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1章2

 あれはまだ礼が中学生の頃。


 礼がまだ病弱ではあったものの病気を発症する前で当たり前のように学校に通っていた時期。


 とはいっても性格が大人しい礼はあまりクラスにも馴染めずに勉強ばかりしている人間だった。クラスでのあだ名は『ガリ勉』。


 女子との交流どころか男子からもガリ勉なんてあだ名なもんだから教科書無料貸出機や宿題自動解答機くらいにしか思われていなかった。


 しかしそんな礼は別にいじめられていたわけでもなかったことからその現状に特に不満を持っていたわけではなかった。


 そんなある日のこと。


 礼がうさぎの飼育当番にあたり休日に学校に駆り出されていた時のことだった。


 うさぎの当番は中学ではクラスでランダムに割り振られた二人一組で餌や掃除をしに来るというものだった。


 礼は何度か不真面目なクラスメイトの代わりを引き受けることもあったしそれなりに経験値を積んでいて教科書無料貸出機や宿題自動解答機とは別にうさぎマスターという凄いのか凄くないのか分からない称賛も浴びていた。


 うさぎ小屋に着くとすでにもう一人の掃除当番である福本智紘が来ていて掃除を始めていた。


「うお、僕も大概だが相変わらずこの人もなかなか影が薄い人だな。うさぎ小屋まで来ないと気付かないレベルとは……」


 休日だけあってうちの学校では当番の時は私服でも良いとされていたが智紘はきっちり制服を着て今日は掃除があるからか律儀に黒髪を後ろで縛っていた。


「やあ、来るの早いね」

「……」


 智紘さんはそれに対して特にこちらを見ることなくコクリと頷く。


 当時礼から見た智紘は目立つようなキャラでもなく、たまに少人数の女子と会話をしているところを見かけるが普段は大体一人で読書しているか何かをノートに書き込んでいる、そんなイメージだった。


 だから、どんな性格で何が好きなのか。そんなことは知る術もないし別に興味もなかった。


 二人だけの沈黙の時間が続き、竹箒の音だけがカサカサと音を立てる。


 ふと気になって礼は智紘の方を見る。


 智紘は竹箒の先端に視線を向けたまま感情の読み取れない顔で一定のリズムで掃いている。


 しかし、それは塵を掃いているというよりはただ同じところを何度も往復しているようだけだった。


「(なにか考え込んでいるのかな。それにしても何となく気まずい)」


 何となく何か話題はないものかを頭を巡らせるが普段対面するのは教科書、会話する異性は親か近隣住民の挨拶ついでくらいしかない礼の頭にはそのような気の利いたボキャブラリーは存在するはずもなかった。


「ち、智紘さんってさ。よく一人でいること多いよね」

「そうだけど、それが何?」

「(しまった。話題を作るつもりが完全に煽ってしまっている。無理やりにでも軌道修正を)」

「いやあ、実は僕もよく一人でさあ」


 言った直後どんな自虐だよと自分にツッコミを入れざるを得ない。


「でも、高嶺くんって誰かにちょくちょくいじられてるのよく見ると思うけど。それに井本君とは親友じゃないの」

「(あれ? 智紘さんって意外にそういうの見てるんだ)」

「いや、あれはただみんなに利用されてるだけだよ。別に僕なんか……僕じゃなくても誰でもいいんだと思う。それに井本だってあれは僕と仲良くなりたくて近づいてきてるんじゃなくて同じ境遇の仲間が欲しいだけなんだよ。ほら、井本も良くいじられてるというかいじめられてるだろ」

