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5章2

 Xデー当日。


「ふぅ、まぁこんなもんかな」


 Kさんは額の汗を拭うような仕草をし、達成感に満ちた表情をしている。


「(いや、一仕事終えた感を出しているところ申し訳ないがちょっと待って欲しい)」

「ふぅ……じゃないですよ! エネルギー玉は出せるようになりましたけど、結局打とうとしたら全部消えちゃって打ててないじゃないですか」


 そう、肝心のエネルギー玉は一発さえ出せてやいない。こんなんじゃいい音の鳴るレプリカ銃みたいなものだ。


「そりゃ自分の存在を自分から切り離して放つなんて至難の技だ。簡単にはいかないだろ」


 Kさんは至極当たり前のようにそう言う。


「じゃあ、どうするんですか! 僕じゃ使いこなせないってのは薄々感じてはいましたけど」

「うーん、参ったな。でも約束の時間が来ちゃったしなあ」

「……」

「すまんすまん、でも存在力を一気に放出することは出来てきてるし戦闘に役立つことは間違いないぜ!」

「いや、僕今日四十九日目なんです。ついに来てしまったんですよ。僕にとっての約束の日も」

「(結局ルリ子や前川さんにも何も言わずに行方を消してしまったし。本当に何をしてるんだ僕は)」

「そうか……まあ、私の未来では礼は生きている。大丈夫だ」

「? いや、四十九日を過ぎたら霊は廃人になって……」

「うむうむ! まあ、行ってくるがいい!」

「(なんだかKさんと温度差が違う気がする。今更遅過ぎるけどこの人の未来を信じて良かったのだろうか)」

「分かりました。では行ってきますよ。というか今更ですけどKさんが助けに行けばいいじゃないですか、めちゃくちゃ強いわけですし」

「いやあ、私が行くと礼が消えてしまうならな。それでは意味がない。礼がこの事件は解決しないといけないんだ」

「今回の件を解決したら丁度成仏出来る程存在力が溜まるんですか」

「うーむ、まあ行ってみたら分かるさ!」

 何だか腑に落ちない返事のKさん。

「(成仏さえ出来ないのに意味なんてあるのか。まさか、智紘さんを助けるという銘を僕にさせるために僕をわざわざ特訓してくれたっていうのか)」


 その真意に礼は思わず心打たれる。


「(Kさん、あなたって人は。とにもかくにもKさんも協力してくれた最後の依頼。なんとしても解決しなきゃな)」



 いつもの路地に来た。


 案の定そこには二つの人物がいた。一つは智紘さん。そしてもう一つは。


「おや? よくこんな時間に私がここにいると分かりましたね? まるで未来でも予知したかのようです」


 薄気味悪く笑う先生がそこにはいた。


「(そりゃ驚きはしたが正直若干怪しんでもいたんだよな、この先生)」


 智紘さんはと言うと手足を縄で電柱に縛られていて正座のまま動けない状態にされている。


「理科室では僕が見えていて消すためにあえてあんなことを言ったんだな」

「ご明察。しかしまああんなことで都合よく消えてくれるとは思っていなかったですけどね」

「あれ? ここは……」

「やあ、お目覚めかな智紘さん。どうだい、君にピッタリの死刑場所でしょう?」

「先生……一体何を言って……」

「まだ分からないのか、君ははめられたんだよ、仕返しの材料にされたんだ。いやあ、でもそこの彼も分かりやすいね。君のことがどうやら好きみたいなのでね。これはいいダシに使えると思ったわけですよ」

「彼? 私には先生が何を仰っているのか分かりません」

「そうかあ。まあムリもないか。霊だよ、君は皮肉にも存在を否定している霊に憑かれてしまっているんだ」

「おい! やめろ! 彼女に変なことを吹き込むな!」

「変なこと? 自分の存在のことを変なこと呼ばわりとは君もなかなか変わった人ですね」

「いいからやめろ」

「そうですか、まあいいでしょう。ところで君にここまできたチャンスにいいプレゼントをあげましょう」


 そう言うと先生は暗闇のどこかから何者かの首元を掴んで見せてくる。礼はそれを見て唖然するしかなかった。


「それは……」

「嘘……高嶺君?」


 後ろで智紘さんの驚く声が聞こえる。


「(そんな、まさか)」


 男が掴んでいたそれは間違いなく礼だったのだ。


「そう、これは高嶺礼。あなたの身体ですよ。あの晩から私が存在力を少しずつ溜め込んで腐らせないようにしてきたのです」

「(なんて悪趣味な)」

「ははは、その顔は楽しんで頂けているようですね。高嶺君、では交渉といきましょうか。実はこの身体今ならまだ私の力で戻ることが出来ます。あなたが望むならしてあげてもいいですよ?」

