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第一話 出会い

俺、三ツ葉碧斗(みつばあおと)は、いたって普通の…と言いたかった新高校生。

成績は微妙で環境的にあまり良いとは言えない高校に進学することとなった。

また、積極的に他人に話しかけることができず友達は片手で数える程度しかできず、外見も微妙。

今まで色々な美しい異性に好意を寄せてきたが、自らアタックできず、またアタックしてくる異性もおらず、彼女いない歴=年齢という圧倒的負け組と化した。

癒しと言えば、決して自分を嫌いになったりはしないアニメとアニメキャラだけだ。


アニメばかり観ていた俺は、高校に入ればたくさんの友達、そして彼女に恵まれる…。そう思っていた。

しかしあいにくそんなことはなく、話しかけてくるのはたまたま自分の周りの席になった男だけだった。

話しかけてくる女子生徒などおらず、友達も結局片手で数える程度にとどまった。


しかし、そんな者だからこその長所もあった。

それは、他人から嫌われたくないからこその他人への優しさ。

とにかく周りを見て、何かあれば、解決の為に力を注いだ。

落とし物を拾ったり、他人の話をどんな内容であれちゃんと聴いたり…など。

こういう者、一定数いるのではないだろうか。


何事もなく数日、1週間と時が過ぎていった。

結局、これまでと変わらず、ただ細々と生活を送るだけ…。

そう思っていた。



そんなある日の放課後、部活もなく、さっさと帰ろうとしたその時、一人の女子が急に声を掛けてきた。

「あー、三ツ葉君、だっけ?」

「そうだけど、どうかしました?…えっと…椎名さん、だっけ?」

相手は、椎名礼(しいなあや)。複数の女子とつるんで談笑していることが多く、積極的に色々な人と話しており、多分俺とは対極な存在だ。


しかも、理想的な美人、もといかわいい外見の子で、理想的な大きすぎず小さすぎない胸、そしてすべてを包み込むかのような優しい性格の持ち主。

クラスで、いや学年で一番というレベルの、理想的な女子だ。


「いやー、ちょっと、いいかな?」


そう言われて流されるままについて行くと、到着先は誰も使っていない空き教室。

放課後の空き教室に、男女が二人。ラブコメだと、キャッキャウフフが見られる場面だ。


流石にそんなことはないだろうと思い、何か失礼な事でもしたか?と過去を振り返ろうとした。

その時、急に彼女の手が俺の手に触れる。


「あの、椎名さん?」

驚きのあまり手を振り解こうとしてしまったが、ずっと文化部の者にはスポーツ部をやってきた者の力強い握りを振り解くことなど出来るはずもなかった。


そして流されるまま手を動かされると、その手はまさかの所へ触れた。

服の上からでもその育ちの良さが分かる、非常に柔らかくて、なんとなく懐かしさも溢れる感触。

…胸だった。

「え、ちょっと何を…むぐっ」

「大声出さないで」

流石に驚き声を上げたが、即片手で口を塞がれる。


インターネットで見たことがある。

自ら体を売って、その後「私は買われた」と名状し難い被害のようなものを告発する、悪質な行動を。

一瞬それではないかと本気で思ってしまったが、

「…そんなに怯えないで。別に変なことしようって魂胆じゃないわよ」

「いや、やっていることが既に変なんですが、それは」


しばらく触らされ続け、解放された頃には既に5時。実に1時間は触らされていたことになる。

色々な感情が渦巻いて悶々とする中、椎名が、ふと小さく消え入るような声で話しかける。

「ど、どうだった…?感触…」

その声は明らかに恥ずかしさの紛れたものだった。また、アニメでよくあるラブコメの主人公のように無粋なマネをすることもできず、流石にここで「え?何だって?」だとか、「な、何が…?」みたいな発言は出来なかった。


