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4章2

「じゃあ猫ちゃんはとりあえず私の家で飼うことにするね」

「うーん、どうしたらいいんだろう」

「どうしたのルリ子ちゃん、もしかして猫ちゃん飼いたかった? まあ、私も飼いたいから簡単には譲れないけどね!」

「いやちょっと気になることがあってね。わずかだけど猫ちゃんから存在力を感じるの。猫は存在力を溜めやすいとは良く言うんだけどそれにしてはちょっと多い気がして」

「そうなのか。それでこの猫の存在力ってのはどれくらいなんだ?」

「うーん、少なくとも今感じるだけでも高嶺君の三倍くらいはあるよ」

「わずかでそれって僕どれだけ存在力ないんだ」

「それでも高嶺君この前の依頼の一件から大分存在力溜まってきてるけどね」

「え? そうなのか?」

「うん、依頼がうまくいって高嶺君の存在が若干彼に潜在的に認知されたのもあるし、憑依したのも他の人から視認される機会が多かったみたいだから間接的に溜まったのかなー」

「(それは良かった、じゃああの本屋での恥ずかしい出来事も無駄ではなかったわけか)」

「でもそれだけ溜まってもねこまるはそのさらに三倍もあるんだろ?それって相当なんじゃないのか? それにあの子に僕が見えたってのも気にはなるし」

「そうなんだよねー、だから最初はうちでたまに調べつつ和紗ちゃん家に預けるのでも良かったんだけど、和紗ちゃんに預けちゃって何か影響が起きないかどうか」

「なんだそんなこと?任せて!いざとなったらチュパカブラとビックフットを家の前に護衛させるから」

「(なんだその絶妙に役に立たなさそうな護衛は)」

「んー、うちの神社でとりあえず清めてもらうっていうのもいいと思うけどねー」

「それいいね!あ、そうだ!なんならこの数日ねこまるの世話も兼ねてルリ子ちゃん家で合宿することにしようよ!」

「(相変わらず突拍子もない前川さんである。もう慣れたけど)」

「それいいねー」

「じゃあとりあえず私は合宿の用意しに一旦家に帰るから先にねこまるはとりあえず神社で先にお清めね!」


 いきなり増えた猫に騒音レベルを一人で五十dBは上げそうな人のお泊りに神社の防音設備のレベルを心配する礼であった。



「ふむ、これは変わった猫だね。存在力が動物の域を超えている」


 ルリ子のお父さんはその猫をまじまじと色んな角度から見てそう呟く。


 ねこまると呼ばれるその猫は嫌そうな目つきで睨んでいるが、爪を立てたりしないあたりそこまで好戦的ではないようだ。


「で、この猫はどこから拾ってきたのかな?」

「今お父さんに前に言われたように人助けをしているんだけどそれで依頼人の女の子が前に拾ったらしいんだよー」

「ふむ。そうするとこの猫が何者なのかは実際のところ分かってないわけか…とりあえず除霊式をかけてみて何もなければこの猫を明日返してあげなさい」

「それがねー、この猫ちゃんを数日だけここで預かろうと思ってるんだけど」

「え、それはまた急だね」

「ごめんー、私も庭にいる野良猫とケンカとかしないかは心配なんだけど」

「ああ、それは私がなんとかするにしてこの猫は存在力が少しばかり大きい。その拾ったという飼い主さんは絶妙なバランスで影響が出なかったかも知れないけどほかの人が飼う場合どうなるか分からない、気をつけなさい」