「そうなの?」

「そうだよ、だからみんな僕を見てくれているんじゃなくて僕の頭脳だったり境遇を利用したいだけなんだ。パソコンとか図書室を使うのと同じなんだよ。だから……」

「そうかな、井本君はあなたのこと本当に親友だと思ってると思うけど」

「(あれ? 僕なんで智紘さんにこんな話を)」


 自分でも驚くほどに普段の不満が自然に出てしまっていた。これじゃ話題作りどころかまた空気を悪くしてしまうじゃないかと再び自己嫌悪。


「あ、ごめん、こんな話急にして」

「いいえ、私も似たようなことを考えたり思うことがあるから」

「え?智紘さんも?」

「うん」


 なにか共感して親近感を持ってくれたのか智紘さんは最初よりかは顔に表情が宿っているように見える。


「でも、大丈夫だよ。高嶺君は高嶺君でいいんだよ。今は利用されていると感じるかもしれないけれど今の、そのままの高嶺君を好きになってくれる人も必ずいるはずだから」


 そう言って智紘はにっこりと礼の方を向いて微笑んだ。


「(て、天使のようだ…)」


 その笑顔はとてつもなく僕に勇気をくれたと共に恋心という中学生には初々しい淡い感情をくれたのだった。


「(でも確かあのすぐ後だったんだよな……)」


 うちのクラスで自殺があったのって。


 その後はあっけないもので礼は例のように病に倒れ智紘さんとそれっきり話すことはなかった。


「(でもなんでこんなところに智紘さんが。まさか僕と同じ高校を志望してたのか)」


 智紘は紺の制服に身を包み、若干の高校生という大人っぽさに美しさとエロさのダブルパンチをお見舞いされてしまう。


「(ああ、ますます病に倒れたことを後悔してしまうな)」


 あんなに、あんなに病院生活も悪くないものだって自分に言い聞かせてきたってのに。


「あっ、智紘さんが行ってしまう」


 礼はこんなだだっ広い校門前にいても仕方がないので智紘さんの後ろを付いていくことにした。


「ここが黎明高校か」


 高校の中はまだHR前ということもあって人がごった返していた。


 みんなそれぞれが自分の色を青春の一ページに絶賛描き中だと言わんばかりに生き生きとしている。


「(僕も病に倒れることなく入学式を迎え、学校生活を送れていたなら今頃彼らみたいに輝けれたのだろうか)」


 礼が初めての高校の様子に目を奪われっぱなしの中智紘はスタスタと人ごみを避けある地点を目指すかのように歩いて行く。


「あれ? ここは」


 着いたのはHR前だし教室だろうという礼の予想を大いに覆した場所だった。


「智紘さんここ理科室だよね?」


 そんな彼の声は聞こえるはずもなくスカートのポケットから当たり前のように鍵を取り出すと中へ入っていく。


「ねえ、なんで理科室の鍵なんて持ってるの!?」

「……なんだか今日はやけに肩が凝るわね。昨日実験器具移動させたのがちょっと響いてるのかしら」

「やばい。さっそく悪霊みたいな扱い受けてる」


 理科室の中はカーテンを閉め切っていて朝だというのにかなり薄暗い。


 それをカーテンを開けることなく電気だけつけテーブルにつく。


 カチカチと不規則なリズムを刻む天井の照明に照らされた理科室はなんとも絶妙な古臭さを演出しマッドサイエンティストの一人や二人出てきそうな趣を感じさせる。


 人体模型や謎の生物のホルマリン漬けなんかも奥の部屋に見えちゃったりして夜になれば結構なホラースポットにもなりそうだ。


「さて、あまり時間もないし急がなきゃね」


 バサッと身体に白衣を纏い、一本に髪を縛り上げる智紘。


 その姿はかつて中学で出会ったような懐かしさと白衣による知的な美しさの両方を兼ね備えていた。

 やっぱり、近くで見ると改めて美人だと思う。


 礼が見惚れていると智紘さんは何やら怪しい液体や幾つかの懐かしい実験器具を取り出し作業を始めてしまった。


 HRとは遠くかけ離れた所業であった。


「(もしかして智紘さんだけクラスというものが存在しないのか。ってそんなわけあるか、いくら中学しか行ってないとはいえそんなシステム改変が高校から始まってたまるか)」

「智紘さん? 教室には行かなくていいの? ねえ」

「……」


 礼は智紘の周りをぐるぐると周り何かしら念が伝わらないものかと試行錯誤してみる。


「(他の幽霊がやっているであろうかなしばりとかってどうやってるんだろう。こうやってぐるぐる回ってたら出来たりしないのかな)」

「うぅ……なんだか今日は一段と寒いわね」


 礼の意思は伝わらなかったが、どうやら霊特有の寒気は与えることが出来たようだ。


「ってそんなもの伝えてどうするんだ!ほら、引き出しからブランケット出されちゃったし!入り浸る確率上げちゃったよ!」


 礼の全力のツッコミも虚しくその日は結局午前中いっぱい智紘は実験をただ黙々としそれを意味も分からず見続けるだけしか出来なかった。

次回は明日の朝九時です。

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