36.躍動
連なった岩が綺麗に城の形をかたどっている。一瞬でこの光景を作ったのだと思うと魔王はかなりすごいなと思った。
しかし見張りも何もない辺り相当自信があるのだろうか。それに大規模な戦闘を宣言していたがどうやって軍勢をそろえるのかもさっぱりである。
「おい、エルカ！ 感知はどうだ」
「うーん……ちょっと私には今の状況がどうなっているかさっぱりだ。瘴気のようなもやがかかっていてよく把握できないんだ」
「そうか……」
エルカでも感知できないとなると、その瘴気というのは相当濃いのであろう。それに魔王はかなり護身能力に長けていると言えるな。
「私は当然ながらパスを遮断しているから何にも見えないが？」
「いやプレセネリテには聞いてない」
「……」
終始無表情でいきなり話に混ざってくるこの小さな魔王は何だか一緒にいると調子が狂う気がする。
「とにかく入ってみよう！」
魔王の城に突入した僕達、中は如何にも即席で作ったと言えるような、空洞があるだけであった。
「中に入っても相変わらず何もないな……」
「これは上に来いという事なのでしょうか、とにかく階層だけは多そうですが」
「そうみたいだね、なんかもっとこう一瞬でワープできるようなアイテムが欲しいものだな」
「あそこを見てください、本体魔王とリンクした時、記憶を断片的に垣間見たのですが、あそこのくぼみが軌道スイッチになっていた気がします」
「くぼみ？」
僕はプレセネリテに言われた通りくぼみに触れるとしたから浮遊する床が現れた。
「本当だこれは凄いな、皆乗ってみるよ」
リンクが外れたとは言え、魔王とリンクしていたころのプレセネリテ記憶はかなり使えるものである。プレセネリテを連れていて本当によかったと僕は感じた。
「なんだこれは」
浮遊する床を上り頂上まで来た僕達、魔王の座とも思われる巨大な椅子があったがそこには魔王ブォネエセテラの姿はなかった。
「おい、どういう事なんだよ誰もいないぞ」
僕はプレセネリテにこの状況を問いただす。
「どうやら本体は更に拠点を変えたようです。ここがお気に召さなかったようですね」
「なんだそれは随分と気まぐれなことだな」
「おいグラス！ 巨大な魔力反応を玉座から感じるぞ。これは危険かもしれん」
「魔力反応？ それはどういう……」
「ゴゴゴゴゴゴゴ……」
その時玉座が動き出すとその奥から洞窟が現れた。
「こんなところにダンジョンが！？」
「どうやら私達は誘導されているようですね」
「これは恐らく本体が作り出したダンジョンだな。接近したものが現れた時に起動するように出来ているらしい」
「よしっそれじゃあ入ってみよう」
僕達は魔王本体ブォネエセテラが出現させたダンジョンに突入することに決めるのだった。
「ここは中々難しいですね：
数々のダンジョンを経験してきた僕だが、今回入ったダンジョンはかなり異質なことに気づく。
まず魔物がいない。通常ならダンジョンに入るたびにたくさんの魔物が出現するためかなり手間がかかるのだが、今回のダンジョンは一匹たりとも出現しない。
もう一つは常に肌に張り付くような、この禍々しい魔力が空中に浮遊している点である。
長時間居続けると体調が悪くなりそうだ。
「グラス……私ここは苦手だ。聖魔法がかき消されそうなほど、正反対の強い禍々しい魔力が漂っている」
「ま、まあ魔王が作ったダンジョンだし、やっぱりそう楽にはいかないよな」
あまり時間はかけてられないな。
「なあ、プレセネリテ……ここはどういった場所か分かるか？」
「うーん、ちょっとこれは分からないかな。只パスが切れる直前に準備を整えるとか言っていたような」
準備か……拠点としていたこの場所にはこれまでのところ何もなかった、あったとすればやっぱりこの魔物が全く出てこないダンジョンなわけだが。
「やっぱりこの場所に何かあるとしか考えられませんね」
「そうだね」
そういえば、さっきから光っている玉が至る所にあるのだがこれは一体何なのだろうか。
「なあ、エルカこの球を聖女の感知魔法で調べてくれないか」
「お、おお分かった」
僕は周囲に散らばる球が怪しいと思いエルカに感知を頼んだ。何か嫌な予感がする。
「どうだ？ 何か分かったか」
「ぐ、グラス……この玉の中に魔物がいるぞ」
「な、なんだって？」
このダンジョンに魔物がいないのはこの球の中に入っていたのか。
「どうしますかご主人様」
「今すぐこの球を全て破壊しよう！」
「分かりました」
魔王が準備と言っていた中でこの量の魔物が入っている大量の球、明らかにこの状況は不味い気がする。
「あんまりやったことないけど、フロア全体に分析を掛けるから、皆は僕の側にいてくれ！」
「分かりました」
僕は魔力を解放して、大規模な分析を発動しようとする。
「駄目だよ」
「は？」
「そんなことはしてはいけない」
「何を言っているんだ？」
その時僕の魔力を見て突如プレセネリテが動き出し、手を広げて僕の能力発動を拒んできた。やっぱりこいつは魔王本体の味方なのではという疑念がこの時僕の頭をよぎったのだった。
「おいグラスあいつやっぱり！」
「ああ、魔王を名乗る奴なんて使用するんじゃなかった」
「どいてくださいプレセネリテさん、ご主人様の邪魔をしてはいけません」
「嫌だ、この者たちからは私と同じ性質を感じる。破壊はさせない！」
その時プレセネリテは光を放つと、周囲の球も同時に光を放つことになったのであった。
「面白かった、続きが読みたい！」
などなど思った方がいましたら下の☆☆☆☆☆から作品への応援をお願いします。
ブックマークも頂けたら幸いです。