「何が狙いだ」

「いいえ、何も。私はただここまで来たあなたを尊敬しているのです。ですからあなただけは復讐の対象からはずしてあげます」

「智紘さんはどうなる」

「彼女は別ですよ。あなたは元の身体に戻った暁には彼女はここにおいて逃げて頂きます」

「(男は僕をそれで懐柔出来たつもりなのだろうか。甘い、甘すぎる。僕とお前では今までの道のりが全然違うんだ)」

「ふん、そんなのお断りだ。智紘さんを返してもらう」

「ほう?」


 男の眉がピクリと動く。


「あなた変わっていますね。本来人間と言うものは自分さえ良ければいいのではないのですか? あなたがそれをしても彼女はあなたが何を言っているのかはもちろん視認することさえ出来ないのですよ?」

「そんなの関係ない。僕は……智紘さんを守るためにここまで来たんだ」

「ふむ、なかなか熱苦しい愛情ですね。では残念ですがここでそこの彼女には死んでいただきましょう。いけ!」


 男がそう号令をかけると礼だった身体がカタカタと音を立てて起動し動き出す。


「あなたの身体に悪霊の存在力を溜め込んで操らせているのですよ。自分に好きな女の子が殺される。これほどまでに乙なことなかなかありませんでしょう?」


 男は心底愉快に笑う。


「(くそ、どうしたものか)」

「た、高嶺君? あなた高嶺君よね?どうしたの?」


 智紘さんは様子のおかしい自分だったものに訳も分からず問い詰めている。


「(智紘さん……覚えてくれていたんだね)」

「せっかく智紘さんが僕を覚えてくれていたことが分かったんだ。こんなところで、負けるわけにはいかない!」

「ははは、お待ちかねのショータイムといきましょうか」


 男がそう言うと連動するように悪霊に操られた礼の身体は刃物をポケットから取り出し、舌なめずりをする。


「い、いや。いやあああ!」

「う~ん、よく泣いてくれるな。あえてテープで口を塞がなかったのにも意味があるというものだよ」

「やめろ!!」

「(またあの時と同じようにかなしばりをかけて……止まれ!)」


 礼はいつものように相手を締め上げるイメージをかけながら手を徐々に握り締めていく。


 しかし、今回はいつもとは違った。


「おや~? どうしました?何やら困った顔をしていらっしゃるようですが」

「なんで……前回は通用したのに」

「フフ、そう何回も同じ手が通用していてはラスボスとして相応しくないでしょう。あの時はあなたのお友達の身体にしたんでしょう? でも今回は違う。いくらあなたの身体とはいえその身体は悪霊の濃い存在力がしっかりと詰まっているのですから」

「(そんな、そんなヤツに勝てるというのか。でも、諦めない。まだ僕にはいくつも手が残っている)」

「さあ、ではあなたはそこで亡霊らしく静かに佇んでいるといい!」


 ズシャアッ!


「……あら? 何です、どうした!やれ!なぜ動かない」


 礼の身体が裂いた先は智紘さんの制服の一部を掠めただけだった。そして運よくついでに縄が解け足が自由になる。


「(ふう、間一髪だ。本当に危ない)」

「え? 私何が、ってきゃああああ! 手が! 私を掴んでる! 気持ち悪い!」


 智紘さんは慌てて手を弾き僕から離れる。


「(まあムリもないか、智紘さんに見えているのはこの僕が装着している霊渉の部分だけだし。といいつつも若干ショックが隠しきれないけど)」

「フフフ、せっかく助けても気持ち悪がられるだけとは君も可愛そうな存在ですね」

「……」

「いいえ……」

「おや?」

「見えないけど、もしかしてこの今掴んでいるのが……本当の高嶺君……なの?」


 これは、なんて奇跡だろうか。


「もしかしてなんでって思ってる? そんなの分かるわよ。この手の暖かさ。いくら目の前に高嶺君にソックリな何かがいたとしてもあんな正気じゃないのが本物だとは思えない。信じたくないけど……何かの事情で見えないんでしょ」


