Appendix
ある日、東京の偉い学者先生が、数年ぶりにこの町に帰省してきました。
町長さん達はこれをこぞって歓待し、彼の散歩に付き添いました。
「この町の名前を猫復町とするのはどうでしょうか」
ある時、とある廃墟ビルの前に手向けられた、すっかり枯れ果てた花束の跡を見て、先生はそう言いました。町長さんはきょとんとしてそれを見つめています。
「昔、この町で猫が消えた日があったでしょう」
「ありました。町中の野良猫や、首輪のついた飼い猫も含めて、町から全て消えてしまったのです。あれはたいへん不思議な出来事でした」
「実はあの翌々日に、事故に遭いながらも一名を取り留めた方が居ました。その人が言うには、『猫さんに助けられた』と言ってきかなかったそうです」
「そのニュースなら、朧気ですが存じております。私が六歳ぐらいの頃のお話ですので」
「――その方は、私の祖父に当たる人です」
先生は、おじいさんから聞いた話を詳らかに伝えてくれました。
どうやって猫に助けられたのか。
そこでどんなものを見たのか。
助かった後、町中の猫がいつの間にか戻っていたこと。
そして、普段から猫と話をしたいと考えていたが、終ぞ叶わなかったこと。
「そして必ず、『必然の上にあぐらを掻かずに精進せよ』と言っていました」
「それは、どういうことでしょうか。お祖父様は、普段から猫と戯れていたからこそ、猫に助けられたということではないのでしょうか」
「それは、全く違いますよ」
学者先生はもう何も言わず、ある程度のお金を寄付して、翌日には町を去っていきました。
その翌年から、猫復町では、四月の二十二日を『猫無の日』と呼ぶようになったそうです。