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終末都市の記録  作者: 日野 奏
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第二破壊都市『荒廃都市』

小さな街で物資を集め、瓦礫の海のような道を歩く。

大きな崩れたビル、陥没し大きな穴の空いた道路、倒れて複雑に電線が絡んだ電柱。

強風で砂埃が舞う、荒れ果てた巨大都市。

マスクとゴーグルをつけ、息ができるようにする。

枯れ木で滑らないように慎重に坂を下っていく。

記録によれば、かつてここはどこよりも文明が進んでいた都市だったという。

近未来化が進み、全てにおいて便利で何不自由ない生活のできる都市だったと言える。

今でも、ビルに巨大なモニターがあったり、たくさんの交通機関の跡があったり、想像しやすい。

全盛期の華やかさは見る影もない、しかし消えた文明の多くはこうして形を保って残っている。

水没都市よりも大きな空間を見回す。

砂埃が酷いが、また違う風情がある。

水没都市と違うところは、生き物が住める場所ではないということ。

砂埃により、マスクがないと息ができない。

そして、コンクリートや鉄で建設されたこの場所に植物が生まれ育つこともない。

水もおそらく違う場所から引いていたはず、今は水道も潰れて使い物にならない。

出てきても、体に害のある物質が混ざった汚水だけだ。

いくら便利でも不自由がなくても、こうして滅んでしまったらなす術がなかったのだろう。

たまに、ボロボロのぬいぐるみやおもちゃ、洋服などが埋もれている。

風化してしまい、手に取ればボロリと崩れてしまう。

その様子に、なぜが心の奥底がずくりと痛んだ。


散策を終えるころには日も暮れ、風も止んでいた。

なんとか落ち着けそうな場所を探し出し、火を起こす。

水没都市で汲んでおいた水を使って、スープを作った。

水も大切に使えば当分は困らないだろう。

ここでも星はよく見える。

砂埃で霞んでいるが、綺麗だった。

ここには流石に人はいないらしい。

新しい種族もいない。

ランタンに火をつけ、建物を散策することにした。

この建物は、かつて大型の商業施設だったようだ。

エレベーターやエスカレーター。

ガラスはないがショーウィンドウもある。

倒れたマネキンが、当時の服を身につけている。

ジジ、とランタンが揺らぐ。

カツーン、と何かが落ちる音がした。

光る小さな何か、近づいて拾い上げる。

ガラスのような鉄のような、不思議な球だった。

中は透けていて、不思議とゆらめいている。。

覗き込むと、なぜか違う景色が見えた。

「え…」

目を離すと、全く違う景色の中に私はいた。

人が、たくさんいる。

瓦礫の山が、当時の映像になっていた。

試しに近くの植物ぬ触ってみると、手をすり抜けてしまう。

ホログラムだ。

初めてホログラムの立体的な空間を目の当たりにした。

この都市が破壊されてかなり経つというのに、この装置は動いた。

まだ壊れていなかったということだろうか。

たくさんの人が、幸せそうに笑っている。

子供達が駆け回って遊んでいる。

おもちゃを見て、はしゃいでいる。

彼らの暮らしが、日常が、今映しだされている。

一人の少女が目の前に立つ。

彼女はニコッと微笑んだ。

まるで『私が見えている』みたいに。

「…?」

『こっち!』

少女に手を掴まれる。

ホログラムのはずなのに、さわれている…!?

「え、ちょっ」

少女は私を連れて走る。

景色が流れる。

気づけば、私は商業誌鉄の屋上に来ていた。

「一体、君は…」

少女はゆっくりと指を差す。

その先には、一つのタブレットが落ちていた。

「あれは、ホログラムじゃ…」

少女が拾い上げて、私に渡す。

触れるし、重みがある。

電源を入れると、勝手に画面が動いた。

「記録…」

『○月○日 今日はパパとショッピング。いつも研究で忙しいパパがお休みなんだって。いーっぱい青sびたいな!』

『○月○日 パパのお仕事は、研究なんだって。この近未来都市のAI?をプログラムして、ここの暮らしを便利にするって言ってた。難しいことはわからないけど、この暮らしはパパ達の努力でできてるんだね!パパはすごい!』

『○月○日 最近、パパの顔色が悪いみたい。お仕事がうまくいってないんだって。意思を持って暴走し始めてる…って、なんのことだろう…?大丈夫かなぁ』

『○月○日 あの綺麗な都市が、壊れ始めてる。今朝は交通機関の不具合でたくさんの人が死んじゃったって。どうなるのかなぁ…怖い、な』

『○月○日 パパ ママ こわい たすけ て』

研究者である父親の発言から察するに、ここで特に発展していたAIの技術に問題があった?