 ずっと繋がらないと思っていた道がしっかりと繋がったような気がした。


「(智紘さんは確かに僕の方に話かけてきている。夢なんかじゃないよな。どうしよう、どう答えればいいんだ)」


 色々リアクションで示したかったけど手しか見えてないからとりあえずグッっと親指を立てるしかなかった。


「そう、高嶺君で合ってるのね。じゃあ久々ついでに言わせてもらうわ。ここ最近の理科室や身の回りでの気味の悪い現象も全部あなただったのね!私がどれだけ怖かったか分かる!」

「(あれ? なんか雲行きが怪しい?)」

「頭ではそんなのいないと分かっていてもそれを証明しようとすればするほど逆に現象の不可解さが増していって……」

「そんなつもりじゃ……僕はただ最初は君に気付いて欲しかっただけだし、ずっと助けたかっただけなんだ」


 礼は何とか通じないものかと手を横に振る。


「まあいいわ。もう、いるものを否定することは無理だもの。振り出しだわ」

「そんな……」

「だから、私はこれからまた再出発しなきゃならなくなったわ!さあ、だから高嶺君!先生、じゃない。あのくそったれた男をガツンとやって!」

 智紘さんのその目はもう前しか向いていなかった。ああ、僕はこのまっすぐな瞳に惚れたんだったな。

「はい! 任せてください!」

「なんだか急に威勢がよくなっちゃっいましたね。私としては泣き叫びながら命乞いをして頂いた方が好みなんですけどね」

「いいえ、もう弱音は吐かないわ。この福本智紘、全力でこの状況から生還してみせるわ!」

「ふんふん、まあいいですよ。それならそれで絶望への緩急がさらにつきそうだ」


 礼の身体は再び刃物を構え向かってくる。その刃の先は真っ直ぐに命を刈り取ろうとしている。


「させるか!」

「(僕のとっておきの技、ポルターガイスト。いつもならもっと盛大にやれるところだけど生憎ここにはあまり動かせそうなものがない。ここは病むを得まい、とにかく数を打つんだ)」

「きゃああ!」


 近くに生えているちょっと太目の木から智紘さんの制服のボタンまでまるで台風の竜巻が通り過ぎていくかの如くあらゆるものを巻き添えにしながら男目掛けて飛んでいく。


「ちいいい!」


 男は顔の前を腕でガードするがさすがに生身。木やら看板の攻撃をもろに喰らい倒れてしまう。主の緊急事態に戸惑う礼の身体。今だ。


「そりゃあ!」


 礼は近くの鋭い木を持ち、自分の体の心臓を貫いた。


 礼の身体からは大量の血。すぐさまその場に倒れる。


「ああ……私のボタン……」


 後ろで悲しそうな声が聞こえてくるが礼はぐっと堪える。


「(智紘さん、ごめん)」


 礼は若干の申し訳なさに耐えかね敵の方を指差し注意を促す。


「あれ? 倒せたの?」


 ぐっと指で返事をする礼。


 男は木やら看板の下敷きになったままピクリとも動くことはない。


「(仮に意識があったとしてもアレでは身動きが取れないだろう。僕の身体もアレは即死だ。本当に戻れたかどうかは分からないけど、これで良かったんだ)」


 智紘さんが念のためか敵の方に近づいて様子を見ようとしている。


「(いや待てよ、あまりにあっけなさ過ぎないか。それとも僕の気にしすぎなのだろうか)」


 そこで一瞬男の身体が動いたような気がした。


「!?」


 脳で理解するよりも先に身体の方が動いていた。


 礼は智紘さんの制服の襟を掴み引き下がった。


「あいったっ」


 手を縛られている智紘さんは足でバランスを取ることが出来ず地面に尻餅をつく。


「(ああ、どんどん僕の中で後悔の念が大きくなっていく)」

「ぐふっげべべべべ」


 敵は謎の笑い声を出し口から何やら紫の煙を出す。その紫の煙は徐々に人型へと変わ出した。


「フフ、僕を身体から出すなんて流石だよ。僕も悪霊になって大分長いけどここまで僕の前にはだかるのは君達が始めてだ」


 悪霊は心底楽しそうに手を叩く。悪霊の手は指が鋭く生えていてとても大きく人型はしているものの人ならざるものであることは一目瞭然だ。しかし、その顔はとても見覚えがあった。


