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1章1

 程なくして。


 メンタルを回復した礼は再度トライを試みる。


 幸いまだ登校時間ではあるようで、ピークは過ぎたようだがまだちらほらと生徒が登校してきている。


 礼はその人の粒々の中から一人一人の出で立ちを隅々まで観察しながらコミュ入り出来そうな人達を厳選していく。


 とにかくチャラそうな感じがしなくてかつコミュ障を拗らせ過ぎてなくて話しかけたら多少のリアクションくらいは取ってくれそうな人材。


「(ってそんな都合いい人いるわけないよな……そもそも僕自体が他人から見たらコミュ障に他ならないだろうし。お、アレなんか妥協ラインじゃないかな)」


 礼はある二人組が目に留まる。


 見た目は派手過ぎずそれでいてとても仲が良さそうだ。


 朝から何やら誰かのことでとても盛り上がっているようだ。


「だーかーらお嬢は我の方を信頼してくれてるんだよ!」

「いーや、あっしの方に決まってるざんず! この前なんかパソコンの修理をお願いしにわざわざあっしの教室まで直々に来てくれたざんすよ!」

「何をそれくらいで! 我なんかこの前登校したら玄関で待ち伏せしてて研究資料がいっぱい入った重たい鞄を我一人に持たせてくれたんだ!」

「くう!いいやあっしが!」

「なぬ! 我が!」

「(顔なんかくっつけあってとても仲が良いんだなあ)」


 片方の一人称が我の方はガッチリ目で学ランの袖を肩から千切ってタンクトップにしている。もう片方はとても細く手足なんか蜘蛛のように長くヒョロっとしている。


 異世界のモンスターをそのまま生徒にしたような感じだ。


 きっと神様が哀れな自分のために生徒の特徴を異世界モンスター仕様にしてくれたのだろう。


「よし、彼らに確実に興味を持ってもらうために一発芸で興味を引いてやる!」


 礼は緊張しながらも彼らの目線をしっかりと奪うために目の前に立ちはだかり渾身のギャグをした。


「車に轢かれたカエルの真似!」


 やった瞬間の後悔といったらそれはもう言うまでもないだろう。


「(ウケたうんぬんは一旦無しにしても確実に見てもらえはってあれ?)」


 目の前に先程の彼らはおらず自分を通り過ぎ学校の方へ先を歩いていた。


 礼はその光景を目の当たりにして、もうネタのクオリティを批評するどころの話ではなくなっていた。


 なぜなら彼らは気付かず礼を踏み付けていったのではなくすり抜けていったのだ。


 まるで、礼という存在の方が否定されるかのように彼らが自分に重なった部分は消え通り過ぎるとまた己という存在が再構成される。


「まさか……」


 慌てて身体全身を見て次に周りを見渡す。


 若干僕の身体だけが景色に対して輪郭がぼやけている。


「なんてこった、これじゃあ天国ってより僕自体が死んでしまって幽霊にでもなったみたいじゃないか」

「(じゃあここはなんだ? 死後の世界でもなんでもなく現世でただ僕は幽霊にでもなったっていうのか。そんなの納得がいかない。そうだ、ここが現世なら)」


 礼は悪夢から早く冷めたいと願う子供のように無我夢中である場所を目指した。



「……ない」


 家路とは若干違ったが三年ぶりの下校道は懐かしさと同時に自分を迷子にするには十分な道へと変貌を遂げていた。


 病院への道ってこっちであっていただろうか。


 しばらくしてやっとこさの思いで例の場所に辿り着くことが出来た。


 しかしその場所は綺麗さっぱりなくなっていて古びた電灯だけが寂しそうに下を俯いていただけだった。


 今は昼間だからそこまで恐怖感は沸いてこないが、夜だったならそれなりの当時の臨場感を思い出して不整脈を起こしていたことだろう。


 帰る道のリアリティさから現実だと薄々気付き始めてはいたもののそうはしか思いたくなかった礼は念のため電灯の刺さっているところから円周上百m範囲を隅から隅まで調べ上げた。


