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29.勇者の目的

「はあ、はあ、はあ、終わった……今までこんなに出力を上げたのは初めてだった」


「グラスさん!」


「ミルティ! 実態がある……という事は」


「どうやら解除されたようです。ひずみが」


「やっと解除されたのか、良かった! これでセレネティリア様のお願いを聞くことができたぞ」


「ご主人様―!」


「レピティ達も、よく来てくれたね」


「ゼーネシアさんの元にホルテラ様が戻ったようなのでした。まさかとは思い来てみたらやっぱり……流石です」


「やっぱりグラスは出来る奴だ。もう私からはいうことがないぞ」


「ありがとう!」


 この反応、エルカもかなり成長しているのだと感じさせられる。


「そういえば、ゼーネシアさんは」


 ふと周囲を見渡すとゼーネシアさんは倒れているセルファシアさんの元にいた。


「ううう……ゼーネか……無様な私の姿を眺めに来たか」


「何を言っているのですか? 師匠、あなたは少し反省をしてください。あまりに情報を包み隠し過ぎています」


「ふん、多くは語らない……それが勇者というものだ」


「またそんなことを言って……」


 2人の元に僕達も近づいていく。


「グラスさん……本当に無事でよかったです。そして師匠の愚行を私からお詫びします」


「そんな……ゼーネシアさんが詫びることで話ありませんよ」


「うっ……そうだぞゼーネ……こんな奴に詫びる必要なんてない……」


 この勇者は倒れてるのにまだそんなことが言えるのか。


「いい加減にしてくださいよ師匠!」


「なっ……何をするゼーネ……」


 次の瞬間ゼーネシアさんが満身創痍なセルファシアさんの胸倉をつかんだ。


 ゼーネシアさんが感情的になるところは初めてかもしれない。


「そうやっていつも私以外の人を見下す発言をして! 肝心な情報はいつも自分の頭に入れておくだけ、それでどれだけの人があなたから離れていくと思っていくんですか」


「ゼーネ……はなせ」


「はなしません! 私はずっと師匠の事を心配しているんです。それに数十年前の魔王戦の時だって、私に何も言わないで封印の術式を使って魔王と相打ったじゃないですか!」


「なんだ……時固定の術式に関しては私も悪いことをしたなと思っているよ。お前に魔王を倒すという辛い使命を背負わせてしまった」


「違います!」


「なっ……」


「私が怒っているのは時固定の術式が私に組まれたことではなく、師匠が私に何の相談もせずに勝手に話を進めて、訳の分からないままま魔王と一緒に封印されたことです! 封印が解除されれば復活することすら私には分からなかった……本当に師匠がいなくなって私は辛かったんですよ!」


「……」


 僕は最初に時固定の術式について聞いた時は勇者はゼーネシアさんになんて使命を背負わせるのだろうと気の毒に感じていたが、そんなことよりも師匠であるセルファシアさんの心配をする、目の前のゼーネシアさんを見て、彼女の師匠に対する思い入れは本物であるのだと強くこの時感じた。


「師匠……そろそろ隠すのはやめましょうよ。勇者パーティーを作った理由、恐らく何らかの危険を察知してみんなを守るために動いているんでしょう。私にも隠して……一人でなんでも進めないでください」


「ゼーネシアさん、そうなんですか」


「ええ、グラスさん、曖昧だったんですが、今回の師匠の立ち回りでなんとなく分かりました。師匠は私達に隠して何らかの脅威に備えているに違いありません」


「そうなんですね……そしたら僕からも是非言って欲しいです。そんな危機が迫っているなら、僕が早めに潰しておきたい」


「……やれやれべらべらと勝手なことを」


「師匠まだ分からないんですか! あなたはグラスさんに負けたんです。今更上から目線で動向を言える立場ではありませんよ」


「……」

 

 僕はふてくされるセルファシアさんを睨みつける。


「ふん、この勇者である私がここまで動揺させられるとは、私を実力でねじ伏せるそこのメガネと言い、ここまで師である私に感情をそのままぶつけてくる弟子といい、本当にどこまでも規格外な奴らだ」


 セルファシアさんは満身創痍の身体を起こし立ち上がる。


「いいだろう、教えてやろう」


「師匠!」


「っと言いたいところなんだが、私の計画は既にさっき失敗に終わった。もう取り返しがつかないけど、つまり今更教えてももう止めようもない事態にはなってきていてな、いや私もまさか私にこんなに立てついてこんな事態になるとは思わなかったよ」


「それはどういう」


「私の目的は魔王再復活の阻止、そしてひずみが壊れた今、再び魔王再復活は加速することになるだろう」


「な、なんだってええ!」




 


「そんな……そんな重要なこと何で早く言わなかったんですか」


「貴様らは勇者ではない、魔王を倒すなんて使命を背負う必要はないからだ」


「それでも魔王が復活したら僕たちの日常が壊れます。倒さざる得ない状況なんですよ」


「だったら、私の邪魔をしなければ良かったんだよ」


「だから先に行ってくれれば邪魔なんてしなかったのに」


「私もまさかシテリィセリアが破壊されるなんて思わなかった。こんな事態も予測不可能だよ」


「ホルテラ様! 来てください」


 そうかひずみがないからホルテラ様もここに来れるようになったのか。


「師匠、ホルテラ様の他にも契約精霊がいるなんて初めて知りましたよ。シテリィセリアとは一体どういった精霊なのですか」


「私もそれを知りたいぞセルファシア、シテリィセリアなど妖精都市にも存在したことは恐らくないと思われる。明らかに異形の存在だ」


「それは私も驚きの情報だぞホルテラ、シテリィセリアの事を妖精都市の情報をたくさん持っているお前が知らないなんてことがあるのか、アイツは復活した私の前にいきなり現れて今回の計画の提案をしてくれたんだ」



「どうやらそのシテリィセリアという精霊はどこか異形な未知なる存在と言えるのかもしれませんね」


 一同はシテリィセリアの謎の存在に得体の知れなさを感じることになった。


「一旦この話は保留と行きましょう。それにどうやら私達は互いの認識のずれによってとんでもない事態を招いてしまったかもしれませんね」


「状況は更に悪化しているぞ。私がこの空間に来て奪おうとしていた魔王のコアがシセレッサの奴に出し抜かて盗まれてしまった。あいつは最初から全て計算済みだったのかもな」


「それじゃあ、もしかしてあと少しで……」


「そうだね、もうじき魔王が復活するかもしれない」


「一先ずシセレッサを止めに行きましょう」



「面白かった、続きが読みたい!」


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