意思を持って暴走、この文が示す意味は、AIという人工知能がこの都市を壊した…?

『私ね、パパが大好きだったんだ』

少女が話し始める。

その声は、どこか寂しそうで。

『この街も、大好きだった。ピカピカ光って、綺麗で。でも、ある日この都市を構成してるシステムが一人で暴走を始めたの』

交通システムが狂い、安全装置が作動しなかった。

検索AIも言うことを聞かず、医療システムにも不具合が発生した。

ライフラインの供給も止まり、この都市はすっかり壊れてしまった。

『私はね、家政婦のAIに殺されちゃったの。ある朝、ママを包丁で刺しちゃった。私も続いて殺されちゃったの』

『パパの怒鳴る声がね、頭から離れないの。パパの泣き顔も、ずっと残ってるの』

-今助けてやる!死なないでくれ、お願いだ!

-アイラ、ルナ、目を覚ましてくれ…!

『…もう随分経つのに、私はずっとこの場所をさまよっていた。そして、あなたが来たの』

ルナと呼ばれた少女が、私の目元を拭った。

『…辛い思いをさせてごめんね、泣かないでお姉さん』

感情が、破裂しそうだ。

苦しくて、悲しくて、寂しくて…痛くて。

ルナの感情が、私に流れ込んできた。

重く苦しい、崩壊の記憶。

声が出ない、ただただ悲しかった。

「…っ、…!」

あぁ、神様。

どうしてこんなことするの?

私は、ルナは、生きたかった…!

『うん…生きていたかった。パパとママにもう一度会いたい。どんなに探しても、見つからないの。でも…』

ルナは私を抱きしめる。

暖かい、優しい体温を感じる。

『あなたが私の代わりにに泣いてくれたから、いいの。ありがとうお姉さん』

ホログラムは、消えていた。

ころり、私の手からあの球が転がる。

『今なら、パパとママに会える気がするの。』

「そ、か…うん、会えるよ。きっと会える…!」

ルナを抱きしめる。

彼女はここにはいないのに、確かに感触がある。

『お姉さん、名前は?』

「ヨナだよ、君はルナであってる?」

『うん!私はルナ!』

ルナはいっぱいの笑顔で私の名前を呼んだ。

そして、さっきの球を私の手に握らせる。

『これはね、私の記録なの。お姉さんが持っていて』

「…いいの?」

『うん、お姉さんだけがここにきてくれたから。私のこと、知ってくれたから』

ふわ、と風が吹く。

ルナの体が崩れるように消えていく。

『…お別れ』

「うん…」

『ヨナお姉さん、私…ルナのこと忘れないでね』

「もちろん、いつかまた会おう、ルナ」

ザァ、強い風が吹く。

彼女は可愛い笑顔で消えていった。

パパとママに、会えただろうか。

「…荒廃都市、ここは悲しい場所だったな」

荒廃した空間に、優しい風が通っていった。

翌日、支度を終えて歩き出す。

次に目指すのは「汚染都市」。

ここ以上に過酷な場所だと予想される。

瓦礫を登りきり、都市を見下ろす。

ふと、あの商業施設に人がげが見えた。

ルナが、手を振っている。

瞬きをすると、何もいなかった。

どこか落ち着いた気持ちでその場所に手を振る。

荒れ果てた地に、悲しくも優しい記憶を受け取って。


『記録:荒廃都市』

『荒廃都市はかつて文明が発展し最先端の都市として栄えていた。そこは、何かしらの原因で都市全タオを構成するシステムの不具合が発生し、混乱の末崩壊。しかし、その地に生き物はいないものの、かつての住人の辛くも幸せだった記録を見ることができた。あの地には、非科学的であるが、人の思いが形を成した「幽霊」と呼ばれるものが存在しているのかもしれない。思いの形はそれぞれ、きっと他の人に知って欲しかった記録もあるのだろう。私の出会ったあの少女が、愛する家族と長い時を経て再会したことを願って。』

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