状況なのに楽しみという単語は凄く奇妙なものではないだろうか。でもしかし本当に心の中では楽しみなのだ。今の力を直接ぶつけられるものなんてそうそうない。
「これで行くよミルティ!」
「かしこまりましたグラスさん!」
魔王ブォネエセテラの進化形態や勇者セルファシアとシテリィセリアを倒した必殺の精霊術を僕達は出し惜しみなく、いきなり魔物の大群に向けて放つのであった。今回分析は魔物へはせず、これらの強敵たちと戦ったときのイメージをそのままミルティへと出力を促した。
「《精霊術・ラグナロク》」
その時辺りを光が纏った。不思議と音は全く聞こえず、時間静止したような感覚に陥る。
「あれ、出力60%で放ったはずなんだけど、なんだか想像以上に威力が膨れ上がっている気がするんだけど、これはどういう事なんだろうか」
そんなことを話していても、誰からも応答がない。
「グラス・グラィシス、決まりだその力君は領域を超えた。いずれ私の元へ案内しよう。その前にまだ一つ最後の試練があるようだがな」
何だろうこの声は、全く知らない人である。まあ深く考えるのはやめよう。今僕は魔物の大群を精霊術で消滅させているのである。
「というか正確には消滅させた……だな」
ふと意識を取り戻すと、目の前にいた大量の魔物は全て消滅していたのであった。
「出力は……70%……もう少しで能力を完全に使いこなせるようになるな。まあ、また限界を超えることができたかも」
「グラスさんやりましたね! 予想通りでした」
「ああ、ありがとうミルティ、またよろしくね!」
「ええ、本当に毎回呼び出されるたびにいい刺激を貰えて、こちらも感謝ですよグラスさん!」
そう言うとまた片目を閉じてミルティは消えていくのだった。
「面白かった、続きが読みたい!」
などなど思った方がいましたら下の☆☆☆☆☆から作品への応援をお願いします。
ブックマークも頂けたら幸いです。