「井本颯太……」

「ああ、ついに正体がばれてしまったみたいだね。そうだよ。僕が君を殺した犯人だよ」

「なんで……こんなことを……」

「君が僕を裏切ったからさ」

「何!?」

「(裏切った? 僕が井本を?)」

「そうさ、君はみんなに僕がいじめられていた時全く助けてくれなかったじゃないか」

「(そうか、僕のあの時の悪いクセが井本をここまで……。みんな利用している。僕のことを本当に見てくれている人はいなくて僕の頭脳や関係だけを見ている。そういう逃げた考えが結果として彼をここまで追い詰めていたというのか)」

「ごめん井本……あの時の僕はいつも被害者面で、自分には何の価値も無い。みんな誰も僕なんか見てくれてない。そう思ってたんだ」

「急に語り出してどうしたんだよ」

「でも、幽霊になって。本当に存在価値がなくなるどころか周りに認識されなくなって本当に自分だけを見てくれてた人がたくさん出来た。いや、今までも見ようとしなかっただけで実は最初からいたんだよな」

「何が言いたいんだ」

「だから……ごめん。井本をそんなにしてしまったのは僕のせいもあるんだ」

「あ、謝るな! 謝るなあああああ!」


 井本は手をガチガチと鳴らしこちらに突っ込んで来る。


「うわっ!」


 間一髪。


 とりあえず流れで横に交わしてみるとすぐ横をヤツが通り過ぎていた。身体の一部がえぐれる。


「(まさか、こいつ手が武器なのか)」

「僕は……僕はお前達いじめをしてきた奴らや傍観者をみんな復讐するためにここまでしてきたんだ! 今更謝られても遅いんだよ!」


 井本は口角をヘの字に曲げかなり興奮しているようだ。


「(あれはまずい。おそらくKさんに教えてもらったあの技みたいに爪に存在力を集中させているのは間違いないな。それならこっちも)」

「おや、やっとやる気になったのか。でなんだその技は」

「僕はお前を救うためにいちかばちかこの技に賭ける」


 本当は手加減をして説得をさせたいが変に手を抜いたらこっちが殺されてしまう。


「ほう、それは構わないがそれじゃただのエネルギー玉じゃないか。そんな諸刃の剣のような使い方しか知らないとは……。哀れだな」

「(相手の言葉に惑わされちゃダメだ。とにかく手に意識を集中させて……特訓でしてきたことを思い出すんだ)」

「ふむ、そこまで動かないと殺すのも他愛無いのだが、そんな君を殺すのも少しばかり味気ない気がしてきた。どれ」


 井本は腕を広げ自ら的になってやると言わんばかりのポーズを取る。


「ほれ? 好きに当ててみるがいいよ。きっと当たればさすがの僕もひとたまりもないだろう」

「(なんだこいつは。本当に言っているのか。まあいい、これは絶好の機会には違いないのだから)」

「よし、頼む! 届け!」

 礼の手から離れようとしたエネルギー玉は徐々に萎んでいき極小サイズとなって相手へと飛んでいった。

「ぬおおおおおお!」


 なんとか打つことに成功したのだ。


「やったか!」


 少しの間煙に隠れていた中から悪霊の姿が現れる。ダメージは与えられているものの敵は倒れていない。


「(くそ、やはり後一歩のところで気に迷いが出てしまったのか)」


 背筋から絶望によって固まっていくのが分かる。


「ふん、まさか本当に打つことは出来たようだが一部しか放出出来なかったようだな。しかしあんな威力は出なかったものの高度なことが出来るとは……少しだけ君のことを見くびっていたようだ」

「ああ……」

「ふむ、その顔から見るに切れるカードを全て使い果たしたといったところか。いい顔だ。キレイ事を言って助けてもらうつもりだったのかもしれないけど僕はそうはいかないよ」