「どう答えたら良いかあまり分からないから、素直に答えることにします。…すごく良かったです。ずっと触っていたい、揉んでいたい…」

「へ、変態か!…嬉しいけど」

「変態って…。急に胸を触らせて来る人がそれを言うか。そっくりそのままお返しします」


そして、その言葉を最後に椎名はその場を後にしようとした。

俺は、どうしても訊いておきたいことが一つあった。

椎名が教室の扉を開けようとしたところで、訊いておきたかった質問を投げかけた。

「あ、あの、椎名さん。どうして俺にこんなことを…?」

そう、何故冴えない俺に、こんなマネをしたのかだ。


俺はイケメンではなく、筋肉も大してない。更に言えば背が低く体が全体的に小さい。男らしさに欠ける男だ。

その上、イケメンは他にいるし、男らしい筋肉のついた男も他にいる。男らしい男が他にもいる。その中、何故選ばれたのは俺だったのか。


有名な回文でも「世の中ね顔かお金なのよ」とあるように、非常に大事な要素である顔が抜けており、また金銭的にも普通の家庭であり、顔もお金もとても美人というかかわいい子には明らかに釣り合わない存在だ。


しばらくの間があって、やっと返答がきた。


「だって、とっても優しく、性格が良いじゃない。外見とか、お金とかも大事な要素だけれど、やっぱり自分に合った性格じゃないと、長続きしないでしょ?…私はね、本気の恋愛をしてみたいんだ…」


そこから再び扉の前で立ち止まった状態が続き、気まずい沈黙が続く。

しばらくして、椎名が再び口を開いた。


「三ツ葉君、あなたの言動を見てきて、なんか惚れちゃって、好きになっちゃって…。多分、誰も言ってこなかっただけで、三ツ葉君のことが好きだった人、いたんじゃないかな」

「えっ!?」


流石に驚いた。まさかの「好き」宣言。これが告白というものなのか?

…途中経過がおかしかったが。


「これ、告白と捉えていいの?」

「そうじゃなきゃ、こんな恥ずかしいこと言わないわ」

「…胸を触らせることは恥ずかしくないの?」


最後の質問を聞くなり、椎名は扉を開けてそそくさと逃げるように立ち去る。

多分余程恥ずかしいことだったのだろう。



何故か周りから視線を感じながら帰宅すると、母と中学生の妹が気持ち悪がりながらこちらを見る。


「どうしたのそんな気持ち悪そうな目して」

「「いや、何かものすご~く気持ち悪い顔してるからさ」」

「そんな顔してる?」

「「恋愛に慣れていない男の子が初めて彼女出来て浮かれてるみたいなすご~く気持ちの悪い顔してる」」

「マジかよ」


凄い的確に例えを言い、しかも実際にあったことを当ててくる。

気持ち悪いと言われても、しばらくはこの顔をやめられないだろう。



食事も終わり夜になると、急にこれが実はとても不可解な夢なのではないかとか、実は登校中に車に轢かれて死んでいるのではないかとか、現実ではないのではないかと思ってきた。

相手は学年一と名高い完璧女子。

それに対し、俺は目立たない静かな男。

まるでアニメでも観ているかのような、アニメの世界にいるかのような出来事なのだから。


「確かめるために連絡…。あ、交換してなかった」


疑念が晴れないまま、床についた。


朝起きて、変わらぬ登校を終わらせ、変わらぬ生徒生活。

一応、椎名と休み時間に少し話したりとかはあったが、正直他にはほとんど変わった部分はなく、本当に夢だったのかと落胆した。


が、放課後になると一変した。

「ねえ、ちょっといい?」

「…いいけど」


また椎名に声をかけられ、いくと、今度は校舎裏だった。


「椎名さん?何を…」

「もう呼び捨てで、敬語もなしで良いよ。そうじゃないともっと困ることするから」

「わかったから、離し…」

「無理~。だ~めっ」

「ああああああああああああああああああああああああああああ」



まさか、冴えない俺と、完璧な女子との恋愛?が実現するなんて…。

今後が色々な意味で不安だ。

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