「そんな存在力にも絶妙なバランスってあるんですか?」

「ああ、存在力を持つ人が特殊な体質だったり地形がその存在力を打ち消すような地形だったらその周りの人間や生物には影響が出ないんだよ」

「(へえ、そんなことがあるのか。じゃあもしかすると麗華ちゃんが飼っていた地形はたまたま運良くねこまるの存在力を打ち消していたのかもしれないな)」

「後、猫の世話は難しいから人様のものなら尚更大事にするんだよ」

「うん、分かったよー」

「そういえば最近高嶺君大分存在力が増してきたようだね」

「えっ! 分かるんですか」

「はは、そりゃ分かるよ。だって最初見つけた頃の君はそれこそ捨てられた猫のように弱っていたし、廃人と大して存在力に差がなかったからね」

「(ルリ子も言っていたけどそんなにクソザコだったのか僕……)」

「これなら四十九日までに未練を果たせば成仏出来るんじゃないか、どうだい? 未練は果たせそうかな」


 未練か。正直その対象である智紘さんには認識さえ未だにしてもらえていない状態だ。


「……」

「ううむ、その感じはなかなか苦戦しているという感じかな。まあまだ時間はある、他にも思い残すことのないようルリ子に何でもわがままを言うといい」

「えー!! 私もうかなり頑張ったよー! もう最近あまり家にも籠もれてないし」


 ルリ子はぶーぶーと文句を垂れる。


「(確かに僕と出会う前はずっと部屋で一人で過ごしていたわけだもんな。ある意味ルリ子も霊に取り付かれているようなのかもしれないな)」


 ゴーン、ゴーン。


 そんなことを思い少しだけ同情をしているとインターホンが鳴る。滅多に家のほうに訪ねてくる者がいないので最初は近くに寺も併設してるのかなんて思ったものだがどうやらお父さんが鐘の音が好きで付けたらしい。


 玄関に出迎えると前川さんが登山前のようなリュックを抱えて立っていた。


「(一体何泊する気なんだ……)」

「ごめんごめん、ねこまるの遊び道具とか夜遊ぶものとか探してたら予想以上に時間かかってしまって」


 前川さんはてへへと舌を出す。


「大丈夫だよー、晩御飯もまだ?」

「うんまだ! え!? もしかして作ってくれるの?」

「うんー! お母さんが」

「(まあそりゃそうでしょうな)」


 ルリ子のここ数週間を見ている限り今日は隣町に行ったという大業績を残していることからもうガソリンなんてこれっぽっちも残っていないことは明白だった。


 そして二人は晩御飯を盛大ににぎやかく食べるとお風呂に入りに行った。


「(お風呂……)」


 礼はそこで良からぬ想像をしてしまう。そう、普段もルリ子と一緒に住んでいるから毎日入浴という行為が行われていることに特別変わった感情を抱いたりはしないのだが。


 しかし、今日はその環境が少し違う。そう、『女の子同士』というオプションがついてしまっているのだ。


 そこそこ一般の浴槽よりかは広いとはいえ、二人も入れるほどの大きさはない。湯気が沸き立つ中二人は仲良く密着して入る。


「やっぱルリ子ちゃん大きいなあ! 寝る子は育つっていうけどさすがに育ちすぎだよ! 半分分けろい!」

「きゃっ! 和紗ちゃんやめてよー! あっそこはダメッ……」

「はっ、一体自分は何を。いかんいかん。新作小説でも見ながら落ち着くか、あ、それもルリ子にページめくってもらわなきゃ読めないんだった」

「おい」

「昼寝でもするかー。って眠るのもムリか」

「おい」

「あれ?」


 ふと声のする方へ意識を向ける。そこにはお父さんが除霊をするために一時的に預けていたはずのねこまるがいた。しかし、なぜか今朝とは様子が違う。


「麗華のところへ連れて行け。丑の刻になってしまうと大変なことになる」


 ねこまるは潰れたヒキガエルのような低い声でそう言う。何がなんだか分からないがその剣幕から穏やかではないことが分かる。


「ルリ子と前川さんはまだお風呂に入ってるけど」

「あの二人はいい、とりあえずお前だけでも付いて来い」


 それだけ言うとねこまるはいつから開いていたのか分からない窓から外に消える。


「!?」


 礼は慌てて窓の外を見る。ねこまるはすでに下の玄関まで降り立っていた。


「(もうあんなとこまで……はあ、とにかくここから降りないと。でも幽霊ってもっとふわふわ飛べたり出来ると思ったんだけど、大して変わらないよな。)」


 礼は一瞬飛んでみるかとも思ったが、それはまたの機会にすることにした。

次回は今日の夜九時にあげます。

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