 井本が腕を振り上げ、爪がキラリと光る。


「(ごめん、智紘さん……)」

「何諦めてるの! まだ切れるカードはあるはずよ!」

「(智紘さん? いや、もう本当にないんだ)」

「私も実験で行き詰ることはよくあるわ。でもそういう時には落ち着いて回りにあるものをもう一度よく見てみるの。そうすればなんだそんなことかってなるものなのよ」


 その言葉は智紘さんの信念なのだろう。必ずそうすれば道が開けると信じて止まない言葉。


「でもどこにそんな手がかりが…」


 周りを見渡してみてもどこにも何もない。


「(全部僕が生身の方の敵に投げてしまったから。もう今あるのはこのお父さんからもらったグローブしか……。グローブ……)」

「お願い! 私にまた挑むチャンスを! 私の守護霊でしょ!」

「(そうだ、僕は……僕は智紘さんの……守護霊だ!)」

「何度やっても無駄だ、さっきのはハンデだ。何回もハンデがもらえると思ったら大間違いだぞ」


 井本の振り上げた鋭い爪が僕の身体を真っ二つにしようと伸びてくる。


「今だ!」


 ギャインッ


「!?」


 井本は理解が出来ず思わず間合いを広げる。何とかうまくいったみたいだな。


 礼の手には緑色の剣が握られていた。


「はは、なるほど。手に集中した存在力をグローブで干渉して形を変えているのか。面白い、面白いぞお!」


 井本は心底はしゃいでいる。


「……来い!」


「(もう悩まない。心苦しいけど、今は智紘さんを守ることだけを考えるんだ!)」


「ではお言葉に甘えて楽しませていただこう!」


 悪霊の連撃を剣でうまく弾く。


 存在同士がぶつかる感覚が剣を通して身体に伝わってくる。


「ほう、なかなか強いじゃないか! いいぞ!」

「うらあ!」

「(僕は、ここで負けるわけにはいかない。ルリ子、前川さん、お父さん、部活のチュオアカブラやビッグフットだって……)」


 全員が自分をここまでするために力を貸してくれた。最初は孤独だと思っていたけどあの病院にでさえ支えてくれている人はいて。


「だから、だから!」


 ゴーン! ゴーン!


 Xデーの終わりを告げる音がする。


 礼の手に握られた剣は敵の心臓の部分を貫いていた。


「ぐふっ……どうやらハンデが大き過ぎたみたいだな……」


 悪霊は膝から崩れ落ちる。ここに勝負は決したのだ。


 モクモクと煙を出しながら消えていく。


「井本!」

「はあ……はあ……僕は……僕はただ……最後まで……君を」


 どうやら正気に戻ったのか井本の表情はあの時、いつも会っていた中学のときのような純粋な面影を残していた。そして消え始める礼の零体の身体。


「ねえ! あなたもしかして……本当に高嶺君?」

「え……どうして、僕が、見えるんだ?」


 智紘さんの目はまっすぐに礼を捉えている。


「私にも分からない。というかあなた……まさか死んでいたなんて……」


 その不器用な顔は普通の人では判別すら出来ないだろうが礼には分かる。


「(智紘さんは僕のために悲しんでくれているんだね)」


 ふと智紘さんの首元にガラスがはめ込んであるネックレスがあるのに気付く。


「(あれは……智紘さんが理科室で実験していた…。そうか、このガラスは本当に霊を映し出す鏡だったのか。きっと僕が消え始めたことで存在の光が反射して見えるようになったのだろう)」

「今まで付き回してごめん。最後に会話をしてからもう何年も経ったのに覚えてくれていただけで僕は何よりだよ」

「(本当は告白するつもりだったけど。智紘さんに覚えていてもらえてたって分かっただけで何だか満たされちゃったな)」

「そんな……そんな一方的に……私はまだ何も返せれていないじゃない。なのにもう消えてしまうというの」


 井本は完全に蒸発し、礼も後顔だけほどになってしまった。


「(最後に好きな子に看取られて親友と仲良く成仏とは。まあ、悪くないかもね)」

「ううん、何を言ってるんだ。僕は智紘さんにすでに助けられてばっかりだったんだから」

「待って! ねえ!」

「ありがとう。そして、さようなら」


 こうして礼という存在は最大の目的を果たし消えることが出来た。もはや、何も思い残すことはない。


「(ああ……霊に最初なった時はどうなることかと思ったけど、成仏ってこんなに清々しい気持ちになれるんだな。だからかな、余計贅沢が浮かんでくる。もし、もし最後に心残りがあるとするならルリ子や前川さん達にもちゃんとお別れの挨拶がしたかったかな)」

次回は今日の夜九時になります。

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