「こんな現実を模倣しただけの世界が天国や異世界なんて死んでも嫌だ、もう死んでるのかもしれないけど」


 しかし犯人の手がかりどころか自分が死んだ形跡の一つさえ見つかることはない。


 これが推理ゲームの探索パートなら完全に詰んでいるレベルでお手上げだった。


「そうだ、こうなったら犯人の行方だ。近くのスーパーの街灯テレビとかでニュースか何かしてないのか」


 礼は藁にもすがる思いで近くのデパート街に向かった。


 デパート街は平日だけあって人混みなんてあるわけもなくなんなら所々臨時休業という張り紙だけ貼ってあってシャッターまで下ろしている店まであった。


 まばらにどら猫や主婦や薄汚い服に身を包んでいるおじさんが居るのが目に入る。


 三年前はもうちょっと繁盛していた気がしていたのだが、さっきの学校での登校の山に遭遇した後だからそう感じるのだろうか。


 礼は一通り街を闊歩して古びた電気店を見つけると店内に入りニュース番組をしているテレビを見つけた。


 自動ドアは反応さえせず、すり抜けて入っても店員は案の定気付くことはない。


 平日から最近あった事件や街の行事を話すニュースキャスター達。本来なら真っ先に変えるほどつまらなく流されているニュースは僕に緊張を与えた。


 頼む、ここで流れなければここは結構な確率で現実を模倣しただけの天国か異世界ってことになってしまう。


「ではニュースをこれで終わりとさせていただきます」


 しかし礼の悲願も虚しくものの十五分程度のニュースは地元の話題と窃盗くらいの事件で終わり次の番組のローカルバラエティが内心とは関係なく始まる。


 礼はとりあえず電気店からひっそりと姿を消すと街の真ん中に立ち尽くすしかなかった。


 自分にぶつかった主婦は何事もなかったかのように自分という存在を蹂躙しそこにまた己がふわっと再構成される。


 正直もう自分の存在を証明するものがなくなっていた。


「これからどうすれば」


 礼は最期の砦であるかつて自分がいた病院に行けば何か分かるかもしれないと過ぎったがそもそも行ったところでまたベッドさえなくなっているかもしれないということに恐怖を覚えその考えを辞めた。


「とりあえず元いた学校にでも戻るか」


 まだ一度も通ったことはなかったが一応進学をし席だけは置いてもらっているはずの私立黎明高校。


 そんな礼とはほぼ縁もゆかりもない場所ではあったが今は自分がいたという事実を脅かすこともない安心出来る場所とも言えた。


 かつてこんな一日にして故郷にも近しい親近感を覚えた場所があっただろうか。


 再び黎明高校の前に立つ。


 つい一時間と経たないというのに心の負担がでかかったせいかとても久々に感じた。


 未だに登校している生徒がちらほらといるが、さすがに遅刻ギリギリの登校なのか最初の人達と比べると覇気がない。


 パンを口に加えたまま走りこむ人もいれば遅刻など気にも留めていないのか一人で下を向きながら気だるそうに歩いている人もいる。


「このまま僕も一緒に誰かに着いていって守護霊として味わいたかった青春の一ページのおすそ分けをしてもらうのも悪くないかもな」


 あまりにも色んなことが一辺にあって順応力をつけざるをえなくなったからなのか早くもゴーストライフを満喫することを考え出す自分がいた。


「さて、誰に憑こうかなあ」


 そんな我ながらちょっと幽霊っぽいことを口にしているななどと思いながらも辺りを見渡すとある一人が目に入った。


 そこには福本智紘がいた。


 福本智紘。


 その人がいるという事実は礼に何重もの驚きを与えた。


 制服自体は変わったものの三年前に会ったあの日のように黒い綺麗な黒髪をスラっと流し全然遊んでいないスカートの丈のままで凛々しい顔で登校している。


「(なぜそんなに驚くかって? だって福本智紘……智紘さんは僕の好きな人に他ならなかったからだ)」

次回は今日の夜九時に更新します。

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